記録4 業務外対応・前編『これって残業代を請求すればいいのかしら?』

「これは……ダメね。届かないわ」


 公乃が見上げる先にあるのは数字が映る液晶が組み込まれた基盤が幾つものコードで金属の箱と繋がれた物体——時限爆弾。


 休日に公乃が仁和と大型商業ビルに買い物しに来ていたところ、公乃が「な予感がする」と直感が告げるままに移動して発見した。その数は十三個にも上り、公乃の身長では届かない絶妙な高さに設置されているのが最後の一つ。


 他のは全て公乃の手により解除済みであり、最後の一つも他のと同じく公乃が直感でコードを切っていけば解除は容易い。届かないのなら踏み台でも探して持って来ればいいのだが、そうもいかない理由がある。公乃は爆弾発見を優先するあまり最後の爆弾を見つけた部屋に犯人によって閉じ込められてしまっているのだ。


 公乃の仁和に負けず劣らない身体能力の跳躍力を持ってすれば手は届く。しかし、飛び跳ねながらの爆弾解除など自殺行為でしかない。


「あ、もしもし仁和?」


 今、公乃にできる事は電話を掛ける事くらいだろう。


「あ、先輩! 犯人グループあと一人何処か分かりますか? 他は全員捕まえたので」


 公乃が直感で爆弾を探す一方、仁和は犯人達を捕まえていた。心を読んで特定し、探されている事に気づかれる前に奇襲して。


「そうね……南の非常階段が気になるわ。それで北の——」

「南の非常階段ですね! 刑事さん——」


 公乃に寄せる信頼が故か仁和は犯人の居場所を聞くやいなや電話を切り、刑事達を連れて南の非常階段へと駆けていった。相棒が解除不能な爆弾と部屋に閉じ込められているとも知らずに。


「もしもし所長ですか?」

「あ、公乃? ちょうど良かった。私、歌手デビューが決まったの! 事務所は公乃と仁和にあげるから応援してね!」

「あ、はい。おめでとうございます。そ——」


 二人の独立が決まった瞬間だった。

 電話を掛け直しても繋がらない。


 少し大きめの換気扇の音がこだまするほどの沈黙を爆弾のカウントダウンを告げる電子音が切り裂いた。


 爆発まで残り三十分。

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