第52話
助けた彼女はアンネイと名乗った、服装は白衣でどう見ても理系だ。眼鏡はかけてない。
「あ、ありがとう。ほんと助かったわ、このあたりのゾンビは掃討したって言っていたから油断したわ。いやほんと助かった。ありがとう」
「それで一人でこんな所で何を?」
ムッツーが警戒はしているのか、問いかけた。
僕は生存確率をちらっとみて、また5%下がったのが気になった。65%から60%に変動したのだ。もしかして、誰か知らない人に出会うと下がるのか? コミュ障がたたって生存確率を下げているのか?
「この先にある病院で働いているんだけど、それぞれに立てこもってる住人の巡回していたのよ。ここら一帯はゾンビを掃討してるからゾンビがいないはずなんだけどね。いきなり現れたのはびっくりしたわ、ほんとびっくり」
「病院? というとあなたは医者なのか?」
「ええ、まあそうなるわね。改めて医者のアンネイです。よろしくね……それでその、念のため病院まで護衛してくれない?」
なんとも情けない医者だった。いや武器も持っていないので、この街では普通なのかもしれない。僕たちが弾数無限の銃を持って無双しているのがそもそもおかしい。
「ちょっとどうするのかみんなと話させてくれ、一存で決めるわけにはいかない」
ムッツーはいったん断りを入れ、僕たちはその人から少し離れた場所に移動した。これも事前に何かあった時に相談して動こうと決めた事だった。
「私としては護衛したい、何かあったら後味が悪いという理由だ」
「私もちょっと不安になる体力の無さもあって、放っておけないわ」
「私は病院が気になるから、見ておきたい。ゾンビの事もあるし」
ムッツー、タッツー、ハルミンがそれぞれ理由を言ったので、僕は自分の生存確率を確かめたが変動しなかった。
「私は賛成、かな。服とかもらった分はこの街の住人に貢献しないと、って思ったから」
「私はちょっと病院といって怖いですが、送るだけなら……」
「私も送るだけなら賛成です」
マナチ、ツバサ、ジュリも賛成で、視線が僕の方へと向いた。
「僕は賛成、ただ病院っていうのが気になるかな、ツバサとジュリがゾンビもので病院って言うとトラブルが起きる場所だからね」
ムッツーは頷き、要点をまとめた。
「よし、いったん送り届けて拠点に戻る方向で、病院には長居しない、または一泊しないという事にしよう」
話がまとまり、周りをキョロキョロして警戒していたアンネイにムッツーは近寄り、送っていく事を伝えるととても喜んでいた。そりゃ、ゾンビがいないはずが、実はいるかもしれない場所を通らないとなると怖いか。
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病院に向かう道中は話をしないで向かう事になった。話をしていて注意が散漫になってしまうこともあって、方向だけ教えてもらいながら病院へ向かう事になった。数十分歩き続けると大きな建物があり、周りの建物とは違う見た目の建物だった。バリケードも何重もあり、フェンスなどもあって、重要な建物感が出ていた。
「アンネイ! そいつらは誰だ!?」
警備をしている人が僕たちを見て、声を張り上げた。
「途中でゾンビに襲われているところを助けてもらったのよ! っていうか、ゾンビ出たんですけれど! このあたり掃討したんじゃないの! 出たんですけれど!」
「お、おおう。それはすまなかった。何より無事でよかった。一応規則上検査するぞ?」
「接触してないけれど、検査でしょ。わかってるわよ」
「ん、七人……もしかしてシュシャと会ったやつらか?」
別の警備員が僕たちを見て言った。
「一応、そのシュシャという人が私たちが会った人と同じ人なら、そうだと思うが」
ムッツーは少し警戒し、応えた。シュシャが言っていた建物って病院の事だったのか、それとも別の建物があるのだろうか? いや病院なら病院と言うか。
「シュシャは一人しかいねぇから間違いないな、よろしくな。歓迎するぜ」
僕たちはアンネイに案内されるがまま、病院の敷地内へと入っていく事になった。
建物の中は外からもわかるほどキレイで、白いタイルに白い壁で清潔感に溢れていた。
「あの、一応規則で悪いんだけど血液検査はさせてもらってもいい?」
アンネイが申し訳なさそうに僕たちに告げた。
エントランスホールにはいくつか椅子があり、病院内は医者、看護師、ロボットのようなものが行き来して、僕たちをチラ見していたりした。
「ゾンビのウイルス感染があるのか確認、って感じね」
「アンネイさん! 誰ですかその人たちは?」
「うわっ! うっるさいな! ゾンビにされそうなところを助けてもらったんだよ」
「なるほど、無能な部下を助けてくださりありがとうございました。私はこのアンネイの上司のアーネルトと言います。おい血液検査をアンネイにさっさとしてやってくれ」
アーネルトと呼ばれる青年が歩いているロボットに言うと血液検査キットがロボットの中から出てきたので、すぐさまアンネイにぶすりと差した。
それが血液検査キットと言われないとわからない見た目だった。ボールペンのような見た目で針が見えなく、肌に当てると中の入れ物が赤くなった。ボールペンといってもそこまで長くなく、普通のより半分の長さのものだった。
「あ~、そのそれで……すまないけれど、規則なので君たちも検査してもらっていいかな? この施設に入る時にしなきゃいけないんだけど、こいつから説明なかったよね。ごめんなさい」
「あはは~ごめんなさい」
僕たちは仕方ないか、という感じで血液検査をすることになった。数秒で済み、チクリともせず終わった。血液検査はすぐに反応が出るのか、採取して数秒だけキットを見ると検査済みの箱に投げ入れられていった。
「異常なし、っと協力ありがとう。それで君たちは?」
「えへえへ、実は私もよくわからない」
アンネイが適当なことを言い、そしてアーネルトに怒られていた。見かねたムッツーが街の外からきて、ゾンビを倒したり、シュシャに出会った事を話した。
「な、なるほどね。それはなかなか大変だったね、アンネイのことを改めて、助けてありがとう。えっと、ここじゃなんだし、あそこの待合場所で話そうか」
アーネルトが向かったのはエントランスホールの一角にある椅子とテーブルがあるエリアだった。
「アンネイは報告書を作成してきてね。どうせまたさぼれると思ってるんでしょ」
「あ、ひっどいなぁ。そう思ってたけれど。あ、助けてくれた恩人に失礼のないようにね」
「お前が言うか、さっさといけ」
僕たちは和気あいあいな雰囲気に緊張感が抜けたような感じになっていた。椅子に座り、テーブル越しにアーネルトが気まずそうな顔をしながら、頭を下げた。
「いや、本当にご迷惑をおかけして申し訳なかった。そして、ありがとう」
「当然のことをしたまでです」
ムッツーが対応してくれそうなので、僕たちは事の成り行きを見守ることにした。
「あのお伺いしたいことがあるのですが、い、いいですか?」
ツバサがすこしおずおずとアーネルトに質問をした。アーネルトは頭を上げ、にっこりと笑顔になり答える気配を出した。
「なんでも聞いてくれ」
僕は生存確率を見ながら、ツバサが何を質問するのか少し緊張をした。ツバサから何か行動をするのは稀だったのもあり、何かに気づいたのかなと思ったからだ。
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