第60話
自分が召喚したものを消すという行為は見慣れていたが、他人がいきなりするとなると呆気をとられてしまう。ましてや、出会った人たちはそういう事をしてなかったので、アーミーナイフを持ってる人しか出来ないものだろうと思っていた。
座っていた僕たちは尻もちをついた。その消え方はアーミーナイフから召喚されたものを消した時と同じような消え方をしたが、僕は何が起きたのかわからなかった。クライドも消えた事やさっきまでのやり取りが本当にあったのかわからなくなった。
「い、今のは夢じゃないよな?」
僕はマナチたちに聞くと、頷いてはいるものの、みんな困惑していた。
「とりあえず、さっきの話を整理しよう」
僕が椅子を召喚して座るとみんなも同じように召喚して座った。
「クライドはゾンビの数を知っていた、ゾンビと何か関わりがあるのかもしれない。あと元の世界に帰る方法を知っていて、門というのに飛び込めば帰れるかもしれない。って事だったけど、聞き間違いはないよな?」
僕は冷静さを取り繕うように喋った。心臓はまだバクバクとしており、全身緊張しているのをなんとか落ち着かせようとしている。
「は、はい。言ってました。元の世界に戻るために門に飛び込めば、もしかしたら……帰れるかもしれないと! ただその門というのは、どういう見た目なのかまでは聞けなかったのが悔しいところです」
「飛び込むと言っていたくらいだから、何もない空間に穴が開いているような感じだったりするかも?」
ツバサとジュリは興奮して若干早口で言葉を紡いでいた。
「門が見つかれば元の世界に帰れるかもしれない、けれど別の世界に行ってしまう可能性もあるのかな……?」
「ハルミンも気になったんだ、私もだよ。飛び込んだ先がここより酷かったらどうしようって思ったりした」
「その時は私の銃でぶっ放すしかないね」
「私もその時はやってるもん」
ハルミンとマナチが仲良く話していて混ざりたいと思った僕だった。おかげで大分落ち着いてきた気がする。
「門は今までそれらしいものを見ていないから、探し続けていれば見つかるかもしれない。あとはゾンビの数がどうしてクライドが知っていたか、関係性が謎だ」
「顔が半分骸骨だし、もしかしてゾンビを操ったりするアビリティ・スキルを持っていたりして?」
アビリティ・スキルを持っていたとして、病院を襲う理由はなんだろう?
「うーん、今のところは確かめられない事ですよねぇ」
結局結論が出るわけでもなく、とりあえず病院に戻る事にしたが、その前に最初に見つけたゾンビの事が気になった。
「あのさ、最初に車の中に閉じこもっていたゾンビってどうなっているか、ちょっと気になったから見に行かないか?」
病院に大量のゾンビが押し寄せていた時に、あの車の中のゾンビは閉じ込められていたので、襲ってきたゾンビの数は厳密には三百じゃないはずだと思った。
「確かにそう言われてみれば気になりますね、またゾンビが発生する元になってしまうので確かめた方が良さそうですね」
ツバサが賛成すると周りも頷いてくれて、一緒に向かう事になった。
+
そこにはゾンビではなく人の死体が存在するだけだった。それが何を意味するのか、ゾンビ化から元に戻るのか?
「ゾンビじゃなくなってる……?」
皮膚の色が人間的な色に戻っており、車の中でぐったりとしていた。生きているのか死んでいるのかと問われると死んでいる。目は開いたままで、乾燥しきった死んだ魚の目をしていた。
「ツバサ、ジュリ……これってどういうことだと思う? ゾンビって治るものなのか?」
「ゾンビみたいな状態が病気という映画とかはありましたけど、これはもう見た感じ死んでいるので、ゾンビになってすぐに治れば大丈夫なのでしょうか……うーん、情報が少なすぎてわからないです」
「同じく私もわからないですが、三百という数がゾンビの上限だとしたらゾンビを全て拘束しておけばよかったのかもしれない? いやこれは憶測ですね、ううん、わからない」
ツバサとジュリにも答えは出せないでいた。僕も考えても答えというものも出なかった。むしろツバサとジュリのような、かもしれないという事さえ思い浮かばなかった。
疑問が尽きない中で、突如視界の隅に赤文字でパーティ内に状態異常警告が出た。
――「状態異常」
「状態……異常?」
僕は出てきたテキストログが今までと違っていた事にぬるりと背筋に何かを入れられたような気持ち悪さを感じた。心臓の鼓動が早くなり、それが何を意味するのかツバサとジュリの方を見ると首を小刻みに横に振っていた。
「ツ、ツバサ、ジュリ、これはどういうこと――」
彼女たちが信じられないような表情をしていたのは、何を見て、そういう表情になっていたのか、僕は気づけなかった。
――ウド ムツミ 死亡
――ナナキ タツミ 死亡
ムッツーとタッツーの死亡したという通知が視界の隅に出た。なんだこれ?
「え、は?」
僕は理解できなかった。
「い、いやッ……嘘」
ハルミンが動揺し、それがマナチへと伝染する。
「え? なにこれ? え? 嘘よね? ツバサ、ジュリ、これって嘘よね?」
――パーティメンバーが死亡した為、固有アビリティはパーティメンバーへ譲渡されました。
いやなんだよ、譲渡ってなんだよ!
「ツバサ、ジュリ、何が起きてるかわかるか?」
僕は二人に問いかけた、きっと嘘だと言ってくれるはずだ。
だが、ツバサは何も言わず目から涙を溢しながら必死に何かを探すように彼女だけ見えるアビリティ・スキルを見て何かを探していた。
ジュリも悲痛な表情をし、目を左右に動かし、ツバサと同じように何かを探していた。
僕も彼女たちと同じようにアビリティ・スキルから何かわからないのか、探すことにした。それが何も意味をなさなく、何も救いにならないとわかるのに時間はかからなかった。
数十分経ったのか、僕には何時間も経ったような気分だった。
マナチとハルミンはその場でしゃがみ込み、呆然としていた。僕は二人に何と声をかけてもいいのか思いつかず、ただ無為に時間を過ごすだけだった。あたりを見渡しても何か変わったこともなく、ただムッツーとタッツーがひょっこり現れるわけでもない。
「くそ、くそ……何が起きたんだ……」
視界の隅に映る生存確率が50%のままだったことが妙に僕を苛立たせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます