敵陣への誘い
トウヤが放った一撃は男の肩から腰までを両断した。魔力の込められていないただの刀で硬い骨ごと両断するか。流石の実力だな。
そう思った次の瞬間、男の姿が消えた。
「消えた……?」
「手応えもなかったし、多分幻術の類だね」
犯人は幻術使いだったか。確かに幻術を用いれば姿を消すことは可能だ。咄嗟に偽物を作り出せるだけの実力があることを考えると、逃げに徹されると捕まえようが無い。
「どうする?一旦報告に戻るか?」
「それよりいい方法があるよ」
ニヤッと意味深な笑みを浮かべるトウヤ。何をするつもりだろうか。
「レイ、いける?」
「多分……」
レイは目を瞑ると、鼻から大きく息を吸い込んだ。
「うん……いけるよ」
男が隠れていた木の影からゆっくりと南へ進んでいく。
まさかこの女あの短時間で男の匂いを嗅ぎ分けたのか?初めに視線に気づいたことといいどんな五感してるんだ……。
しばらく歩き続け、山から程ない住宅街を抜けるとビル街が見え始めた。
「なぁ、これ本当に合ってるのか?」
「うん。方向は合ってると思う。正確な位置は分からないけど、さっきの人の匂いが続いてる」
山から出て十五分ほど歩いた末に、一つのビルの前で立ち止まった。
「匂い消えちゃった」
「ってことは……このビルの中にいるってことか?」
「消えたってことはビル全体に結界を張ってるのかもね」
目の前のビルは軽く見積もっても三十階はありそうな高層ビルだ。その全域を覆える結界となると、それこそ高位の結界術師が何人もいるだろう。
報告に戻るべきか思考を巡らせていると、二人はビルに迷いなく進んだ。
「待て待て待て待て」
「「え?」」
「え?じゃないだろ。何で躊躇しないんだよ!」
二人はお互いの顔を見合わせると小さく笑って__
「「僕(私)が負けるわけないでしょ?」」
と言った。
髪や瞳の色に違いはあるものの、その自信満々な笑顔に俺は前世のトーヤとレイの面影を感じた。
「わかった。でもやばいと思ったらすぐに逃げるからな」
根拠らしい根拠はないが、何となくこの二人なら大丈夫なような気がする。
閉じられたシャッターを持ち上げて中に入る。これでレイの勘違いだったら三人とも不法侵入で捕まるだろうか。まぁ警察に捕まっても神楽坂学園の生徒だと分かれば釈放されるだろう。
「結界に侵入を拒む効力はないみたいだね」
「そりゃあ表向きには普通のビルとして利用されてるだろうし、入れないと逆に怪しまれるからな」
中には驚くほど物が置いておらず広々としていた。
順番に一つ一つ扉をああ開けていくが、どの部屋も無人な上何も置いていない。
「もしかしてこれ全フロアしらみ潰しに探すのか……?」
「「……」」
これは二人にとっても想定外だったらしく、表情が少し引きつっている。
「帰ろうか」
「そうだね!報告もしないとだしね!」
さっきまでの自信は何処に行ったのか……だが撤退は賛成だ。三人でこの広いビルを捜索するのは無理があるだろう。
一時撤退のため入ってきたシャッターまで移動すると、突然足元が光った。
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