記録2 ワンコイン調査『これ、ある種の高度な惚気だったわね』
「え? 貴女が担当の探偵さん!?」
依頼人がちびっ子探偵を見て驚くのは、ここ中島探偵事務所ではお決まりのやり取りとなりつつある。夫婦連れの依頼人は格安の依頼料に引かれてやって来た。ちなみに事務所の女所長はのど自慢大会の為にカラオケで練習中で出社すらしていない。
依頼内容は浮気調査。
自分が調査される事、にも関わらず何故か自分まで探偵事務所に連れてこられている事に驚いてる旦那を意に介さず公乃は口を開く。
「うん。旦那さんは浮気してない。以上」
「「え?」」
「それだけ?」「そうよ」
「ほ、ほら浮気なんてしてないって言ったじゃないか」
「納得できるわけないでしょ!? 探偵さん、何か根拠とか理由はないの?」
公乃が断言した根拠は直感——「そんな気がしたから」に過ぎない。だから依頼料が
「これ以上は別料金」
「いくら!?」
「根拠や理由なら
「はい、
「毎度あり。仁和、頼むわね」
公乃は奥さんから代金を受け取ると仁和を手招きして入れ替わるように依頼人達の正面に座らせた。
「あ、貴女が教えてくれるんじゃないの?」
「根拠とかそういうのは仁和——こっちの子が担当なの」
「はい。旦那さんがすれ違う美人に目移りする素振りを見せるのは……」
「見せるのは?」
「奥さん、貴女にヤキモチを焼いて欲しいからですよ」
「「え!?」」
まさかの理由に戸惑う妻と内心を言い当てられて驚く夫。心情的に奥さんの味方な仁和の口はまだ止まらない。
「奥さん、ヤキモチ焼くときの頬を膨らませるがあるそうですね」
「え、ええ。言われてみれば確かに」
「旦那さん、その表情が堪らなく好きみたいで態々好みでもない女性に目移りしている振りをしているんですよ」
「へ〜」「あ、あのもうその辺で……」
旦那が恥ずかしがろうが既に料金を貰っている以上、仁和のターンはまだまだ続く。
「帰ったら旦那さんの机にある赤いノートを読むと良いですよ。時折奥さんへの抑えきれない愛をポエムにして
「も、もうやめ——」
「来年お子さんが大学に行って家を出たら貴女と二人で過ごせるのが楽しみで仕方なくて色々とサプライズを計画してるみたいです」
頬に手を当て照れる妻、顔を真っ赤にして沈む旦那。今尚心を読んでいる仁和の追撃はまだ終わっていなかった。
「あら〜『照れてるお前はなんて可愛いんだ』と旦那さんは考えていますよ」
「な、何故分かっ……」
「まぁ、仁和が目の前に座っても目移りしなかった時点でお察しよね」
仁和は普段の野暮ったい格好ではなく、公乃がコーディネートした非常に男受けしやすそうな服を着ていた。が、旦那は事務所に入って来た時も仁和が目の前に座った時でさえ仁和の方に興味を示していない。
「確かに。うん満足したわ、ありがとう」
旦那の様子を見て納得した奥さんは二人に礼を言うと足早に事務所を去っていった。旦那を一人置いて。
「ねぇ、羞恥で動けないかしらないけど奥さん帰ったわよ。いいの?」
「ぅ……はい。えっと、何が?」
「奥さん、ポエム読む気よ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます