記録5 業務外対応・後編『新しい探偵事務所の名前考えないと』

「そんな……先輩!」


 捕えた犯人から公乃が爆弾と部屋に閉じ込められている事を聞いた仁和は制止しようとする刑事達の手を見もせずに叩き落とし、商業ビルの方へと駆けていく。


 だが、避難して外に出た買い物客達が邪魔で思うように前へ進めない。


 募る仁和の焦燥は爆発音と商業ビル北部上層階から上る黒煙により深い後悔と絶望となって重くのしかかる。


「仁和、仁和!」

「先輩……私が電話切らなければ——」


 跪いて蹲り大粒の涙を零し、何度も何度も謝る仁和。


「仁和?」

「先輩のおかげで、これだけの人の命が救われましたよ」


 仁和は涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げて黒煙が上っていく先を見つめ、その先にいるはずのない公乃に語り掛ける。


「私達、互いの足りない部分を補い合える良いコンビでしたね。私は、もっと……先輩と探偵をしたかった。先輩……大好き——です!」


 そう叫んでも、その先に公乃はいない。


「ね、ねぇ仁和?」

「もう! 先輩、邪魔しないでください! 私は今、先輩と——先輩と……先輩!?」


 なぜなら、公乃は生きて仁和の後ろに立っているのだから。埃まみれの姿で。


「さ、帰るわよ。シャワー浴びたいし」

「はい! でも、どうやって……」

「面倒だから勝手に読み取って」

「その物言い、本当に生きてた……」


 仁和は先とは逆の理由で涙を流し、笑みを浮かべている。言われた通り仁和が公乃の心を読み取ると爆弾がカウントダウン開始した瞬間に換気扇を蹴破り、ダクトを伝って脱出する公乃の様子が彼女の脳裏に浮かんだ。


「って、私達の独立決まったんですか!?」

「そうよ。仁和は喋らなくても伝わるから楽で良いわ。でも、これだけは自分の口で伝えたいから聞いてくれる?」


「はい!! 先輩、こちらこそよろしくお願いします!」 


「ちょ!? まだ言ってないわ! まったく、これからも一緒に探偵しましょ?」

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その探偵達は推理を必要としない 真偽ゆらり @Silvanote

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