第54話
拠点のショッピングモールへ戻り、侵入者やゾンビなどいないか警戒しながら応接室に何事もなく戻ることができると僕たちはささっとくつろげるように椅子やテーブルを召喚し、各自のスペースを作った。
「今日も色々あって疲れた」
ハルミンがぼそりとつぶやいた。
「でも、何事もなくてよかったわ」
タッツーが言うとハルミンは笑みを浮かべていた。
「まともに会話できる大人に出会ったのも大きいな」
三人は今日のことを話しながら、住空間を充実させていっていた。
「ヨーちゃん、ぼーっとしてないで私たちも準備しよ」
「ああ、すまん」
僕はマナチに言われ、ハッとした。三百合空間で心の保養をしていた所、マナチに感づかれた。僕もテントを召喚し、中にクッション材や寝袋などをセットした。
「それにしても今日めっちゃ歩いたから汗で気持ち悪い……先にシャワー浴びてくる」
「いってら~」
廃墟の街以降から僕たちの距離感は近くなっていた。とはいえ一線を超えるような一戦はない。他の人たちは知らない。多分ないと思う、あったら声で気づいてる。
みなそれぞれシャワーを浴び、各自で食事を済ませ、落ち着いてきた頃合いにムッツーから声がかかり、大き目のテーブルにそれぞれ椅子に座り、情報を共有する事になった。
「まずはツバサがアーネルトに質問した事から話を進めておこうと思うけれど、それでいいかな?」
「あ、問題ありません。えっとまず血液検査の時に検疫のテキストログが表示された人っていますか?」
血液検査の時には特に何も違和感なく、テキストログも出なかった。周りの人も出なかったのか首を横にふっていた。
「なら、よかったです。というのもあの病院という施設は私の中で怪しいと感じました。誰かひとりでも検疫に引っかかっていれば、即日ここから離れた方いいと思って聞きました。特にそういったことがなかったので問題ないかなと思います」
「検疫に引っかかる場合ってどんな可能性があったんだ?」
僕はあのタイミングで引っかかる可能性がわからなかったので聞いてみる事にした。
「SFとかそういった設定上のアニメとか漫画であるのですが、ナノマシンと呼ばれる極小のロボットを身体の中に入れられて監視したり、作品によっては遺伝子を組換えようとしたりとするので、警戒した感じですね」
うえぇぇ何それ怖い。ていうかそんな作品もツバサは知ってるのに驚きだよ。
「確かに、採血された時に痛みも感じなかったくらいの技術力があるのならあり得そうだよね」
「あのゾンビだって実は人体実験の末に出てしまったバイオハザードだったりとか、よくある設定ですからね」
確かに自然発生するゾンビとか前の世界ではなかった。そもそもゾンビなんていない世界だ。
「とはいえ検疫に引っかからなかったので、そうじゃないという可能性はあると思います。この世界にいるあのベェスチティのような生物もいるのでわからないと思いました。生存確率もあの質問をした時に特に変動がなかったので言っている事は嘘ではないような、そんな気はしました」
「私の生存確率も変わらなかったな。他のみんなはどうだった?」
ムッツーも気にしていたのか、生存確率について周りに聞き、周りも特に変わらなかったのか口をそろえるように変わらなかったと答えた。
「あと気になった事があって――」
ツバサがさらに話しだす。
「あの施設内にドローン、あ、無人ロボットの事なんですが、あれがあるならどうして街中にドローンがいなかったのか技術的にゾンビを制圧させたりするのに可能な気がしていて、気になりました。いきなり異世界転移させられてそもそも持ってないとかという線もあるかもですけど」
「ツバサから見て、あの施設は何かおかしく感じてる、ってことでいいか?」
ムッツーが問いかけると、ツバサは頷いた。
「他に同じ風に感じてる人はいるか?」
するとハルミン、マナチ、ジュリ、そして僕が返事をした。タッツーはそう感じていないのか、特にという感じだった。
「まあ、確たる信頼できるようなものが互いにないから相手もそう思っているかもしれないな」
「建物から煙が上がっていた所に住民がいると思うのでそこで話を聞いてみて、確かめてみるのはどうだろう?」
僕はムッツーに提案した、どのみち明日にでも確かめたいと思っていたのであの病院が本当はどういう所なのかわかるだろうと思った。
「む、確かにな。ちなみに私はあの病院は割と信用できるんじゃないかとは思った。対応がその大人だったし、何か前向きさがあったからな」
「それは私も感じたわね」
ムッツーとタッツーは対応がしっかりしていたので好感度はある、といった感じだった。言われてみればこっちは割と失礼な態度だったけれど、紳士的だったな。
「とりあえず、今日は休んで明日はその建物に行き、住人と話をして確かめてみよう。他に特になければ各自解散ってことでいいか?」
ムッツーが締めると僕たちは返事をし、そのまま残って雑談したり、くつろいだりした。
「そういえばハルミンはあの施設はどうしてなんか違うと思ったんだ?」
僕はちょっと気になったので聞いてみた。
「私の無くなった目の方を見て、なんか態度が変な感じがしたから……いや、多分普通な事なんだろうけれど、なんかこう……よくわからないけれど、嫌だなぁと思ったからかな」
「同情的な?」
「そういう感じじゃなかった、よくわからないからなんかなーっていうそれだけ」
ハルミンは片目を失ってから、片目でよく周りを見るようになった分、観察眼がついたんだろうと思った。
「そっか~」
「ヨーちゃんはどうだったのさ」
「え、僕? うーん、シュシャに出会った時に生存確率が下がったのがずっと気になっててその答えが出ていないから信用は出来ないと感じたから、かな」
「生存確率か、ふぅ~ん。そっか、ありがと」
「え、あ、うん?」
僕は何に納得してお礼言われたのかよくわからなかった。その夜もやっとしたまま、ハルミンの事が気になって寝つきが悪かった。浮気ではない。
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