思いもよらぬ誘い
一
三ツ谷高等学校の入学式から一週間が過ぎた。既に一年生の間には、同じ部活仲間を中心とした小グループが出来上がっており、多いところでは十人規模の大グループが形成されていた。
俺はと言うと、隣席の男子生徒を中心とした小グループに属し、
「
名前を呼ばれ、俺は面を上げる。
「おはようございます」
「今日は天気がいいな」
同感だ。春の日差しは眠気を誘引するほど
「部活、どこに入るか決めたかい?」
天気の話題は終わったらしい。嵐のような転換ぶりだ。
「いえ、入る予定はありません」
「そうか。なら、丁度いい。俺と一緒に部活動を立ち上げないかい?」
何故。後ろの席の須田さんからであれば、話くらいは聞いたかもしれないけれど、遠野さんであれば話は別だ。
遠野さんとは小学生時代からの付き合いだ。しかも、ずっと同じクラス。小学生の頃はあまり関わりがなかったけれど、去年から何かと接する機会が増えていた。これ以上、無用に縁を深めたくない。何事もほどほどが良いのだ。
「興味深いご相談ですね。ですが、遠野さんは水泳部に入らないのでしょうか」
中学時代、遠野さんは水泳部に所属していた。大会で良い成績を収め、全校集会で表彰されていたことを
遠野さんは苦笑し、ゆるゆると首を振る。
「水泳部はとっくに廃部になっているみたいだ」
三ツ谷高校は公立の進学校であり、部活動への入部は強制ではない。入部希望者は少なくないけれど、部活動の種類が豊富ということから、人数が分散し、グループ競技を行う部活動は
「五人集まれば部活動として登録できるようですよ」
俺は学生証を取り出し、ぱらぱらとページを
「それもいいんだが」
遠野さんは歯切れを悪くし、ばつが悪そうに笑った。
「中学まではスイミングスクールの延長で水泳部に入っていただけだ。みんなでわいわい
暗に、水泳部には入りたくないと言っているように聞こえた。その理由は何となく察することができる。俺としては、遠野さんに心残りがないか確認しておきたかったのだ。
「水泳はずっとやってきたからな。せっかくだから新しいことを始めたいんだ」
「だから、部活動を立ち上げるんですか」
「ああ。中身はどうだっていい、って言うと不誠実なんだがな。俺はただ、気の合う友人と
「それなら、立ち上げるまでもないでしょう。どこの部活もそんなものですよ」
「中途半端は嫌なんだ。目的がある部活なら、俺は本気で臨みたい」
「目的がない部活なんてあるのでしょうか」
「だから、新しく立ち上げるのさ」
遠野さんが胸を張って宣言する。彫りの深い顔立ちの中で、両眼だけが夜空に浮かぶ星の如く煌めいているように見えた。
遠野さんはきっと、仲の良い友人とたまたま放課後の教室に残った時のような、あの独特な空気感に浸りたいのだろう。けれど、それは意図的につくり出せるものではない。
とは言え、遠野さんの提案に引っかかるところはある。
「目的のない部活なんて、何もないのと同じですよ」
「確かにそうなんだがな」
遠野さんは目尻に
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