第51話

 僕はツバサとジュリの前に椅子を召喚し、そこに腰掛けて二人にショッピングモールで見た疑問について話した。

「見た事もないブランドばかりでここは僕たちがいた世界とは異なる別の世界なのか、それともすごい未来なのか、意見が聞きたくてさ」

「ヨーちゃんはどう思ったの?」

 ジュリがワクワクしてるのを隠そうとせず聞いてきた。思えば、最初の時と比べてだいぶ打ち解けあえて来た感じがある。

「ここは異なる世界だと思う。未来という感じはしないかな、あとこのショッピングモールはこんなビジネス街みたいなところにあるのがなんか未来っぽいのもあって混乱したかな」

「あ、やっぱりそう感じました。私はここは研究都市とか、何かしらのコンセプトが先にあってできた都市だと思いました。自分たちがいた世界ではこういう都市構想はなかなか難しいのでライトノベルとかならありえそうですけれどね」

「ツバサはそっち方面に考えたのかぁー、私はここは企業が作成した都市かな。あのEXP部隊のシュシャという人を見る限り、国主導で作られたというよりも企業とかそっちが作った都市な気がしますね」

 ツバサとジュリの話を聞くとなかなか自分では考えつかない視点が出てくるのですごいと感じた。

 

「二人ともすごいな」

 

 ふと思ったことを口にしてしまった。

 すると二人とも同時に赤面し、僕から顔をそらした。そこは照れるところなのか、なかなかかわいい。

「あ、企業が作った都市と思ったのは、恥ずかしい話なのですが私に合うサイズの服が置いてなかったのです。あと子ども服とかほとんど成人用のものしか置いてなかったのが企業が作成した都市なのかな、と」

「えぇ、それでも子ども生まれたら育児とかそれに必要な施設とかあってもいいのにね」

 この後、この街が生活する上で不自由ではないけれど、子どもの居場所がない点やトラックやバス停が見当たらないといった事を話した。

 

「あ、そういえばこの街にきて防護マスクつけていたけれど、ゾンビって臭うのか?」

 

 僕は瓦礫の山でベェスチティを倒した時とかも特に臭いはしなく、この街でも防護マスクをみんな着用していたがマスク越しだったからか臭いはしなかった。

 

「やはりこの世界は何かゲームを元に作られた世界?」

 ジュリはハッとしながら言った。

「ゾンビは基本臭いはずなんですよね、でもあのゾンビたちは蛆虫やハエがたかっていたり……そういえば、虫って見ました?」

 ツバサが言う虫というのはなんだろうか?

「虫ってどういう虫だ?」

「死体とかでもそうなんですが、放っておくと虫が湧くんです。なぜ虫が湧いてくるのかわかりませんが、ハエが卵を植え付けるのかどうかわかりません。ゾンビだって動く死体なので虫が湧いてもおかしくないんです。あと気がついたのですが生活臭があまりにもしない……」

「僕たちは普通に臭ったりするよな……」

 僕はまだシャワーを浴びてないので汗臭さがあった。

 

「「たしかに」」

 

「仮に自分たち以外がゲームのキャラクターだとして、この世界がゲームを元にした異世界だとしても自分たちだけ臭うとかってあるのか?」

「うーん、ないと思います。何もメリットもないですし、意味がない気がします」

「私もそう思う」

「わからないことだらけだ、あ、そういえば、シュシャと出会って生存確率ってどう変化した? 僕は5%落ちて70%から65%になったんだけど、二人は?」

 二人は生存確率を確かめると首をひねっていた。

「私のはあの時と変わらない状態ですね」

「私も変わらないです」

 二人は変動しなかったので、僕だけ何かあるのだろうかと疑問に思ったが答えが見つかるわけでもなかった。

 

「とりあえず、子ども、虫、臭いの三つは新たな謎ですね。アビリティ・スキルは知らない間に何か増えていたり、まだ何か隠された機能とかありそう、という事ですね」

 僕は頷き、ツバサとジュリと話せた事で何か整理できた気がしたので感謝の言葉を口にし、その日は休む事にした。もちろん、休む前にシャワーを浴びる。

 

 +

 

 この街に着いて二日目。ショッピングモールを拠点とし、周囲を探索する事にした。シュシャがいっていた建物も気になるが、何か情報を得られそうなら得てから光りがある方に向かう事にした。自分たちが持っている銃は充分ゾンビと戦える事から出会ったゾンビを倒すことである程度安全になるのではないかと話し合った。

 

 準備をし、拠点とはいってもテントなどは出る際には全て消し、ショッピングモールをあとにした。

 

「このショッピングモールを中心にぐるっと時計回りで探索してみよう」

「その後はどうする?」

 僕はさすがに探索し続けるのは飽きてしまうと思った。

「拠点に戻って服を見たり、今日はちょっと休憩しよう」

「「やったー」」

 ムッツーが今日のスケジュールを言うとタッツーとマナチは喜んでいた。

 

 僕たちはいつもの陣形を組み、生存確率を確かめ、周辺を探索する事にした。ショッピングモールを中心に探索していると、周りの建物がいくつかのパターンしかない事に気づいた。

「昨日歩いている時は、気づけなかったけれど、ここの建物ってそんなに種類がないよね」

 ハルミンは銃を持ち歩けないので周りを警戒する役目だった。片目を失っている分、死角はあるがその分、身体ごと動かして、あたりに注意を払っていた。

「バリケードがしてある建物とそうじゃない建物の違いは住居かビジネスかの違いなのかな」

 ところどころにバリケードがある建物があり、ハルミンが言う通りその違いなんだろうと僕は思った。

 

 ショッピングモールを中心に段々範囲を広げて探索していく中で、バリケードを駆使してゾンビから逃げようとしている人を見かけた。

「ムッツー」

 ハルミンはムッツーに声をかける。

「わかってる、この距離だと弾が当たってしまう可能性があるから近づき、ゾンビを倒そう」

「私は襲われている人との距離が遠いゾンビから倒していくわ」

 タッツーがアサルトライフルを構え、ゾンビに向けて撃つとマナチも一緒に構え、撃った。二人の連携によって、ゾンビは瞬く間に行動不能となった。そのまま、次のゾンビへと照射していった。

 

「あ、ありがとうー!」

「こっちへ走ってこれるか!?」

 ムッツーが叫ぶとヘロヘロになりながらこちらに走ってきた。

 

「ツバサとヨーちゃんは彼女の後ろから追ってくるゾンビを頼む」

「わかった」

「了解」

 僕たちは正面の位置ではなく、走ってくる彼女の斜めの位置に移動し、追ってくるゾンビに向けて銃を撃ち、行動不能にしていった。

「ジュリとハルミンは左右と後ろを警戒をお願い」

 二人は頷き、あたりを警戒していた。

 

「はぁはぁはぁ……ひぃひぃひぃ……はぁはぁはぁ」

 

 全身で息をするように無事にゾンビから逃げ切り、ムッツーの元にたどり着いたのだった。ムッツーは彼女を抱きかかえると追ってくるゾンビに対し、銃を撃って倒した。一通り見える範囲にいるゾンビを倒しおえて、息がまだ整っていなかった。

 

「あひ、ありが、と……はぁはぁはぁ」

 

 どんだけ体力がないんだ、この人。それが彼女に対しての第一印象だった。


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