第94話 人の命は平等じゃない
暗がりから現れたのは、SSSランクの精鋭部隊──それぞれが率いるチームの幹部三人衆である。
「長いことかくれんぼしていたな。待ちくたびれたぞ」
そう言うと、黒髪のホスト
「ったく、良く喋る餓鬼だぜ」
「キングとか呼ばれていたが、本当に自分が王様だとでも思ってるらしい」
金髪ホストの
「口が回るってことは、頭も切れると言うこと。その王様気質も悪くない……」
二人の先頭に立つ、銀髪グラサンのホストはそう言った。
「君、良いホストになれるよ。どうだ、俺たちの仲間にならないか?」
「遠慮する。興味ないんでね」
「しっかし、中坊の分際で随分と度胸座ってんじゃねぇか」
そう言ったのは、ストリートファッションに身を包んだ男、
ビーニーの下の目玉をお道化たようにぐるりと回す。
後ろに立つコースケが冷やかすように口笛を吹いた。
「その度胸、どこまでたもてるか見物だぜ」
その横のガンテツが、ガムをくちゃくちゃ噛みながらそう言った。コースケとグータッチを交わす。
「あまり気を抜くな」
背の高い男が注意を促す。
青い作業服に深紅のジャケットの男で、後ろの二人も同じ格好だった。
彼の名は
「戦闘能力だけで言えば、
「Sランクと、同等ね……」
「君、Sランクと俺たちSSSランクの違いが何か、分かるか?」
凌馬が、聞いてくる。
「さあ」
俺は肩を竦めてみせた。
「特別に教えてあげよう。武断塾のランキングは、Sランクまでは単純な戦闘能力の高さで測られるんだ。だが……」
ホスト達がおもむろに手袋を取り出す。高級そうな黒い革手袋だった。
それを着けながら、凌馬が淡々と続ける。
「SランクとSSSランクには雲泥の、それも決定的な差がある」
武断塾の塾生が、彼らに走り寄ると何かを手渡した。
それは、日本刀だった。
邪鬼や三頭たちにも、それぞれ仰々しい武器が用意される。
邪鬼たち三人組が手にしたのは電動ノコギリに草刈り機、釘打ち機などの電動工具で、三頭たち赤ジャケットの男たちは火炎放射器を装備している。
シャラ……チンッッ。
ホスト三人が静かに抜刀する。
冷たい真剣の音が倉庫に響いた。
ブウ゛ィィィィンッッ!!!!
ボッ!! ボ、ボ────ッッ!!!!
同時に、電動工具の駆動音や火炎放射器の音もけたたましく鳴り響きはじめる。
三頭が炎の先端を脅すように俺へと向けた。
俺は微動だにせず、それを見ていたが。
「SランクとSSSランクの違い……。それはな、人を壊すことを何ら躊躇しないってことだ」
三頭はそう言った。
「相手が死のうが再起不能になろうが、何とも思わない。どんなにエグイことでも平然とやれるのが、私たちの強さだ」
「坊主。人の命はな、平等じゃないんだぜ。社会に出たことのないガキには分からんだろうがな」
邪鬼にそう言われ、俺は首を横に振った。
「それなりに、分かってるつもりだがね」
「本当かな? 分かった気になってるだけで、その真意は分かってないんじゃないか?」
凌馬が笑いながら自分の頭をコツコツ指差す。
「要するに世の中にゃ、殺しても問題にならない人間と、殺したら問題になる人間がいるってことだ」
邪鬼はそう答えた。
「俺たちの支援者、ドミネーターの邪魔になる人間を片っ端から殺せれば簡単だ。だが、そうはいかないのが世の中ってもんさ。社会ってのは、結構面倒くせぇんだよ」
「そして、私たちが相手にするのは基本、そんな殺せない人間が大半。影響力の無いゴミなど私たちの支援者──権力者たちは
「大変なこったな」
「ああ、そりゃもう」
俺の言葉に、三頭がうなずく。
「だからこそ……」
凌馬は天井を仰いだ。そして意味ありげに視線を俺に戻す。
「支援者の邪魔になる者たちを排除し、その動きを封じるために、殺しよりも有効なのが、【拷問】って訳だ」
【拷問】の部分を、わざとらしくゆっくり、脅すように言うと、彼は目を鋭く尖らせた。
「【拷問】の効果は絶大だ。どんな奴でも簡単に情報を渡してくれるし、仲間を売ってもくれる」
「しかも相手がデカい組織の一員だった場合、一人を【拷問】に掛けるだけで片が付く。拷問動画をその組織に送りつければ、大抵の組織は、死ぬからな」
「【殺し】ってのはな、坊主。実は簡単なんだよ。一瞬で終わる」
邪鬼が不気味に笑った。
「人殺しは慣れれば誰にでもできるぞ。世の中から戦争が無くならない証拠だな?」
「一理、あるかもな」
「だが、【拷問】は別だ」
静かに、三頭が否定する。
「人の深部を痛めつけ、徹底的に壊す……。時には数日に及ぶ行為は、【拷問】をする側にもそれなりのストレスがかかってくる。真っ当な神経では耐えられない行為ばかりだからな」
「その通り。俺たちは【拷問】によって肉体は生きたままに、敵となる人間を、組織を、殺す。その精神を、勇気を、正義を、度胸を、決意を、意志を、魂ごと粉砕し尽くす」
「理解、できたか?」
九人の男たちが武器を手に、俺に近づいてきた。
「【拷問】って行為には、生まれ持った天性の資質が要るってことさ」
「その資質を兼ね備えるのがSSSランク──つまり、俺たちって訳だ」
「そんな私たちに目を付けられたのだ。お前はもう──」
「ふぁぁ~! くどいな」
俺は背伸びをした。
「退屈すぎて欠伸が出たぞ。いつまで喋っている気だ?」
「てめぇ!!」
「舐めるのもいい加減にしろよっ!!」
外野の連中が吠える。
俺はそれを無視して、九人を見やった。
「今日は良く喋るじゃないか、
名前を呼ぶと、銀髪ホストは動きを止めた。
「なぜ、俺の名を知ってる……?」
「調べたからな」
「調べた、だと? 俺たち幹部は表に出ない闇の存在。それを、どうやって……!!」
予想以上に狼狽えているな。自分たちの組織力に余程の自信があったらしい。
「教える義理はない。だが、お前たちの名などとっくに知ってるぞ? 【
そう言うと、横にいる邪鬼に顔を向けた。
「お前は【
九人に動揺が走る。
「コ、コイツ、どうやって俺たちの名前をっ!?」
「しかも、組織の名前まで知っているだとっ!?」
「名前だけではない。隠れ家も、組織のメンバー構成も、お前たちの住所や連絡先も、すべて入手済みだ」
「なっ!?」
「馬鹿なっ!!」
「そんなこと、あり得るものかっ!!」
九人が驚嘆し慌てふためく。
武断塾の男たちも驚いて声を上げた。
「ハッタリかましてんじゃねぇだろうな?」
「そっ、そうだ。そうに違いない!」
俺はポケットからスマホを取り出した。
「それを知る術は、お前たちには無い。だが、教えてやろう。すべてはこの中だ」
男たちが黙る。
「子どもを、見縊り過ぎたな?」
そんな奴らを見て、にやりと俺は笑った。
「そうか……」
ボ、ボボ────ッッッッ!!!!
三頭が火炎放射器から炎を噴射させた。
「どうやら、本当にお前を殺す理由ができたようだ」
「お前、自分のこと分かってないぞ?」
「ほう、それはどういう意味かな?」
「お前も、殺して問題ない側の人間だってことさ」
「だが、簡単には殺さない。知っている情報はすべて吐いてから死んでもらおう」
ざっ!
凌馬を筆頭に、まずはホスト三人組が俺を囲む。
「……」
「動くなよ? じっと立ってろ」
「俺たちの【拷問】を受けて、さて何分持つか。楽しみだ」
刀を構えると般若のように冷たく笑った。
取り繕っていたホスト顔が崩壊する。
「ヒャッハー!!」
ザシュ、ザシュ、ザシュザザザ……!!
三人が怒涛の斬撃を繰り出してきた。だが、さほどの衝撃は無い。
切断するのではなく、じわじわと痛めつけるのを目的に、撫でるように斬りつけられる。
「出た! 【パニッシュメント・ローズ】幹部たちの連携技【優しい血の雨】!! 絶え間ない斬撃によって、相手は微動だに出来ないんだ!!」
下っ端の一人が解説する。
「フッ! フハハ! 凡野の野郎、なにも出来ずに立ち尽くしてやがるぜ!」
伊谷味騎琉斗が顔を歪ませる。
「安心しろ。止血はしてやる!! 簡単に死ねると思うな!!」
パキ──ンッ!!
突如、鋭い金属音が響いた。
何かを感じ取り、黒髪ホストの風間が動きを止める。
「!!」
自分の手元を見て、ギョッとしている。
日本刀の刃が折れてなくなっていたからだ。
「そこ、危ないぞ」
「え?」
俺は騎琉斗を見てそう言った。
ヒュルルル……!
折れた刃が回転しながら降ってくる。
周囲の者たちが悲鳴上げて逃げ出した。
「危ないぞ、騎琉斗!」
「!?」
父親の言葉を聞いても、騎琉斗は動けなかった。
ドス──ッ!!
「ぅわぁ!?」
刃が騎琉斗の顔をかすめて床に突き刺さる。情けない声を上げ、騎琉斗は腰を抜かす。
「ッ……!」
頬を血が伝っていた。
「な、なにが起きた……」
風間が呆然として呟く。
「【優しい血の雨】とやらはどうした?」
困惑するホスト達を俺は見やった。
「俺はまだ、一滴の血も流してはいないぞ?」
ホスト達も周囲で見ていた男たちも、それでやっと気が付いたようだ。
目を大きく見開く。
「こ、こいつ……!! 無傷だぞ!!」
「なぜだっ!? なぜ傷を負ってない!?」
武断塾の男たちは騒然となった。
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