山中の調査

 件の山中。魔獣の大群の死体があったという場所に、俺、トウヤ、レイの三人は来ていた。

「ここが例の場所?」

「死体はもう処理されちゃってるみたいだね」

 トウヤの言う通り、死体は全てGSSの隊員によって回収されている。今では血痕すら薄れてしまっていた。

「これじゃ調べても何も分かりそうにないね」

「まぁ、プロの隊員が調べても何も分からなかったんだから、俺たちじゃ分かりようもないけどな」

 つい先程、ここにくる前に理事長から渡された資料には、昨日までの調査状況が記されていた。

 死体の状態はかなり悪く、刃物が使われたと言うことしか分かっていなかった。発見が遅れてしまったためか、隊員がこの場にたどり着いた時には魔力の痕跡すら見つからなかったという。

「調査って言ってもここまで何もないんじゃ調べようもないな」

「ここでずっと待ってたらまたその人来るかも!!」

「流石にそれは無いでしょ。僕が犯人なら人前に姿は見せないし」

「えー!ボクなら『ククク……見たな』って斬りかかるよ」

 顔を手のひらで覆う、いわゆる中二ポーズでそう言った。

 それは君だけだろう……と心の中でツッコっみを入れつつ、周囲を見渡す。

 ぱっと見は何の変哲もない森だが、空気中の魔力、魔素の濃度が桁違いに高い。これは魔獣の発生率が高いというのも頷ける。

 ここは一般人にも辛い環境だろうな。

「見張りはいい案だと思うけど、三人でやるのは難しいんじゃないか?これだけ魔素の濃い場所に長時間留まるのは良くないし」

「なんで?」

「魔素の影響を受けるのは人間も同じだからだよ。魔素の濃い場所では魔力のコントロールが難しくなるし」

「逆に魔素を利用するタイプの術師には最高の環境だろうね」

「あ〜……妖術だっけ?」

 妖術は魔素に炎や水といった属性を付与して操る術だ。魔力消費が少なく高い制圧力を持っているが、魔力との親和性が低いため防御力に欠けるという側面もある。

「ま、俺たちには関係のない話だけどな」

「とにかくどうやって調査するか方向性は決めておこうか」

「そうだな」

 俺たちの任務内容は明言されていない。というのも、この一ヶ月間の調査では驚くほど何も判明せず、GSSは人海戦術を取ることにした。

 とにかく人手を増やし、犯人の発見を急ぐのが上の意向だ。神楽坂学園からは各学年の特別クラス生数人と、高等部の斥候に長けた者が選抜されているらしいが、その全体数は知らされていない。

「他の人に頼んで人数を増やすとかはどう?」

「それは難しいと思うよ。まず任務自体に守秘義務があるし、俺たちの他に誰が参加してるのかわからないだろ?」

「交代制での監視なんて正規の隊員たちがやらなかったとも思えないしね」


 何かいい案は無いか会議を始めてから数分、レイがそわそわし始めた。

「どうした?」

「いや……なんか見られてるみたいで気持ち悪い」

「「!?」」

 俺とトウヤが周囲に注意を向ける。人の気配は一切感じない。

「レオ!!」

「ああ!!結界術【天眼】」

 空間に干渉する結界術を使い、隠された存在を探る。

「見つけた……十時の方向、距離二十メートル」

 俺がそう呟くと同時にトウヤが刀を抜いた。一見何もない木の影を刃が走る。すると、一人の男が姿を現した。

 男は小さく舌打ちをすると、俺たちに背を向けて一目散に逃げ出した。

「逃がさないよ」

 刀を片手で構え、一直線に間合いを詰める。高速移動からの袈裟斬り……霧燕か。

 霧燕は前世でトーヤ・エディットが扱っていた剣術の一つだ。似ているだけか……それとも……。

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