GSSと謎の組織
「こちら第三小隊、魔獣の群れを発見した。戦闘を開始する」
東京の某所の山中。ゲートの影響で魔獣の巣窟となっているこの場所には、定期的にGSSの隊員が派遣される。
標準装備であるアサルトライフルを使い、次々に魔獣を倒していく。
「それにしてもすごい数ですね。こんなにたくさんどこに居るんだか」
と、一人の隊員が愚痴をこぼす。
「お前授業ちゃんと聞いてたのか?ゲートから発生する魔力の影響でいろんな動物の生態系が変わってるんだ」
「そりゃもちろん知ってますとも。魔力を取り込んだ生物はあらゆる能力が向上する。結果として高い生存能力と繁殖能力を獲得し、その数を増やした。ですよね」
「その通りだ。そして厄介なのが魔獣化だな。魔力を過剰に取り込んだ個体は凶暴性を増す。というよりは暴走状態といった方がいいだろうな」
会話をしながらも正確に魔獣を撃ち抜いていく隊員達。その腕前は流石という他にない。
『こちら第二小隊、西区画にて魔獣の死体を多数確認。繰り返す。西区画にて__』
突如入った一つの通信。
「こちら第三小隊、第二小隊、状況の報告を求む」
『魔獣の数は凡そ三十。全て刃物のようなものに首を刎ねられている。その他切り傷多数。付近に人の姿はありません』
報告の内容は、聞いた者全てが耳を疑うものだった。
魔獣は魔力によって凶暴化した自然動物の総称。その身体能力は元来のそれを遥かに上回っている。それだけじゃない。魔獣化した生物は取り込んだ魔力を全身に纏っており、普通の武器では傷をつけることすら困難だ。
そのため、一部例外はあるものの、魔獣の処理は魔力を込められた特殊装備を持つGSSの隊員だけが戦闘を許されている。
だが今回の報告では、明らかにGSS隊員ではない人間が関与していた。
「一体誰がこんなことを……」
その声に答えられる者は居なかった。
◇◆◇
それから一ヶ月が過ぎた。
新しい学園での生活は大変なことも多いが、一ヶ月もすれば慣れてくる。
実践的な訓練として授業の半分近くが外で行われているのは少々意外だったな。
今日の【魔術】の授業も例のごとく実技演習になっていた。
これまでの授業でかなり知識も増えた。この世界での魔術とは【陰陽術】【結界術】【忍術】の総称であり、やはり俺が知るものとは全くの別物だった。
「……行くか」
授業終了のチャイムを合図に、荷物をまとめて教室を出た。特別クラスの教室は北校舎の四階に位置している。次の目的地は同じく北校舎の二階にある理事長室だ。
入学してすぐに支給された学生証端末。学園からの連絡事項は全てこの端末に送られてくる。今朝『放課後に理事長室へ』と書かれたメールがこの端末に届いた。
二階まで降りて理事長室の方に目をやると、二人の生徒が見えた。
「体調はもういいのか?千崎くん」
「トウヤでいいよ。ただのサボりだから気にしなくていい。それより、やっぱり君も呼ばれてたんだね」
悪びれる様子もなくサボりを自白する男。この男に試験の成績で負けているなんて考えたくないな。それより、やっぱりとはどういうことだろうか。
「ボクも呼ばれたからね。レオくんも呼ばれてるだろうと思ったんだ」
ひょこっとトウヤの後ろから顔を出す低身長女子。純日本人にも関わらず銀色の髪をした珍しい子だ。確かアルビノがどうとか言っていたがあまり覚えていないな。
「鳴宮さんも呼ばれてたのか。って……俺が呼ばれてるんだから当然か」
「レイでいいよん」
この場にいる三人は全員が特別クラス。それもトップ三席だ。この中では俺が一番下になる。
「おしゃべりは後にしよう。まずは理事長から話を聞かないとね」
そう言って扉を開くトウヤ。八畳くらいだろうか、大きな扉に比べてあまり広くないようだ。
大量の書類が積み重ねられた机の奥からガリガリと何かを書いている音が聞こえる。どうやら仕事中らしい。
「ん?もうこんな時間か。よく来たな」
「来たよおじちゃん」
「「おじちゃん!?」」
「え?だめ?」
いやいや、理事長をおじちゃん呼ばわりは良くないだろ。
「ここは公式の場じゃないから構わんぞ」
いいんだ……。
トウヤと顔を見合わせて苦笑いする。理事長は気さくな人柄のようだ。
「早速本題に入ろうか」
その一言で場の空気が一変する。強者の風格とでもいうのだろうか。張り詰めるような、冷えていくような感覚がある。
「君たち三人にはとある調査任務を請け負ってもらう。これはGSS直々の要請だ」
「調査任務……ですか。一年生の我々が選ばれたということは危険性は低いのでしょうか」
「いや、危険度はそう低くない。詳細は書面で確認してもらうが今回の任務はとにかく人手が足りていない。二、三年生からも優秀な生徒に要請をかけているところだ」
なるほど。頭数を揃えるための処置というわけか。調査対象は危険だが、そもそも危険な状況になる確率が低いといったところだろう。
必要になる書類を受け取ると、一旦帰宅することになった。
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