第50話

 僕たちはそれぞれ簡単に自己紹介をした。ここで名乗らないのもおかしいからだ。互いの距離も近くなり、バリケード超しではあるが、手を伸ばせば届く距離で話していた。

「それでこの街の外っていうと……?」

「もっと先にある場所に街があって、そこに恐ろしい化物がいてそこから逃げてきたんだ」

「なるほどねぇ、まあゾンビも侮らないように気を付けてね。ところでなんでショッピングモールなんて入ったの、駐車場にゾンビが乗ってる車があるくらいだから危ないのに……」

 もっともな疑問だと僕は思った。いや僕以外にもみんな思っているだろう。その理由がかわいい服があれば、欲しかったからというのだとしたら、こいつら盗人かと思われてしまうだろう。

 

「じ、実は服があればなぁ……と思って……」

「え、ああ! 服ね、服! ん~、そしたらあっちの方にもショッピングモールあってそっちはゾンビがいないのを確かめてあるし、服とか置いてあるからそこで探すといいよ。はっはっはっ」

 シュシャに笑われてマナチは恥ずかしそうにしていた。

「いいのか、その払うお金もないぞ?」

 ムッツーがお金についてもっともなことを言った。

「いや、今の状況は仕方ないしね。あ、そうだ落ち着いたらここをまっすぐ行った先に僕たちの拠点があるから、よかったらあとで来てよ。それじゃ、私はそろそろゾンビが居たっていっていた場所を調査しに行かなきゃいけないから、またどこかで」

 そう言って、シュシャは右手を出し、それが握手だとわかるのに数秒かかり、彼は笑った。僕たちはハルミン以外は銃を持っていたが銃を持ち直し、握手した。

「まあ、こんな状況で大変だけど、お互い生き残ろう。それじゃ、私はこれで失礼するね」

 

 そういって、彼はバリケードの裏に立てかけていた銃を拾って、腰くらいの高さのバリケードをひょいっと何でもないように飛び越すと僕たちの前の前を通り過ぎた。

 

「あ、ちなみに他にもゾンビいた?」

「ショッピングモールの中にいたゾンビは退治しました」

「お、それはありがとう。それじゃ気を付けてね~」

 ムッツーが答え、シュシャはそれを聞くと僕たちが通ってきた道を早歩きで移動していった。

 

「悪い人、ではなさそうですね?」

「そうだといいけれどな」

 

 僕は生存確率を確かめると65%になっており、70%から5%下がったのが誤差なのか、それともあのシュシャと会話したのか判断がつかなかった。

 

「それじゃあ……少し遠回りになるが服があるショッピングモールへ向かうか」

「賛成~!」

 ムッツーが言うとマナチは喜んだ。

「他のみんなもそれでいいか?」

「問題なし」

「同じく」

 僕たちは、服が置いてあるショッピングモールへ向かう事になった。

 

 +

 

 シュシャが言っていた方向に数十分ほど歩き続けると先ほどとは違った大きな建物があり、それがショッピングモールだとすぐに気づくことができた。大きな看板に、駐車場があり、いかにもという感じだった。ただ違うのは駐車場には一台も車がとまっていなかった。

 シャッターもかかっておらず、中には普通に入ることが出来た。人の気配もなく、中を警戒しながら探索してもゾンビの姿はなかった。料理店や食品エリアには何も置いてなかったが衣類を扱う店には服が置いてあった。

 

「ふ、服があるー!」

 マナチが嬉しそうな声を上げていた。

「おちつけ、一応安全かどうか探索し終えてからだ」

「うっ、確かに」

 僕たちは陣形を組み、ショッピングモール内をくまなく探索した。従業員が入るような裏側も含めて慎重に探索し、ゾンビがいない事と人の姿もいないことを確認した。

 

「それにしてもここ服とかはいろんな種類のが置いてあるけれど、食料や雑貨はどこも空よね」

 タッツーが衣類を物色しながらマナチに話しかけていた。

「服があるだけ良しです!」

「そ、そうね」

 僕は二人が服を見ている間、護衛という形をとることになった。他の四人はこのショッピングモールで拠点になりそうな部屋を探すことにした。幸いにもゾンビの姿もないことと、電源が通っているのもあり、シャッターの開閉も出来たりし、勝手に使う方向にした。

 

 二人は気になる服を買い物かごに入れ、試着室で確認したりしていた。

 

 どの服もどこかで見た事があるようなデザインだが、知らないブランドのもので自分が知っているブランドは一つも存在しなかった。ファーストフード店らしき料理店もあるが、知らない名前だった。ツバサとジュリあたりならきっとこの街やこの世界についてある程度答えを出しているような気がした。

 僕は少なからずここは僕たちの居た世界ではない、別の世界だと思っている。言葉は通じるが、シュシャの見た目は欧州にいそうな外国人だった。書いてある文字も読めるが、日本語ではない別の国の言葉だ。なぜ会話が出来たり、文字が読めるのかは、わからない。もしかしたら、アーミーナイフに隠されたアビリティ・スキルか何かなのかと思ったりした。

 

「ジュリとツバサたちに合流してからだなぁ」

「ヨーちゃん、何か言った?」

「いや、なんでもない」

 後ろ近くで服を見ていたマナチが僕の思わず出た独り言に反応した。

 

 程なくして遠くの方でガタンと言うドアが開閉する音が聞こえると、ムッツー、ハルミン、ツバサ、ジュリの姿が見えた。どうやら従業員通路から一般客エリアに入ってきたようだ。

「おーい、休めそうな場所見つけたから、今日はそろそろそこで休もう~」

 ムッツーが手を振りながら言ってきた。

「わかった、そっちに向かう」

 僕は返事をし、マナチとタッツーの方を見ると神妙な表情をしていた。

「いや、もう行くぞ。さすがに時間的に、な?」

 二人はもうちょっと物色したさそうな表情をしていた。

「また明日も見ればいいさ」

 二人はなんとなく納得したような表情をしたと思ったが不満な表情をし、しぶしぶと移動する準備をしはじめた。

 

 四人と合流した大荷物を抱えた二人と僕たちはこの建物の応接室のような綺麗な部屋に移動する事にした。すでに四人がバリケードなどを準備していたので、入るのに大変そうだなと思った。だが、アーミーナイフから召喚できるものだったので、通る時に消して、再度召喚するというとっても楽ちんだった。

「出来るかなと思ってやってみたら出来たんですよ」

 ツバサはふふふと言いながら胸を張っていた。

 

 こうしてバリケードで固められたゆったりとくつろげる応接室でテントを召喚したり、さらにくつろげるようにセットしていった。シャワー室もあり、水が出ることも確認したがジュリが水が安全かどうかはわからないのでやめた方がいいという理由で使用禁止となった。

 もとより、簡易トイレや簡易シャワーが召喚でき、使用後は消えるのでそっちの方が気にせず利用ができるので特に問題はなかった。

 

「ふぅ~、やっと落ち着ける」

 ムッツーは椅子に座りながらだらけていた。

「今日一日、なんかとても長く感じたね」

「いろいろあったからな」

 ハルミンとムッツーが話をしている横でタッツーは物色していた服を整理していた。マナチの方を見るとタッツーと同じように整理して考え込んでいた。普段着をどうするのか悩んでいるのだろうと思った。

 

 ツバサとジュリの方を見るとバリケードが召喚できた事を話し合っていて、僕もそれに混ざろうと思い近寄った。

「ヨーちゃん、どうしました?」

「このショッピングモール見て回ってて考えた事を共有したくて、さ」


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