第62話 転校生は異世界人
月曜──
いつものように信吾と学校へ向かっていた。
「昨日は楽しかったぞ。写真もありがとう」
「こちらこそ、喜んでもらえて良かったよ」
日曜に信吾の家に遊びに行き、夏休みの写真を貰ったのだ。
「遅くなってすまなかったな」
「ハハハ、仕方ないよ」
信吾がやや引き攣ったように笑う。
「喜村さんたち、凄かったもんね。僕も君と一緒に居ると、時々なんか怖い視線、感じてたし……」
本当は先々週に遊ぶ約束をしていたのだが、ドッキリへの対応を優先するため、一週間待ってもらっていた。
「DVDも明日には返すよ」
「うん、分かった」
昨日は信吾の家で映画を観た。
タイトルは『シン・ゴズィラ』と『シン・ルヴァンゲリヲン』──そのDVDを貸してもらっていたのだ。
「けど、蓮人くんがそんなに映画好きなんて知らなかったよ」
「細部まで確認したいことがあってね」
「お、もしかして考察とかする派? あの二作品は伏線とかもたくさんあるし、面白いよね。僕も考察記事とか見たりするよ」
前にも一緒に観たらしいが記憶がなく、完全に初見のようなものだった。
あの怪獣と巨人を眼にし、俺は衝撃を受けていた。
俺は勝てるか、コイツらに……。
最初に思ったのは、それだった。
あの二体──最強格の神龍や魔人と互角。いや、恐らくは以上だろう。
ゴズィラ……、放射能と呼ばれる人体に致命的な影響を及ぼす光線を放ち、近づくだけでも生命を削る存在だ。
神龍の中にも毒や酸を吐くものは居たが、その脅威はそれらを遥かに上回る。
そしてルヴァンゲリヲン……、グラン・ヴァルデンの魔人や巨人で奴ほどの俊敏さを持つものは居なかった。
現代兵器以上の武器を操り、ATMフィールドとやらも、どういう構造なのかよく分からない。俺の能力で破壊できるか検証が必要だ。
今の俺で勝てるのかどうか。詳細に戦力分析をおこなって、あの二体のステータスを算出したかった。
因みに、現時点の俺のステータスはこうなっている。
◇◇◇
名 前 凡野蓮人
称 号 鬼神・荒神の王・狂戦神・統一王・覇王…➤
年 齢 14
L v 5,000
◆能力値
H P 41,841,250/41,841,250
M P 48,375,000/48,375,000
スタミナ 30,467,250/30,467,250
攻撃力 20,960,000
防御力 33,962,500
素早さ 74,400,000
魔法攻撃力 74,175,000
魔法防御力 79,012,500
肉体異常耐性 65,224,000
精神異常耐性 55,560,000
◆根源値
生命力 4,922,500
持久力 5,539,500
筋 力 2,620,000
機動力 6,200,000
耐久力 3,575,000
精神力 5,556,000
魔 力 6,450,000
◆固有スキル
【王威Lv.100】
◆スキル
【鑑定Lv.450】【パーフェクトボディコントロールLv.300】【
【変化Lv.70】【伝心Lv.50】【隠形Lv.70】
◆戦技
【徒手格闘術Lv.300】【暗殺術Lv.300】【ダガー術Lv.300】【特殊ナイフ術Lv.300】【短剣術Lv.300】【剣術Lv.300】【特殊剣術Lv.300】【短槍術Lv.300】【槍術Lv.300】【特殊槍術Lv.300】【盾術Lv.300】【大盾術Lv.300】【杖術Lv.300】【棒術Lv.300】【
◆魔法
【炎魔法術式Lv.450】【水魔法術式Lv. 450】【氷魔法術式Lv. 450】【風魔法術式Lv. 450】【雷魔法術式Lv. 450】【草木魔法術式Lv. 450】【土魔法術式Lv. 450】【身体魔法術式Lv. 450】【精神魔法術式Lv. 450】【空間魔法術式Lv. 450】【創作魔法術式Lv. 450】
◇◇◇
今、奴らと対峙して勝てるか。それともまだ及ばないのか……。
現実世界にも禍つ神という邪神ウラガルファに似た存在を確認した訳だが、それも殲滅したことで、俺はどこかで高を括っていたのかもしれない。
この程度か、と。
俺としたことが、何たる慢心。
戦術家ウガンザ・ヘロドア曰く──
『勝利の後に武具の手入れをする者だけに、
こっちで言う【勝って兜の緒を締めよ】に値することわざである。
シン・ゴズィラ、シン・ルヴァンゲリヲンは俺に、上には上が居ることを思い知らせてくれた。
だが、必ず狩ってみせよう。
「蓮人くん、どうかしたの?」
「いいや。また面白そうな映画があったら教えてくれよ」
「うん。あ、そうだ! なら、今度は一緒に映画を観に行こうよ?」
「そうだな、そうするか」
あの二体も、ほかの映画やゲームなどに登場する怪獣やモンスターたちも、架空の存在にほかならない。
現実には、居ない。
だが、たとえ架空の存在であろうと、俺の上に君臨する以上、それは超えるべき敵だ。
それに、それらは現実の脅威を示唆してもいるのだ。
たとえば放射能などは現実に存在する。
ならばそれは超えるべきもの。
汚染物質も硫酸などの劇薬もウイルスや細菌などの疫病も致死性の猛毒も……俺に対して害をなす全てのものを【超克】し、あらゆる存在の頂点に立つ。
絶対的な、万物を超越する存在とは、そう言うことだ。
「おはよう」
教室に入りクラスメイトに声を掛ける。
返事が返ってくることはなかった。この前までは。
今は──
「おはよ」
「はよ~」
「おはよ、凡野」
女子生徒が数人が挨拶を返す。
喜村たちだった。
「おはよー!」
諏藤は元気に手を振った。
「おはよう」
四人にそう、言葉を返す。
横に居る信吾は、俺と彼女たちを見やって、どこか嬉しそうにしていた。
明らかに変わった俺に対する四人の態度──はじめは教室に動揺が広がったが、今ではすっかり当たり前になった。
オーガは消え、南たちも静かになり、この四人も心変わりした今、表立ったイジメは影を潜めている。
何事もなかったように俺は席に着いた。
ドタドタドタ……!
と同時に、廊下から騒がしい足音が聞こえてくる。
勢いよく教室に入って来たのは安本だった。
「ビッグニュース、ビッグニュース! 職員室でマジでパネェ話を仕入れたっ!」
目を輝かせている。
「何があったってんだよ、安本?」
「聞いて驚くなよ? いや、本当は驚けよ!?」
「うるせぇよ」
「ったくだよ、月曜の朝からキーキー騒ぐな」
「ふ~ん、そう言う態度取りますかぁ? なら秘密にしとこうかなぁ~、どうしよかなぁ~?」
安本が勿体ぶって腕組みする。
「話してぇならさっさと話せや、うるせぇな!」
「ハイ、それじゃあ注目! なんと今日、このクラスに転校生が来るっぽいんだよっ!!」
唾を飛ばさんばかりの大声で、安本が叫んだ。
すると今までしかめっ面で呆れていた連中も顔色を変える。
「転校生っ!?」
「マジでか!?」
思い思いに話していた生徒や静かに本を読んでいた生徒まで、思わず全員が安本を見た。
皆から注目されて、安本はご満悦そうだ。
「出まかせじゃねぇだろうな?」
「そんなアホなことしませんて」
「会ったん?」
そう聞いたのは戸口だった。
「いや、それはまだ。けど──」
教壇の上に飛び乗ると全員に向かって手を広げた。
「校長と知内が話してんの聞いたんだ! 多分、ホームルームん時に来るんじゃね?」
「マジかよ」
「男? それとも女?」
「だから会ってねぇって! そこ、落ち着けよ! キャーム・ダウン! キャーム・ダウン!」
大袈裟な身振りで安本がツッコミを入れる。
「けど珍しいよね。こんな時期に」
諏藤が喜村たちに向かって言った。
喜村がそれに答える。
「引っ越しとかで二学期初日に間に合わなかったんじゃない?」
「あ~、かもね」
それから暫く、教室は転校生の話題で持ちきりだった。
そして──
「来たっ! 先生来た!」
教室の窓から顔を出して、生徒たちが廊下を見やっている。
「見える!? 転校生」
「来たっ!!」
どうやら転校生も一緒のようだ。
「!!」
「マジで……」
「すげ」
だが、何やら様子がおかしい。
言葉少なで、食い入るように廊下の奥を見やっている。
「見せもんじゃねぇぞ、お前ら! ちゃんと席着け」
知内の声が飛ぶ。
生徒たちは素直にそれに従った。
まずは知内だけが教室に入って来る。
朝礼が終わると、俺たちに向かって言った。
「耳の速いお前らのことだから、もう知ってるわな。だから細かいことは省くぞ?」
そう言って、閉め切られたドアをチラと見やった。
「転校生が来てる。今日から
そこまで言うと、教壇に両手をついて身体を前に傾けた。
「心の準備しとけよ!? 驚きすぎて腰抜かすぞ!?」
小声で素早く言う。
「入っていいぞ~」
知内の一声で、ドアがゆっくりと開いた。
「!!!!」
転校生に注がれる好奇の目──だがその視線は、その人物のオーラに圧倒されてしまう。
ドアの前には一人の少女が立っていた。
一礼するとゆっくりと教室に入って来る。
現れたのは金髪碧眼の少女だった。
美少女と言って何ら遜色のない、美しい乙女である。
すらりと伸びた手足は所謂、日本人離れした身体つきと表現した方がよいだろう。雰囲気も大人びている。
静かに少女は、知内の横に立った。
「自己紹介を」
知内が言うと「はい」と彼女が小さく返す。
もう一度、クラスの皆に一礼した。
「アルベスタ・メルブレイブです。今日からこのクラスでお世話になります。よろしくお願いします」
澄んだ声でそう言った。
「外国人、だよな?」
「でも、ふつーに日本語喋ってるけど」
「ガチ美人過ぎて、もう言葉出ないんですけど」
口々に生徒たちが言う。
アルベスタと名乗った少女は、緊張しているのか表情をあまり表に出していなかった。
「あぁ、しまった。机と椅子を用意してなかったな」
知内が声を漏らす。
「ええと南、それと加賀。お前らちょっとついて来い。彼女の机を運ぶから」
「はい」
南と加賀が立ち上がる。
知内と教室を出て行った。
「おっと、お前ら!」と、知内が後ろのドアから顔を出す。
「今のうちに仲良くなっといてくれ。だが、舞い上がってあんまり失礼な質問はするなよ? 粗相のないようにな? 柴原──」
「はい」
「ちょっと抜けるから、頼むわ」
「わかりました」
知内が消えると、一気に教室が騒がしくなった。
「さ、みんな静かにするんだ!」と柴原が静粛を促す。
「それじゃあまず、お互いの自己紹介から──」
「っせぇ!!」
目立ちたがり屋の安本が即座に言葉を遮った。
「司会は俺の役目だっつ~の!!」
アルベスタの横に躍り出る。
彼女は少し困惑したように身を反らした。
「そうだなぁ。じゃ~、まずはスリーサイズから──」
「止めとけ、安本!」
「まだ、クラスのノリ分かってねぇんだぞ、馬鹿!」
「マジ、サイテー!!」
「悪ノリすんなや!」
女子生徒のみならず男子生徒からも物が飛んでくる。
「イタタタ、ごめんごめん」
安本はまったく悪びれることなく、困り顔で手を合わせた。
ニヒニヒと笑っている。
「ね、アルベスタさん! どこから来たの!?」
「出身は? 日本じゃないでしょ? どこの国?」
「日本人? それともハーフ?」
女子たちが矢継ぎ早に質問する。
少々不躾に思われるものもあったが、アルベスタは嫌な顔一つせず、淡々と受け答えをしていた。
彼女の出身地は日本らしい。両親はヨーロッパの人間らしいのだが、両親と共にずっと日本で暮らしていて、彼女自身は生まれも育ちも東京なんだとか。
それが数年前に親の仕事の都合でメアリカ合衆国に転勤になり、しばらくはメアリカに住んでいたようだ。そしてこの度、また東京に帰って来たらしい。
俺がアルベスタを見ていると、不意に彼女と目が合った。
俺を見て、微笑む。
〈やっと、見つけたぞ〉
「!?」
頭の中に声が響いた。
目の前の少女──アルベスタの声だった。
俺から目線をほかへと移すその刹那、彼女は氷のように冷笑した。
生徒たちの質問に答えながらも、俺の頭に直接語りかけてくる。
〈まあ、そんなに恐れるなよ。私は、敵ではない〉
彼女はそう言った。
〈だが探し出すのに苦労したぞ、凡野蓮人? いや──〉
言葉を止めると、今度は射抜くような鋭い眼差しを俺に向ける。
〈ヴァレタス・ガストレット〉
……こいつ、なぜ俺の名を。
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