第93話 激突

 先陣を切って、敵に突っ込んでいく。


 俺の後からコングやトールたちが続いた。


「おらっ!!」

「っしゃらぁ!!」


 ドガッ!!!!


 シュド!!!!


 コングが相手を殴り飛ばし、トールも後ろ回し蹴りを相手の腹にぶち当てる。


「っ゛!!!!」

「おご!?!?」


 やられた相手が身体をくの字に曲げて硬直する。目を飛び出させ、ひょっとこの様な顔になっていた。


 【魔鎧】の表面は硬化と共に、粗いコンクリート面のようになるからな。想定外の強烈な痛みだったのだろう。


「凡野っ!!」

「見つけたでぇ!?」


 マンタと安本が俺の前に立ち塞がっていた。


 シャキッ!!


 バチバチバチ……!!


 折り畳みナイフとスタンガンを構える。


「や、どうも」

「余裕なフリしても無駄無駄ぁ! 今すぐ切り刻んでやるからなぁ、キヒヒヒヒ!!」

「死ねや、凡野ーーーっ!!」


 二人同時に襲いかかってきた。


 それは置いといて、皆は大丈夫だろうか?


「余所見してんじゃねぇ!」

「糞が! 逃げんなっ!」


 二人の攻撃を躱しつつ、周囲の状況を確認する。


「舐めんなよ!!」

「死ねっ! 死ね、死ねっ!!」


 武器を振り回し、腕を伸ばして俺を捕まえようとするが、俺は二人を見ることなく簡単にすり抜けた。


 アルベスタたちも問題なく捌けているな……。ほかの奴らも大丈夫そうだ。


「はぁ、はぁ、はぁ……っ!! ちょこまかと!! 絶対にぶっ殺してやるからな!!」

「舐めプでもしてるつもりか、凡野ぉぉぉっ!!」


 こっちも終わらすか。


 俺は軽く鼻から息を吐いた。


 がしっ!!


 俺の服を掴めて、マンタがニタリと笑う。


「やっと捕まえたぜ?」

「逃げてた凡野くんも、これで、ハイ死亡☆ パ~ァ??」

「のた打ち回れ……!!」


 マンタが俺の首にスタンガンを押し当てる。


 バチバチバチ──ッ!!!!


「マンタ」

「……!?」

「電流程度じゃあ、俺は倒せんぞ?」


 笑ってみせる。


「なっ、なんなんだ。何なんだよお前ぇぇっ!」


 平然としている俺を見てマンタが引き攣った声を上げた。


「お前のせいで……っ! お前のせいでっ!!」


 それを見て、安本は両手にナイフを握りしめて震えはじめた。


 目が血走り、顔が紅潮する。


「俺はお前のせいで、お笑い同好会にもいれなくなったんだぞっ!! 全部、全部、お前が悪いんだっ!!!! 文化祭の恨みぃぃぃぃっ!!!!」


 突進してきた。


 つむっ……。


「????」


 その突進を、ナイフの刃を摘まんで止める。


「こんなものも、オモチャに過ぎない」


 刃を紙縒りのように丸めていく。


 それをガン見して、安本の両眼が鼻先に寄る。


「今度は俺の番だ」


 俺はマンタと安本の腹部に手を当てた。


「結構痛いぞ? 覚悟しろよ?」


 オーガに喰らわせたのは、1000万分の一だったな、てことは今の強さなら……。


「10億分の一」

「「!?」」

「【重撃波グラビティウェイブ】」


 ド……ゴォォォンッッ!!!!


 二人の身体を衝撃波が貫く。


 その波が全身に広がる一瞬の間を置いて、次の瞬間、二人の身体は錐揉み状態で宙高く吹き飛んでいた。


 壁にぶち当たると、そのまま地面に叩きつけられる。


「っがぁぁぁ!?!?」

「お゛お゛ぉぉっ!?!?」


 痛みでのた打ち回っている。


「【致命の一撃】も乗せた。しばらく痛みは消えないだろう」


 とは言ったものの、二人には聞こえていない。


 強烈な痛みは記憶として深く刻まれ、もしかしたら一生消えないかもしれない。【狂戦神】の1%は、そのレベルだ。

 仮にそうなろうと、知ったことではないが。


「テメェら!」

「コング……!」


 近くではコングと元仲間の不良が対峙していた。


「ぅおらぁ!!」


 ドゴッ! バキッ!!


「うぐ!?」

「ぐへっ!?」


 一瞬で二人は殴り飛ばされた。二人とも手に持っていたナイフを落とした。


「そんなもん持つようになったか、落ちぶれたな……」


 コングが座り込む二人に、軽蔑するような視線を向ける。


「もう二度と、俺たちとは関わるな。あばよ」

「……っ!」


 戦う気力が失せたのか、二人は立ち上がれず、その場に塞ぎ込んでしまった。


 こうして十分後──武断塾のほぼ全員が俺たちによって倒された。


 こちらは誰も深手は負っていない。アルベスタたち女子三人も無事だ。


「この戦い、俺たちの勝ちだ!!!!」

「おーっ!!!!」


 コングの勝利宣言に、少年たちは拳を突き上げた。


「っ……! 糞ッ!」


 へたり込んだまま、汗だくのホストが吐き捨てる。 


「どーなってやがる!? 鉄パイプで殴ってもダメージが通らねぇ!」

「それどころか、殴った分だけ俺たちがダメージ受けてんぞ」

「何なんだよ、このガキどもは!?」

「おい、お前ら」


 コングがそんな男たちに立ち塞がる。


「くっ!!」


 力なく、男たちは顔を上げた。


「もう二度と、学園の生徒にちょっかい掛けんじゃねぇぞ。分かったな?」

「……っ!」


 コングや少年たちが真っすぐに彼らを見る。


 それに対して、武断塾の男たちは力なく視線を逸らした。


「おい、コング!」

「あん?」

「仲間を呼ばれたら面倒だ。そろそろ行こうぜ」

「だな。早いとこ退こう」


 コングが黙って俺を見る。


「帰ろう」


 俺は短く返した。


 こうして俺たちは武断塾の施設から撤退した。


 その様子を、誰も追いかけることなく男たちは見ていることしかできなかった。




 それから少しして、痛む身体を引き摺るように男たちは立ち上がった。


 未だにこれが現実だとは、誰一人理解出来てはいない。


 200人対20人。凶器対素手。そして何より、大人対子ども。


 どこをどう見ても、相手に勝ち目はない。自分たちの敗北などあり得なかった。


 だが、そのあり得ないことが現実に起きてしまったのだ。


 あり得ない。あってはならない──そう、現実逃避をしている時だった。


 再びゆっくりと、巨大倉庫の扉が開いた。


「?」

「やあ」

「!!」


 戻ってきた俺を見て、誰もが目を見開く。


「何しに、戻ってきた」

「ふざけてんのか、お前」

「いいや、まったく」


 俺は一人で武断塾の男たちと向き合った。


 パチパチパチパチ……!


 すると突然、暗がりから拍手が響いてくる。


「ヒュ~☆」


 冷やかすような口笛も聞こえた。


 やっと出てきたか。あれが本隊だな。


 闇の中から姿を見せたのは、武断塾の精鋭たち──【パニッシュメント・ローズ】【オーリー・キッズ】【クリムゾン・エクスターミネーター】のSSSランクの九人だった。

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