第82話
僕たちは手を繋いだ状態で立っていた。空は澄み渡る青空が広がっていた。どんよりとした曇り空ではなく、太陽の日差しがあった。今までいた世界と違う光景に僕は目をしかめていた。
近くもなく遠くもないところに見慣れたキャンプ道具がセットされていた。よく見ると椅子にマナチが座って僕たちを見ていた。その横にヒロミとアイもいた。
「絶対きてくれると思ったぁぁぁ!!」
そういってマナチは椅子から立ち上がり、足を引っかけ転び、立って、泣きながら走ってきたのだった。その近くにいたあの二人は、ゆっくりと立ち上がり、マナチと一緒に来た。
「まあ、なんだ……困っていたらお互い助け合い、だっけ?」
「今日もよくしゃべるねヒロミ……」
「う、うるさいなぁ」
彼女たちもまた巻き込まれて落ちたのだろう。
一日でさえ、お互い協力しないと生きていけない世界から、またここも一人でも生きていけるような世界なんだろうと思った。けれど、僕たちのサバイバルは続くが前の世界で無事に生き延びた事によってこの新しい世界でも生きていけるだろうと思った。いやもしかしたら元の世界のどこかかもしれないと思った。
「ここはそれでどこなんだ?」
マナチに抱き着かれ、わんわんと泣きながら僕はヒロミとアイに聞いた。
空は今までいた場所と違い、青い空がどこまでも広がっていた。遠くに見えるのは山脈、近くは鳥の鳴き声や風がなびき、こすれる草花の音が聞こえた。暖かく、どこか懐かしい香りもし、僕たちは元の世界のどこかに戻ってきたのだろうか?
「「ギャッギャッ!!」」
突如聞こえる聞いたことのない声がした。
「また来た!」
「ふふふ、ヒロミ任せた」
――バァン! バァン!
人型のがりがりにやせ細った醜い……緑の肌をした鬼のような化物がヒロミの銃弾によって倒された。僕はその見た事もない生物に、ここが元の世界ではなく、別の世界だと理解した。
「ゴ、ゴブリンです! あれはゴブリン!」
「ツ、ツバサ、ここはファンタジー異世界でしょうか!?」
「ジュリ、これはもしかしたら魔法がある異世界かもしれませんよ」
ツバサとジュリは二人してテンションが上がっていた。
「こ、ここはどこなんだよ……」
僕がげんなりし、つぶやいた。
「期待はするな、と言っただろう」
クライドの声が聞こえた。振り向くと、そこには顔が半分骸骨のクライドが、ため息をついていた。いきなり現れた事にみんな驚き、後ずさった。ヒロミとアイは初対面なのか、骸骨部分を見て、怪訝な顔を浮かべていた。
僕は気にせず、クライドに聞いた。
「元の世界には、戻れないのか?」
すると彼はすまなそうな顔を一瞬した後に、不敵な表情に戻った。
「今回はたまたま助けてやっただけだ」
僕はごねてみた。
「なら元の世界に――」
すると不機嫌そうに理由をまた教えてくれた。
「チッ、だからオレじゃ出来ないんだ。飛ばされる先を一緒にしてやったんだ、感謝しておけ。じゃあな、もう会う事はないと思うが、あの世界よりもここは生きやすいはずだ。あと、あの女の事は忘れろ。もう会う事もないだろうしな」
そういってクライドは消えた。またどこかで何となく会えるような気がした。一緒にいたあの自称女神には会いたくない。
「とりあえず、元の世界に戻る方法を探そうか……」
マナチがはにかみながら僕に言った。その後ろで、ヒロミがツバサとジュリに話しかけていた。
「な、なぁ……ところでゴブリンってなんだ? 今のヤツも気になるけど」
「フヒッ」
「ゴブリンというのはですね、ファンタジーにおける亜人種族で、作品によってはモンスター扱いされています。彼らは女性を見かけると陵辱、つまりレイプしてきます。目的は自分たちの種族を産んでもらうのが目的だったりしますね」
「あと人間を食うゴブリンもいたりするよね、ファンタジー異世界の定番。群れるとマジ強いし、初心者冒険者なら最初の難関と言われている」
「ジュリ詳しいね」
「異世界ものは大好きですからね」
「フヒヒ、マジくそじゃん」
「え、ここでキャンプしていたら私たちヤバかったんじゃね?」
「マナチ、大丈夫だったか?」
僕はゴブリンの生態を聞い、マナチを心配し、妄想した。
「そ、そんなことされてないってば!」
――バシンッ!
僕はハルミンに背中を叩かれた。
それを見た五人は笑っていた。僕もつられて笑い、ハルミンも笑った。
七人。互いの名前、着ている装備に持っている武器、見知らぬ同士ではなくあの変な世界から生き延びた者同士だった。辛うじて、この世界の事を知ってそうな仲間とこのアーミーナイフで生きていける気がした。
生存確率は100%。空は晴れ模様、地面は草原、あたり一面見える所は自然、森、山、そしてゴブリンの死体。
9ライブズナイフ 犬宰要 @clarice
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