第55話
昨日、話していた建物の前に僕たちは居た。バリケードもなく、シャッターもなく、中に自由に入れる建物だった。エントランスから入ると中はキレイな状態で、特に争ったような跡もなく、人だけがいないという建物だった。
「本当にここに人がいるのか?」
「屋上で煙が上がっていただけだから、もしかしたら誰もいないかもしれないけれど、屋上に行って確かめてみようよ。この街の景色も見えるかもしれないしさ」
ムッツーは疑問に感じていたが、僕は何か見つかるかもしれないと思っていた。
「ゾンビに警戒しながら、上を目指そう。エレベーター……はなんか嫌な予感がするから階段を使うか」
「え、なになにムッツーもそう思ったの?」
「む、タッツーもか?」
「途中で止まったりすると怖いから、ね」
「私もだ」
二人のやり取りを聞いて、他のみんなも思っていたらしく、頷いていた。
「よし、それじゃあ一階ずつ見て行こう」
僕たちはゾンビがいたりしないか、上の階を目指していった。拍子抜けだったのは、どの階も机や椅子などもなく、ガラリとした状態だった。何も置かれていなく、ただ大きな仕切りもない部屋があるだけだった。上の階もすでになく、あとは屋上のみとなり、本当にここに人がいるのかという疑問がわいてきていた。
屋上のドアがある階段を上っていくと、バリケードがされており、これは住民がいると僕たちは期待した。バリケードがあるものの、階段上に設置されているだけでゾンビは登ってこれなさそうなだけで人は普通に侵入できる作りになっていた。
バリケードを壊さないように上り、屋上のドアを警戒しながら開けてみるとキャンプファイヤーの火が見え、周りは大型で高級そうなテント、ソファ、テーブルなどが置かれていた。
僕たちは、屋上に入るとソファでくつろいでいる人に気づき、起き上がってこちらを見た。僕らは咄嗟に銃を構えてしまった。
なぜなら、顔の半分の皮がなく筋肉繊維もない骸骨だったからだ。
「「「ゾ、ゾンビ!?」」」
思わず、僕たちは声に出していた。だってこんな状況でくつろいでいるゾンビなんて初めて見るからだ。
「チッ、勝手に入ってくるな、ていうかどこから来た? なんだテメェら?」
青年のようなゾンビは僕たちをにらみつけてきた。
「あぁん? 用がないなら去れ」
「あ、いやあの、煙が上がっていたのでその気になってきたのですがあなたはゾンビですか?」
僕はおっかなびっくりというか、喧嘩腰の人に怖じ気づきながらも聞いた。顔の半分が骸骨で非情になんというか怖いけれど、言葉は通じるのでまだ大丈夫かと思ってしまっていた。
七三分けだが、ピシッと整えられているわけでもないサラサラな銀髪に、骸骨部分じゃない方の眼はシュッとした目をしていた。骸骨部分がなければイケメンなのだろうと思った。服装もこの街で出会った人たちと違うデザインをした、どことなくコスプレ感がある模様が入ったローブをきていた。
「はぁ、オレはゾンビじゃねえよ。ていうか、お前ら銃なんて持って何してるの?」
「あ、すみません。ここら一帯のゾンビを倒していたり、していたのでゾンビだと思って銃を向けてしまいました」
「あぁ? ああ、そういうことか……お前らがゾンビを倒していたのかなるほどね。どれくらい倒したの?」
ソファに座り直し、顔が半分骸骨の青年は僕たちに聞いてきた。
「近くのショッピングモールじゃない他のショッピングモールでゾンビがいたから倒したけれど、何体かは数えていないが、それが何かあるのか?」
僕は怪訝な顔で答えたと思う。なんというか不気味さがある男だなと感じた。
「へぇ、なるほどねぇ。人は何人死んだ?」
「助けられなかった人は一人いたけど……それがなんだよ」
「いや、ちょっと気になっただけだよ。それで何の用なんだ?」
僕らは警戒していた。
「なんだ? 用がないなら去れよ」
態度がなんかくそむかついたがぐっと堪えた。
「僕はミドリカワ ヨウと言います。君は?」
「んぁ? ああ、オレはクライド、クライド・ゼファーだ。それでヨウたちは何しにここに?」
「何しにって、わかりません。煙が上がってて、この街の事を知ってる人がいると思ってここに来たんです」
僕がこの建物に行こうと言い出したのもあって、このクライドに対して会話していた。銃は彼にはもう向けておらず、距離はとっているだけで一応警戒はしている状態だ。
「いや、そうじゃなくて、まあいいや。この街の事だっけ、この街は子どもや老人がいない街だ。こんなに広い街なのに、子どもと老人だけしかいない。そういう街だ」
ショッピングモールには子ども用の服がなかった、そういえば病院といっていたのに老人がいなかった事を思い出した。
「他は? 他になんか用?」
矢継ぎ早に聞かれ、応えてくれた言葉に対し詰まってしまった。
「あ、あの光りについて何か知ってますか?」
マナチが食い気味になってクライドに聞いた。
「壊れたビヴロストだ、今は光りの樹とか言われているがあそこは危険な場所だ」
スッと表情が代わり、鬱陶しいと僕たちを見るわけでもなく、無表情だが少し悲しさが影にあるような顔をしていた。
「健全な命を吸い成長する。あの光りの根本には大きなエネルギーが溜まっていて、近寄り過ぎると魂ごと食われる。それが輝いて見えているのがあの光りの正体だ」
はぁとため息をつき、彼は寝ころんだ。嫌なことを思い出したのか、もうこれ以上答えたくないのか、手で帰れという仕草をした。
「もういいだろ、去れ。オレは忙しいんだ、シッシッ」
僕たちはそれ以上何かを聞こうとしたかったが、これ以上ここにいるのは何かとてつもなく嫌な予感がし、帰る事にした。その予感は生存確率でわかり、いっきに1%まで下がった事によって拠点に戻る事にした。全身気づかない内に冷や汗をかいており、建物から出ると今までと同じ生存確率に戻っていた事に互いに安堵した。
僕はあの嫌な予感の正体がわからなかったが、自分たちが生きている事に互いに身を寄せ合った。周りを警戒する余裕もなく、息も荒くなっていた。数分、数十分経ったのかどれくらい時間が経ったかわからなかったが、一度拠点に戻ることにした。
クライドが言っていたことを一度整理することにした。
+
「あの光りが壊れたビヴロストと呼ばれるもので、今では光りの樹で、近寄ったら危ないということだった」
ムッツーが腕を組みながら言葉にしていた。
「あとこの街に子どもと老人がいない、倒したゾンビの数を彼は気にしていたわ」
タッツーはクライドが街についてと最初に聞いてきた事を付け加えた。みんなはうーんと唸った。
「思い出したくないけれど生存確率が1%になった件について、もな」
僕は最後にとってつけたように言った。これは目を背けてはいけない、そんな気がしたからだ。
「む、むちゃくちゃ怖かった」
「いき、生きた心地はしなかった」
マナチとハルミンが顔面蒼白になっていた。
「あ、あれはあれですよ。殺気というやつですよ。やべーですよ」
ジュリも顔面蒼白になっていた。その横でツバサはぶんぶんと首を縦にふっていた。
「ああ、正直、ゾッとした」
「ちょっと私、お手洗いいってくるわ」
ムッツーとタッツーは少し震えており、タッツーは応接室から出てお手洗いをしにいった。廊下で簡易トイレを召喚して用をすますのだろうと想像していたら、マナチから軽蔑的な視線を送られてきた。いや違うよ? 心配していたんだよ?
数分後、タッツーが戻ってきたので話を再開した。
マナチからの視線は痛いが、今はそれよりも情報の整理だ。誤解はあとで解こうと思った。本当は今解きたいけど。
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