第61話
「病院に、行ってみよう。このままじゃわからない」
何が起きたのか、確かめないといけない。ムッツーとタッツーの身に何が起きたのか、ゾンビが新たに出現したとしたら殲滅しないとダメだ。
「ヨ、ヨーちゃん」
ツバサが話しかけてきた。
「どうした? 何かわかったか?」
彼女の方に詰め寄るような近づき方をしてしまった。
「ひ、ひぅッ」
「あ、ごめん。ほんと、ごめん」
「お、落ち着こ? ヨーちゃん落ち着こ?」
マナチの声がし、僕は深呼吸して、ツバサに再度謝った。
「ごめん、本当にごめんなさい」
「ううん、あの、あのね。考えたくない、信じたくないけれど、言いたくないけれど、言いたくない。その嫌な可能性があってね、その、あのね……」
ツバサの目から涙が流れていった。僕はその後に続く言葉が最悪な可能性があると僕にはわかった。だけど、それを聞きたくないと思っていた。彼女だって受け入れたくないそういう思いが伝わってきていた。
「わかった、確かめるまで……確かめてからにしよう。何がなんだかわからないから、実際に確かめよう。何が起きたのか、あの病院へ行って何が起きたのか、確かめてから考えよう」
僕はこのアビリティ・スキルから表示された情報を信じたくなかった。確かめるまで、確かめるまでは、信じたくなかった。
僕たちは病院へと向かった。足取りは重くて、まるで足に何かに掴まれているような感じだった。身体にまとわりついているような錯覚を病院に近づくにつれて感じた。それは僕だけじゃなく、マナチ、ハルミン、ツバサ、ジュリたちにも表情に現れているようだった。みんな、苦々しい表情と今にも泣きそうな目をしていた。
ふと、視界の隅にある生存確率を見ると50%だったのが20%にまで下がっていた。
僕は足を止め、みんなにも止まるようにし、生存確率について確かめるように促した。
「みんないったん、生存確率を見てくれないか? 僕のは50%から20%にまで下がった。さっきから身体にまとわりつく嫌な感じがしている。みんなはどうだ?」
妙に息苦しい。防護マスクが邪魔になるような苦しさだった。
「30%になってる……」
「わ、私も……」
ハルミンとマナチが驚くようにつぶやいた。
「80%から40%になってました」
「私は45%です。元は85%でした」
ツバサとジュリは40%下がっていた。みんな生存確率が下がっていた、という事実から病院で何か起きていると実感した。空気が重苦しく、息が詰まる。
「もしも、ムッツーとタッツーを殺したのがあの病院の人たちだったら絶対に許さない」
ハルミンは拳を握りしめて、震えていた。
僕はその可能性を、考えも、口にもしたくなかった。そして、耳にもしたくなかった。
「ハ、ハルミン……」
僕はハルミンに声をかけた、だけど、その後に続く言葉なんて何もなかった。
「ヨーちゃんはさ、も、もしもだよ? そうだったら――」
ハルミンが僕の方を向いて、その可能性が当たっていたら「殺せるのか」と言おうとするのだろうとわかった。その言葉が防護マスク越しに発せられる前に、病院の方から聞きなれていた音が聞こえた。それと同時に地面が揺れた。
ふわっと、浮遊感を感じ、周りの建物や曇り空が遠のいていった。嫌にスローモーションで何が起きたのか理解するのはすぐだった。爆発で地面が崩れて、下に落ちていた。
「う、うわぁぁぁあ!!」
僕は思わず声に出した。
「「きゃああああ!!」」
「いやぁぁぁあ!!」
「ひぃぃぃぃ!!」
僕たちはそれぞれ悲鳴を上げ、落ちていった。
自由落下に身を委ねるしかなく、底が見えない暗闇の穴に落ちていった。下を見ようにも身体を捻る事も恐怖でできず、ただ、眼だけが下を見ようとしていた。それが意味の成さない事だと感じ、落ちてきた上を見ると視界が狭まっていくように落ちた穴が遠のいていった。思わず手を伸ばすものの、背中に強い衝撃が走って意識を失った。
+
首から下が異様な冷たさで目が覚めた。気が付くと水の流れの中にいて、網にかかってこれ以上先に行かないように引っかかっている状態だった。背中越しにドドドドドドドドドという滝から水が落ちている音が聞こえて、段々と意識が覚醒していった。
「ゴホッゴホッ!」
肺の中に水が入っていたのか、せき込み水を吐き出した。防護マスクをしていたため、マスクの中に水の不快感があり、マスクを外して地面がある方を探した。
網沿いに進むと下水道なのか、通路があり電灯が規則正しく設置されていた。水路の中から、通路があるところによじ登り、身体を震わせた。あまりの寒さ、いや服が濡れていることで身体も冷え切っていた。このままだとヤバイと感じ、着ていた服を消し、再度着なおした。
「はぁはぁ……ここはどこだ?」
あたりを見渡すものの、ここがどこなのか思考がうまくできず、さっきまで何があったのか思い出す事にした。アビリティ・スキルを表示させ、パーティメンバーが確かめるとムッツーとタッツー以外が表示された。生存確率を見ると50%となっていた。
この状態になる前までは確か、20%だった気がしたが、どうして元に戻ったのかわからなかった。
確か、爆発音がした。あの爆発音は砂利の砂漠と廃墟の街で何度も聞いた音だった。もしかして、あの二人がこの街にも来たのか? 僕は頭を振り、今はそんな事よりも僕以外のマナチ、ハルミン、ツバサ、ジュリがどこにいるか、まずは探さないといけない。
僕は銃を召喚し、アビリティ・スキルを表示させた。
たしか、銃に着けるオプションパーツでライトがあったことを思い出した。探しているすぐにその項目を見つけることが出来た。そして、ムッツーとタッツーが使っていた銃もいつの間にかアビリティ・スキルを表示されていた。
ムッツーが持っていたアサルトライフル、AK-Mカスタム。Mカスタムはムツミの略だというのがわかった。タッツーが軽量機関銃でRPK-Tカスタム。Tカスタムはタツミの略だった。タッツーの銃はアサルトライフルくらいの大きさだった。見た目もアサルトライフルとさほど変わらない。
僕は二人の銃を見て、それが二人の形見のように感じてしまった。僕は頭を振って、その考えをやめた。
確かめるまでわからない。だから、確かめに行く。
まずはライトで僕が流れて引っかかった付近に明かりを向けてみるものの、特に何も発見できなかった事を確かめた。向こう岸の通路にも何もなく、三メートルそこらの幅しかない水路だった事に気づいた。流れてきた方向へライトを当てると通路は長く続いていた。
しらみつぶしに探していく、しかないか……。
まずは仲間を探して合流し、その後に上を目指してムッツーとタッツーが無事かどうか確かめる。とやることを整理し、僕は歩いた。幸いにも身体はどこも痛くなかったのでよかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます