第79話 最強兄弟、速攻撃破
俺たちノース軍は決勝の相手、サウス軍と向かい合っていた。
「さっきの戦い、見せてもらったぞ!」
「なかなかやるじゃないか、君ら!」
二人の男子生徒が俺たちの前に立ちはだかる。
二人とも背が高くとても体格が良かった。
「ごっ、
高塚が思わず息を呑んだ。
どうやら同じ三年らしい。
「俺の名は、
横幅のある大柄な男、彩男が不敵に笑いかけてくる。
「そして俺が双子の弟──
並び立つ鉄男は自分に向かって親指を立てた。
鉄男は兄よりも更に背が高く、一見すると細身だがかなり筋肉質な身体つきである。
「「二人揃って……」」
同時にそう言うと、それぞれ筋肉を見せつけるようにポーズを決めた。
「「泣く子も黙る、最強の剛力兄弟だっ!!」」
その圧に、ノースの女子たちがたじろぐ。
「あの剛力兄弟……!!」
桜葉は深刻な顔つきになって言った。
「誰なんだ、この阿呆どもは?」
俺がそう聞くと、桜葉が「知らないの!?」と目を丸くする。
「兄の剛力彩男はラグビー部主将で、悠ヶ丘ラグビー部を初の地区大会優勝に導いた人だよ」
桜葉の言葉を引き取るように松本さんも続ける。
「弟の鉄男先輩はボクシング部主将なの。都大会の常連で、毎回優秀な成績を収めてるんだって」
ラガーマンにボクサーか。見るからにそんな体格だな。
「フッ……! 二人ともすでに引退しているから元、だがな?」
鉄男が会話に割って入る。
「それに、俺たちの活躍の場は部活だけじゃあないんだぜ?」
「そうだ! なんたって俺たちは、団長・副団長として、このサウス軍を一年の時から引っ張ってきたんだからな!!」
二人はまた迫るように俺たちの前に一歩踏み出した。
筋肉アピールが暑苦しい。
「だが去年は惜しくも優勝を逃してしまった!! これは俺たち兄弟最大の汚点なのだ!!」
「だからこそ、三年である俺たちにとってのラストイヤーである今年の体育祭は、絶対に負けられない戦いってわけだ!!」
どうやら兄の彩男がサウス軍の団長で弟の鉄男は副団長らしい。
そう言えば、トールも去年は優勝を逃したと言っていたっけな。
「悪いが、どんな相手でも手を抜くわけにはいかない!!」
「ああ、女子のみんなには悪いが、圧倒的な力で捻じ伏せさせてもらうぞ!!」
それぞれ大胸筋と上腕二頭筋を盛り上がらせて見せつけてくる。
「とは言え、怪我はさせたくない。あまり無理はしないことだな!」
「力の差が分かったら、すぐに綱から手を放すんだな。でなけりゃ、関節を痛めることになるぜっ!?」
「「俺たちが、必ず勝つっっ!!」」
最後にそんな捨て台詞を吐いて二人は戻っていった。
「それではただいまより、綱引き決勝戦を開始します!」
審判がフラッグを掲げる。
そして──
笛が鳴った瞬間、フラッグが振り下ろされる瞬間に、俺たちは仕掛けた。
言葉で煽られようが、俺たちは至って冷静であった。
誰が相手であろうと、やることは変わらない。
それが筋肉自慢の双子兄弟であろうとな。
グンッッッ!!!!
「「!!!!」」
サウス軍が俺たちが生み出す張力に耐え切れず、前のめりにバランスを崩す。
「「んなっ!?」」
剛力兄弟も強大な力を前に顔を強張らせていた。
ずざざざざ────っっ!!
「「ぐわぁ──っ!?!?」」
情けない声を上げながら、二人は引き摺られていった。
相手にならなかった。
ピピ──ッ!!!!
「綱引き決勝戦、優勝、ノース軍!!」
一瞬の静寂の後、グラウンドが歓声と拍手に包まれた。
俺たちは綱引きで、見事一位を獲得したのだ。
「ノース軍が優勝!? マジかよ!?」
「お前らよくやったぞーっ!!」
祝福や驚きの声が飛び交う。
「団体戦の種目でノース軍が一位になるなんて、いつぶりだろうか?」
「ええ。少なくともこの数年はなかったことですね」
「みんな頑張ったんでしょう。良いことです」
「うぅむ。今年のノース軍は、一味違うようですな」
テントの大人たちも驚きを隠せない様子だ。
「やった、やった! あたしたち、マジで勝っちゃったよ!」
桜葉が松本さんに抱き着く。
「うん! わたしも信じられないよ!」
松本さんも顔を紅潮させていた。
周囲の選手たちも、初の一位に興奮した様子だ。互いに抱き合って喜びを分かち合っている。
「凡野くん!」
笑顔の松本さんが俺を見て手を上げた。
その手をこちらに伸ばす。
「やったね!」
「ああ」
俺が同じように手を上げると、松本さんがポンと手の平を合わた。
俺たちは笑顔でハイタッチを交わした。
「凡野くんの特訓のお陰だね!」
「いや、みんなが頑張った成果さ」
「あ、先輩!」
「凡野くーん!」
松本さんと話していると、選手たちが俺の周りに集まってくる。
「先輩のお陰で、僕たち勝てました!」
「だよね! あの特訓がなかったら勝てなかったよ」
興奮気味に言う。
「ありがとう、凡野くん」
高塚が握手を求めてきた。
「君がいてくれて良かった」
「いえ、司令塔が良かったんでしょう。まずは、お疲れ様でした」
俺は高塚と握手を交わす。
「ふふ、口が上手いね、君は」
高塚が照れたように笑った。
「けどさ凡野、綱引きのコツなんて、どこで習ったの?」
桜葉がそう聞いてくる。
「ん? 動画で見ただけだよ」
「動画で?」
「ああ。一学期に学校を二週間ほど休んでいた時に、たまたま」
「はえ~、引きこもってた時にねぇ……」
笑顔の選手たちに俺は向き合った。
「俺たちがほかの軍と比べても劣っていないことは、これで実感できはたずだ。次の種目からも気を引き締めていこう!」
「おーっ!」
「わーい!」
俺がそう言うと、みんなは笑顔でそれに応えた。
そして午前中最後の種目、長縄飛びも終わる。
「これで、午前のプログラムは、終了です。生徒の皆さん、お疲れ様でした」
テントからアナウンスが流れる。
「いよいよ、結果発表だよな」
「ど、どうなってんだろ。緊張するぅ!」
固唾を呑んで結果を見守る。
「それでは、これより、現在の点数を、発表します!」
テント横のパネルに数字が張り出されていく。
東西南北の順に掲示されたパネル──放送部員がその点数を順に読み上げた。
「イースト軍200点。ウエスト軍290点。サウス軍320点。そしてノース軍、290点です!」
発表と同時に、各陣地からどよめきに似た歓声が起こった。
「ヤバイ、わたしたち同率で二位じゃん!」
「流石、サウス軍。一チームだけ300点台だね」
「けど、たった30点差だ! 全然逆転可能だぞ!」
「だな!」
だいたい予想していた通りだ。
このままの調子で行けば、サウス軍を捉えることが出来るだろう。
「マジかよ……」
「嘘だろ……」
左右に陣地を構える東西の軍を、俺は見やった。
ノース軍の盛り上がりを何とも言えない表情で見ている。
まあ、無理もない。去年までは最弱ノースと言われ優勝とは無縁のチームが大躍進しているのだからな。
「俺たちがノースに負けてるだと!?」
「最弱ノースに何があったんだよ」
現在最下位のイースト軍は若干パニックのようだな。
「糞っ! 調子に乗りやがって!」
悪態をついているのは、マンタだ。
「去年までは、午前中で100点にも届いてなかった癖に! このままじゃ、済まさないぞ!!」
おやおや、たった一度の負けで随分と精神を乱しているようだな。
「気を抜くとやられるな」
「ああ」
そう言っているのは同点のウエスト軍の連中だった。
「みんな! 後半も気ぃ引き締めていくぞ!」
「おう!!」
ウエストの団長が生徒たちを鼓舞する。
「不良の分際で生意気な……!」
だが一人、暗い声で呟いたのは伊谷味だった。
「社会の屑の分際で俺と並ぶなんて、絶対に許さない! ぶっ潰してやる!!」
議員の息子、伊谷味は一人、憎悪の炎を燃え上がらせていた。
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