その探偵達は推理を必要としない

真偽ゆらり

記録1 対怪盗案件『怪盗さん、私達がトラウマになったみたいですよ?』

「あなたが怪盗ね」


 英国の某名探偵を意識した、いかにもな茶色の探偵服に身を包んだ小学校高学年の平均身長にも満たない小柄な少女が指差したのは怪盗を捕まえる為に集まった警官隊の一人だった。


「ふ、ふふふ。よく見破ったね探偵く……探偵ちゃん。僕の変装におかしなところは無かったはずだけど、どうして分かったのかな?」


       「勘!」


「「「「「…………………………」」」」」


 怪盗と怪盗を捕まえようと取り囲む警官隊、その他関係者をまとめて沈黙させた彼女の名は空戸そらと公乃きみの。一応、探偵である。



「あ、私煙たいのはちょっと……」

「っ!?」


 沈黙の中、警官隊に化けた怪盗が逃走を図るべく投げようとした煙玉が怪盗の手から離れる前に抑えた女性もまた探偵だった。

 野暮ったい服で豊満な身体を隠そうとして逆に魅惑的な身体つきを際立たせてしまっている彼女の名は相田あいだ仁和にわ

 彼女は怪盗の変装を暴いて踏ん反り返っているちびっ娘探偵の相棒で武力担当の後輩だったりする。


「なるほど。怪盗さんには一度寝てもらった方がちゃんと連行してもらえそうですね」


 怪盗は逃げられない。何故か逃げようとする全ての動きを事前に察知され、碌に動く事さえ叶わずに組み伏せられる。そして彼女の精確無比な締め技が怪盗の意識を一瞬で刈り取った。あれでは押し当てられた柔らかな感触を味わう事もできなかっただろう……可哀想に。それと失神と睡眠は別物である。


「えっと……じゃあ、起こさないようにお願いします」

「逮捕協力ありがとう。そうだ、こん——」


 彼女——相田仁和に近づく際、邪な気持ちは抑えておく事を推奨したい。ニヤけた顔で怪盗を受け取るイケメン警官の二の舞になりたくなければ。


「あの、自分から技を掛けられたがる変態さんはちょっと……ごめんないですぅ」

「——どぉ……」


 誘いを食い気味に断って相棒の元へ移動する相田仁和は心が読める。


「はい! 公乃先輩もお疲れ様です!」

「ほんと、仁和には喋らなくても伝わるから楽でいいわね。でも、言わせてもらうわ。仁和もお疲れ様!」


 美幼じょ……美少女と美少女が笑い合う様子は秒速で振られていなければずっと見ていられただろう。男には運んでいる気絶した怪盗の顔が笑っているように見えた。しかしそれは男の主観に過ぎない。少なくともこの時怪盗は確実に気を失っていた。


「宝石も無事だし依頼達成ね。まぁ仮に怪盗が逃げても後は警察の仕事だし、帰るわよ仁和」

「大丈夫ですよ先輩。怪盗さんも寝ていれば悪さできませんし」

「それもそうね」

「ですです」


 仁和がたわわで柔らかな感触を堪能させる事なく絞め落とす姿は傍から見た男達からすれば怪盗を羨ましいと思ってしまう光景だった。


 怪盗のくせに羨ましい思いしやがって。何故笑った顔で寝てやがる。あれの感触を思い出しているのか、それとも俺の無様な姿を見て嘲笑ってやがるのか。と、怪盗を運ぶ警官の男は苛立ちを募らせていた。そしてその矛先は八つ当たりとなって怪盗へと向けられる。


「チッ……おい、起きろ! 立って歩け!!」



「「え?」」


 

 探偵少女二人が振り返ると目を覚ました怪盗が少しふらつきながらも一瞬で拘束を脱し、逃げていくのが見えた。


「確かに。先輩が思っている通り、これは警察の落ち度ですね。帰りましょうか」

「そうね。帰りは安全運転で頼むわよ? それじゃあ刑事さん、もし御用の際は私達が所属する中島探偵事務所にご依頼下さい」





 これは後に『第六感探偵』と眉唾な通り名で呼ばれる空戸公乃と『読心探偵』と少し不名誉のある響きな通り名を冠されてしまう相田仁和が現在所属する中島探偵事務所から二人で独立して事務所を構えるまでの事件記録である。

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