記録3 捜査協力『途中式の重要性? 解決できればいいのよ』

「ここが殺害現場だ。荒さんでくれよ」


 のど自慢大会に出る探偵事務所所長の中島に代わり殺人事件の現場へと捜査協力に連れてこられた公乃と仁和。二人は人の形に貼ってあるテープを見て、死体を見ずに済んだ事に胸を撫で下ろした。


「もし遺体を確認したいのであれば司法解剖に立ち会っても——」


「「結構です」」


 殺人事件の捜査協力を任された時は不謹慎ながら心を躍らせた二人だったが、殺害現場の陰鬱な雰囲気に気が滅入りつつあった。


「仁和、なんか分かる?」

「あの鑑識さん、今日結婚記念日だったみたいです。先輩はどうですか?」

「あっちで指紋取ってる鑑識とさっきの刑事は付き合ってると私の直感が告げてるわ」

「先輩、二人が付き合ってるのは秘密みたいですよ……本人達的には」

「事件現場より刑事達を見てた方が面白い気がするわ」

「ですね〜」


「おい君たち、うちの職場恋愛模様はどうでもいいから早く犯人を推理してくれないか」


 捜査指揮を取っている中年刑事が推理を要求しているが、二人に事件の概要も捜査情報も何一つ伝えていないよう指示していた。どちらが上か知らしめる為にと。だが彼は知らない。後に第六感とまで呼ばれる公乃の直感が、仁和の心を読む力が既に仕事を終えている事を。

 

「なんで推理なんてしないといけないのかしらね。犯人なら分かってるのに」

「は? なにぃ!?」

「容疑者ってあの三人よね?」


 公乃が指差す方向には男が二人、女が一人。


「あ、ああ。被害者の友人達だ」

「タンクトップの方が犯人で半袖の男はなんかの形で関わってるわ。女の人は事件とは無関係ね」


 いきなりの犯人断定に中年刑事は反応が遅れる。


「な、何故彼が犯人だと?」

「何故って言われてもね」


「根拠は?」

「勘!」


「……証拠は?」

「それを探すのは警察の仕事でしょう? あの三番の痕跡が気になるわね」


「…………犯行の動機は?」

「さぁ? 仁和、お願い」

「はい! 痴情のもつれです」

「被害者は男だぞ。それが犯人の動機だとするなら犯人はあの女になるだろ」

「あの人達、被害者の男性も含めて同性愛者ですね」

「ん? まて、あの美女も同性愛者なのか」

「男同士の絡みが生で観れるので仲良くしてるらしいですよ」


 中年刑事は頭を抱え、苦渋の決断を下した。

 

「お前達、巫山戯ているのか? 中島探偵には借りがあるから一応その線でも捜査はしよう。だが違ったら次は無いし、中島探偵が築き上げてきた信頼をぶち壊す事になる覚悟はできてるだろうな」


 この一回、この一回だけ信じてみると。


「捜査協力よりのど自慢大会優先する所長に信頼があったなんて驚きね。もちろんそれで構わないわ。もし次に私の勘と仁和の力に頼りたくなったら事件現場に呼ぶんじゃなくて、容疑者を取り調べ室に入れてマジックミラー越しに見せてくれればいいから」


 公乃は中年刑事にそう告げると仁和と共に事務所へと帰っていった。




 そして後日、警察から公乃と仁和に度々捜査協力依頼の電話が掛かってくる事になる。


「あ、空戸大先生に相田大先生! こないだも助かりました。それでですね、また先生方のお力をお借りしたい事件がありまして——」

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