第108話 戦闘開始

 俺と宇宙人との総力戦が幕を開けた。


 草原地帯を進んでいると草影や地中から突如としてバッタ型の敵が飛び出してくる。尻から圧縮したガスを噴射できるようだ。音速のスピードで襲いかかって来た。


「砕け散れ、弱き星の王よ!」


 ある者は大顎で喰らいついて来て、ある者は腕から生えた鋭利な棘で突き刺してくる。とにかく数が多い。イナゴの大群のように次から次へと増えていく。


 四方八方から突っ込んでくるが、俺は構わずに突き進んだ。


 バシュンバシュンバシュン──!!


 俺に触れるそばから、バッタたちが砕け散っていく。草原地帯を抜けて振り返ると、俺が通った道の左右に死骸が山となっていた。


 そのまま進むと、次は見覚えのあるビル群が現れる。


「ここはタイムズスクエアってやつか……」


 ズン……ッ! ズン……ッ!


 下から突き上げるような地響きがしてビルの奥から何かが現れた。


「早かったじゃないか」


 黒光りする巨体が立ちはだかる。見るからに硬そうな外骨格に包まれ、その体躯は優に五メートルを超えていた。


「バッタどもにお前の相手は務まらなかったようだな」

「次はカブトムシ……か」

「我が名はキプシット。金属に覆われた惑星D-RⅡの鉱石を取り込んだ俺の肉体は、我が種族の中でも最硬度だ。こんな辺境の惑星のどんな金属よりも硬いぞ!?」


 ドゥゥン!!


 拳を突き合わせて姿勢を低くした。


「硬さは、痛さだ。それを身を持って知るがいい!!」


 ドヒュッ!!


 残像を残し、相手が消える。


 あんな巨体でよくもここまで動けるな……。


 俺は真横から体当たりされ、吹き飛びながらそう思った。スピードもそこそこあるし、防御力はエヌピシよりも高い。


「ダラシュラララララ──!!!!」


 猛スピードで追撃を仕掛けてくる。ビル群が次々と倒壊していった。


「なかなか硬いじゃないか」

「それはどうも」

「着ている鎧が、な?」


 にやりと笑うと指を鳴らす。


 シュルッ!!


「?」


 四方から細い糸状のものが手足に巻き付いてきた。昆虫の触角のようだが、先端が反り返り肉に食い込んでくる。


「それはメギドラ族の機能の一部を培養して造られた生体兵器の一種だ」

「へぇ……」

「すまないが、拘束させてもらうぞ? 俺の力をダイレクトに伝えるにはこれが一番だからな!」


 糸に触れた部分から煙が上がる。


「もう口も利けないだろ? その触角には強力な神経毒が含まれている。即死しないだけ褒めてやろう、流石は王だ」

「……」

「さぁ! これで、気持ちよく殴れるぞ!!」


 ドドドドドド──!!!!


 強烈な殴打の嵐が襲う。




「……ハァ、ハァ! 血の一滴さえ、流れないだと!?」


 しばらく殴り続けて、相手は驚いた。


「ま、この程度ならな」

「ッ!? 貴様っ、口が利けるのか!?」

「この程度の毒、すでに超越しているよ」

「なんだと……!?」

「それよりも、お前の方は大丈夫なのか?」


 俺は相手の拳に視線を落とした。


「クッ!! これは!?」


 拳の甲殻がひび割れて、血が滴っている。


「ご自慢の肉体より俺の鎧の方が硬いらしいな。イイ鎧だろ?」

「き、貴様……!」


 プチッ。


 拘束していた触角を爪で切ると、瞬時に敵の真下に潜り込む。


「!?」

「ちょっとだけ、本気で殴るぞ?」


 どぅ──!!


「?? か、身体が。あぁ!? 身体の中が熱いぃぃ」


 背中が赤くなって穴が開く。


「う゛! ぶべばぁぁ!?!?」


 体内が溶解し、マグマとなって外へ噴き出した。骨格の内部がすべて溶け出し、相手は殻だけになってその場に崩れ落ちた。


「へぇ、この外骨格は残ったか。地球にはない未知の金属はレアだな」


 【アイテムボックス】に収納して次のエリアに進んだ。




「今度は氷河地帯か。冷えるな……、ん?」


 氷山の上からこちらを見下ろしている者がいる。


「よくぞここまで辿り着いた!」

「今度の相手は蜂か」


 青白い模様の蜂型宇宙人が空に飛び立つ。


「私の名は、ドゥオバ! 地球の王よ、ここがお前の墓場だ!」


 鋭い羽音を立てて、ジグザグに旋回すると、背後に回り込んで尻から鋭い針を伸ばして来た。避けるが、針はSの字にうねって追尾してくる。想像以上にリーチがあるようだ。


 ガガガガガ────ッ!!!!


 一旦距離を取ると、相手も追撃を止めた。攻撃を受けた鎧を指で撫でる。滑らかだった表面が僅かにざらついていた。


 相当に硬くて鋭利な針のようだ。あれを喰らうと、【ステータス】では流石にダメージを負ってしまうだろう。


「俺の鎧に傷をつけるとは、やるじゃないか」

「光栄だ。だが今度は、確実に仕留めてやるぞ!」


 宙を舞い、再び襲いかかって来る。


 スピードが上がった。さっきのは本気ではなかったってわけか。


「魔剣──【黒曜の特大剣】!」


 俺は巨大な黒剣を出現させた。


 敵は間違いなく毒を持っている。こちらも少し、本気を出すか。


 敵は俺の周囲をトリッキーな動きで飛び回り、フェイントを掛けてくる。ある瞬間に、急接近した。が、次の瞬間には空高く垂直に舞い上がる。


 ブオォォォォン!!!!


 同時に、俺の全身を衝撃波が襲った。


「くっ! これは、高周波振動──超音波か!?」

「その通りだ。王よ」


 誰もいないはずの場所から声がした。ステルス機能が解け、俺を挟むように二体の敵が出現する。


 視えなかった。要塞に張られていたシールドと同じ技術か……。


「俺の名はヘルニオク!」

「俺はゾルニオキ!」

「俺たち兄弟の超音波攻撃を喰らえ!」

「まだまだ、上げてくぜ!!」


 キュオオオオォォォ──……!!!!


 更なる衝撃波が襲う。反比例して、聞こえる音域を超え、音は止んだ。頭が割れそうなくらいに痛い。それに身体中が沸騰しているように熱くなる。


「お前たちの技術力では到達できない超振動だ!」


 身を屈めたまま、俺は頭をブンブンと振った。


「本来ならば脳も、眼球も、体内すべての臓器が弾け飛んでもおかしくないんだがな。ここまで耐えれたこと、褒めてやる!」


 すっと立ち上がる。


「もう超越したよ。気持ちいいくらいだ」

「「なにっ!?」」

「今度はこちらから行くぞ」


 魔剣を構える。


「私を忘れてもらっては困るな」


 真上から声がした。ドゥオバだった。左右からすっと腕が伸びる。


「?」


 ずぶ……っ!!


 掌から伸びた二本の針が首に打ち込まれる。


「っ……」

「ある程度の毒耐性があるのは知っている。だが私の体内で作られし毒は、地球上には存在しない。お前にとっては未知の猛毒だ」


 どくどくと体内に毒が流し込まれていく。


 俺はよろけて膝を着いた。視界が狭まり目の前がぼやけていく。


 口の中、鉄の味がする。血か……。


「やがて全身の穴という穴から血が逆流し始める。残念だが、ここまでだ」


 痛みが全身を襲った。


「ヘルニオク! ゾルニオキ!」

「「おう!!」」


 ドゥオバの声に応じ、どうやら二匹は空へと飛んだようだ。


 ズゥン……!!


 振動の次に、浮遊感を全身に感じた。地面が消えたのだ。俺は何も見えないままに下へと落ちた。


「氷漬けにしたお前を我らが王エヌピシ様に献上する。ありがたく、喰われるがよい!!」


 耳の奥から、そんな敵の声がかすかに聞こえた。次の瞬間、強烈な圧力によってすべてがブラックアウトした。


 俺は氷床の亀裂、クレバスの中に閉じ込められたのだった。


「地球の王もここまでだな……」

「辺鄙な星の王にしては骨のあるほうだった」

「やれやれ、俺はもう少し楽しめると思ってたがね」


 ブゥン!!


「「「!!」」」


 俺は呑気に話している三匹の後ろに、【空間転移】した。


「き、貴様っ、どうやって!?」

「絶対零度のクレバスに閉じ込めたはずだ。なぜ生きている!?」

「それにこいつ、ドゥオバの毒が効いていないのか!?」

「そんなはずはない!」


 【絶対零度】だったのか。どうりで冷たいはずだ。


「毒なら、すでに超越したよ。お前の毒は、もう効かないぞ」

「ちょ、超越しただと……!?」

「ドゥオバ、ヘルニオク、ゾルニオキ。お前たちに感謝する。未知の技術、未知の毒……それを超えることで、俺はもう一段階強くなった」


 三匹に笑いかけると【魔剣】を振るい、俺は相手を細切れにした。




 それから三十分後。


 熱帯雨林地帯、東京、山岳地帯での戦闘に勝利し、俺は今、火山地帯で新たな敵と交戦していた。


 今戦っている相手は、焦げ茶色の鋼鉄のような身体をしていて平べったい。今までのどの敵よりも機動力があり、【ステータス】を視ても素早さはエヌピシを上回っている。あと【生命力】も桁違いだ。

 地球の昆虫で表現するなら、ゴキブリだった。


 ガシッ!!


「捕まえたぜ!」


 俺を掴むと、敵はそのまま火山の火口へダイブする。


「俺を道連れにして死ぬ気か?」

「道連れ? このケメク様のしぶとさを侮ってもらっちゃ困るぜ?」


 煮えたぎるマグマが近づいてくる。鎧がオレンジ色に発光して溶け始めた。


 この装備もここまでか。て言うか、一体何℃あるんだ?


「死ぬのは、お前だけだ──!!」


 ドボッ!!


 俺を抱きかかえたまま、ケメクはマグマに突っ込んでいった。そしてマグマの奥深くに潜っていく。


 五分後……。


 ケメクだけがマグマから飛び出した。猛スピードで斜面を駆け上がり、山頂から火口を見下ろした。


「っふう! 危ないところだった……! 流石の俺でもあれ以上浸かっていると死んじまうからな」


 泡を吹くマグマを見つめて笑った。


「俺は高温にも耐性があってね。高温っつっても、100℃200℃の話じゃねぇ。2,000万℃だ!! 活動限界は約5分。って、もうドロドロに溶けて聞こえちゃいねぇか」


 ザバァ……!!


「!?!?」


 マグマの表面から俺が現れて、相手は顎が外れるほどに驚嘆していた。


 一方の俺は温水プールに浮いている気分で、仰向けになってマグマを泳ぐ。


「2,000万℃って、太陽の中心部より高温じゃないか。お前たちのテクノロジーは本当に興味深いな」

「い、いいいい、生きてるだとぉぉ!?!?」

「2,000万℃の高温。もう超越したよ」


 立ち上がり、両手を広げてみせる。


「見ての通り、装備は全て溶けてしまったがね」

「ななな、何故だっ!?」


 ケメクは全身がわなわなと震えはじめた。


「なぜ貴様は生きていられる!? お前は一体何者なんだ!? この星で、これだけの生命体が存在するはずがない! ここにその土壌はないはずだぞ!?」


 混乱しているのか、頭を抱えて喚きはじめた。


「いいや、それよりも! それよりもだ! 何故ッ! 何故、貴様のパンツは無傷なのだ!?!?」


 震える手で俺の股間を指差す。


「あんなに丈夫そうな装備がすべて消え去ったのに、どうしてそのパンツだけ、ほつれ一つないッッッ!?!?!?」

「パンツが破れない理由か」


 俺は相手を真っ直ぐに見つめた。


「教えてやろう……。それは俺が、王だからだっ!!!!」

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