第62話

 道なりに歩いていると案内図が壁に描かれていた。今いる場所と全体図の地図だった。入り組んでいるものの、街そのものが整理されて作られたのか、地下水路の作りは規則正しく作られているように感じられた。

 自分ではどうやって流れてきたのか、見てもわまりわからなかったが分岐点などから、Yの字になっているあたりに目星をつけて探していけば仲間と合流できるだろうと思い、探索する事にした。

 

 自分がいた場所がかなり深い位置に流れていた事がわかったが、他のみんなはどこにいるのかわからないがきっと会えると信じる事にした。途中でエレベーターがあったが、ボタンを押しても反応がなく、少し残念な気持ちになった。

 途中でここで作業する人たちが休憩に使っていたと思われる部屋があり、警戒しながら中を開けると誰もいない状態で電灯だけがついている状態だった。地上と比べて、地下水路は薄暗さはあるもののどこか綺麗に感じられた。ただ、人がいない奇妙さがあいまって、何か不安が次第に大きくなっていった。

 

 僕は急いで仲間と合流したいと思い、分岐点を目指しながらあたりにライトを当てて仲間が水路のどこかに引っかかっていないか探しながら歩いた。

 

 途中途中で小さな人が通れそうになり穴にライトを当てた際に何かいるような、動きが見えたような気もして一人でいることが余計に不安を掻き立てていった。地上にはゾンビがいるくらいだから、地下に何か化物がいたら正直一人じゃヤバイと思った。

 

 生存確率を見ると50%のままだったので、大丈夫だと自分に言い聞かせながら急いだ。

 

 いくつかの分岐点を探索していると悲鳴が遠くの方で聞こえた。咄嗟にどの方向から聞こえたのか把握できなかったが、その後聞こえた銃声と悲鳴のような叫びを聞いて僕は走った。不安と恐怖が全身に走り、銃を持つ手が自然と強くなり、顔が強張った。

 

 僕はハァハァと息を切らしながら、走り回った。頼む、生きていてくれと駆け巡った。

 

「マナチ! ハルミン! ツバサ! ジュリ!」

 

 吐きそうになるのを堪え、叫びながら走っていくと、銃撃音が次第に大きくなり、いくつかの曲がりくねった先に血だらけになったハルミンを見つけた。マナチ、ツバサ、ジュリは防護服を着た何かに対して、銃を放っていた。防護服を着た何かはずりずりと這いずりながら逃げようとしていた。

 

「マナチ! そいつはなんだ!?」

「ヨーちゃん! ハ、ハルミンをお願い! 私たちはこいつを倒す!」

 僕は気を失って倒れているハルミンの近寄ると、両腕が見るに堪えない状態になっていた事に気を失いそうになった。歯を食いしばり、アビリティ・スキルを表示させて洗浄と止血を選択するが、止血を選択する際に一文表示された。

 

――止血を行うと両腕を切除する事になります。よろしいですか?

 

 僕は気が付いたら、地面を殴っていた。

「うあああああああああ!!!!!!」

 拳に痛みが走るが、何も変わらない現実の無情さに僕は嘆いた。

「ちくしょう!!」

 僕は止血する、と選択するとハルミンのずたずたにされ痛々しい状態の腕は身体から離れ、止血された。

 

 すぐにこれをやった奴が許せなくなり、マナチたちの方を見ると倒し終えたのか、すでに近くにきていた。

「ハルミンは……っ」

「くそ、ったれです」

「ゆるせない」

 マナチ、ジュリ、ツバサがそれぞれ言葉を溢した。

「ごめん、遅くなった……」

 僕は気が付いたら涙を流していた。

 

 数分、落ち着くのに時間がかかった。その間、ツバサとジュリが周りを警戒していた。マナチから何があったのか、話を聞いた。

 僕と同じように網にかかって、通路に這い出てから僕を探していたところに防護服を着た人が歩いてきて、止まれと言っても聞かずに近寄ってきたとのことだった。一定距離に近寄ると背中から触手が出てきて、ハルミンが襲われ、三人が銃で応戦するものの、両腕の骨を折られて今に至るという事だった。あまりの状態にハルミンは意識を失った、という事がわかった。

 

「あれは、何だったんだ?」

「わからない、ただ人の形をした化物なのは確かだけど、許せない」

 マナチが悔しさを滲みさせていた。僕自身ももっと早く合流できていればと思った。もう自分たち以外の者は信用できないと思えたほどだった。

「ミミック……」

「ジュリは何か知っているのか?」

 僕はジュリがぼそりとつぶやいたミミックという単語がどういう意味なのか僕にはわからなかった。だが、何か知っていると感じた。ツバサはその言葉を聞いて、心底嫌そうな顔をしていたので、ツバサも知っているのだろう。

「ミミックというのは、人とか物に化けて襲ってくるモンスターです。この地下水路にそのモンスターがどれだけいるのかわかりませんが、映画、海外ドラマ、ゲームとかでは非情に凶悪なモンスターとして描かれています。さっきも倒したアレは何発もの銃弾を当てても死ななかったので……」

 ジュリが指を指す方向にピクリとも動かない防護服を着た触手もどきがあった。

「ゾンビよりも厄介だな……とりあえずこの場から移動しよう。また現れないとも限らない。ハルミンを僕が背負う」

 僕はハルミンを背負うため、ハルミンを背にししゃがみ込んだ。マナチとツバサが二人で僕にハルミンを背負わせ、立ち上がる。ずたずたになった切り取られた両腕はこのままにしておくしかないと思うと胸が締め付けられた。すまない、ハルミン。

 

「確か、近くに部屋があったからそこにとりあえず向かう?」

「そうだな、こういう通路だと休めないし、また防護服を着たミミックが現れる可能性があるしな」

 

 マナチに先導され通路を歩いていくとドアを発見し、施錠されていないことを確認し、ゆっくりと中を開けると自動的に電気が付いた。中を見ると隠れられるような場所はなく、椅子、テーブル、パイプベッド、壁一面には工具や機械的なものが置かれていた。

 

「休憩室、っぽいな?」

 

 中の安全を確認し、僕は背負っていたハルミンをパイプベッドに寝かせた。片目を失い、今度は両腕を失った事を起きた後にどう思うのだろうと僕は考えた。

「ヨーちゃんが無事でよかった」

 マナチが僕の心配をしていたことに気づいた。

「マナチも、ツバサやジュリも無事でよかったよ。ハルミンは――」

「もっと早く撃っていればよかったよね、よね……」

 マナチが隣で泣いていた。僕はそっと彼女の肩に手を置こうとし――

 

 やめた。

 

「ヨーちゃん、聞いてくれますか?」

 ツバサがいきなり話しかけてきて、ドキッとした。

「ど、ど、どうした?」

 マナチの肩に手を置かなくてよかったと心底思った。

「壁に掛けられているこの義腕や義手に触れたら、アビリティ・スキルが追加されました」

「え? えっと、どういうこと?」

「もしかしたら、ハルミンの腕にこれをつけれるかもしれません!」

 

 壁に掛かっていた義腕や義手は女の子がつけるような腕や手ではなくて太くたくましい筋肉質な腕とごっつい手だった。

 

「いやいやさすがに、それは……」


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