第35話

 その夜は誰も寝れずに、アビリティ・スキルと自分たちが持つ銃器について話し合いを続けた。

 

 ツバサとマナチは同じアサルトライフル型で、互いに共通の距離から攻撃ができ、僕はそれよりも短めの距離で、ジュリはもっと近い距離で撃つものという認識を共有した。前に砂利の砂漠で試射した時はそこまで遠い距離でもなく、同じ距離で撃つものだという認識が互いにあったのを思い出した。しかし、それぞれの特性を知ることで、お互いどうやって支え合うのか話になった。

 

「ジュリは、相手が近くまで来た時に対応をお願い……そうならないように私がんばるから」

 マナチは深夜のテンションからか、少しだけハイになっていた。

「私もマナチと一緒に、い、一緒に……がんばる」

 ツバサは勢いで言ってしまった後に照れて噛んでしまったのだった。

「うん、一緒にがんばろう。ヨーちゃんは私たちがうまくいかなかった時に助けてくれると嬉しい、かな」

「ああ、わかった。なんとかやってみる」

 

 マナチに言われたものの、僕は不安だった。はたして撃てるのだろうか、撃たないといけない相手はなんなのか、あの臓器の塊みたいなものなのか、それとも気持ち悪い生物ベェスチティなのか、それともアカネになるのか、と考えていた。実際にアカネだった場合、相手が持っているのはショットガンだとジュリから教えてもらった。射程が短いからツバサとマナチが先に撃つ事になるだろうが、そんな遠くにいる状態から撃てるのだろうか?

 いつも近くにいる状態が多いのですでに相手の射程距離内だ。その場合ジュリが対応するのか?

 

 そうなった時に、はたして撃てるのだろうか、撃てなかった時に僕は撃てるのだろうか、と考えると撃ちたくないという思いが出てきたのだった。

 

「な、なぁ……もしも、アカネが――」

「アカネちゃんがどうしたの?」

 マナチが首をかしげながら僕が口走ってしまいそうになる前に聞いてきた。

「いや、なんでもない」

 そう、なんでもないのだ。その時になってみないとわからないのだ。

 

 もしも、アカネが襲ってきたら撃てるのかと僕は聞けなかった。マナチやツバサもジュリでさえアカネが襲ってくるとは思ってもいないし、考えてもいなかった。

 僕だけは、襲ってくる相手が同じ人間である可能性があると考えていた。それは瓦礫の山で人が人を殺ろすような行動をしていた者がいたからだった。実際に事故で死んだのかもしれないが、人が人に対して簡単に殺せてしまう状況であることから、僕は改めて怖いと思った。

 

 ふと、アビリティ・スキルで表示はされているものの詳しく見れないスキルが気になり、ツバサに聞いた。

「なぁツバサ、アビリティ・スキルで選択ができない部分ってどうやって解放されるか知っていたりする?」

「私も気になって意識して解放されろーって念じたり、解放方法を教えろーって念じたり、ってしたりしたのですがわからないんですよね。ゲームとかだと何か経験を詰むとスキルポイントを得られて、そのスキルポイントを使って解放していったりしますね。あとは他のスキルを持ってる人から教えてもらうとかもありますが、私たちのは共有されているので当てはまらないのかなと思いました」

「経験って例えばどんな経験だったりするんだ?」

「て、敵を倒したり、何かミッションとかクエストと呼ばれるお題をクリアすると得たりしますね」

 敵……あの時、ネズミを大量に倒したからもしかして解放できたりするかもしれない。僕はアビリティ・スキルの詳しく見れない「偵察」と「特殊・自動化」がある中で、なんとなく「特殊・自動化」が気になり、解放しろと念じてみた。

 

 しかし、何も起きなかった。

 

「うーん、結構ネズミを倒したから出来るかなと思ってやってみたらダメだった。もしかしたら何かお題っていうのがあるのかな?」

「アビリティ・スキルの中を探してみてもそういった項目やヒントみたいなものが無かったんですよね。なんというか、チュートリアルもないし、これがゲームだったらマゾクソゲーです」

 ツバサが半目しながらアビリティ・スキルを眺めているようだった。隣でジュリもうんうんと頷いていた。

 

「ゲームだったら、か……なあ、二人は今のこの状況って異世界転移だと思うのか?」

 

 二人は反目だった表情から打って変わって話したそうになった。僕はこの時、もっと早く話を聞いておけばよかったかもしれないと思った。

「私はゲーム内に異世界転移した可能性があると思ってます」

「ふふふ、私は普通の異世界転移だと思ってますね」

 ツバサとジュリが饒舌になった。

「ゲーム内と普通のとどう違うんだ?」

 どちらも同じ異世界転移じゃないのか?

 

「「全然、違います」」

 

 二人してハモり、マナチと僕はちょっと驚いた。ツバサはジュリの方に頷き、互いに何が言いたいのか阿吽の呼吸で分かり合ったのか、ツバサから説明してくれることになった。

「ゲーム内の異世界転移の場合は、土台となるゲームがあります。そのゲームのルールが存在し、逸脱した行為をした場合ペナルティやそもそも出来ない世界になっています。例えば、こういう銃のゲームだと同じ仲間同士だと攻撃が通らないように設定されていたりします。フレンドリーファイアと呼ばれる仲間同市の誤射によってダメージが入らない、入るといった設定があります」

 フレンドリーファイア……仲間同士の攻撃は入らない、入るだと――

「主にマルチプレイ、つまりは仲間と一緒に戦うゲームはフレンドリーファイア、仲間同士の攻撃は効かないように設定されています。なぜゲーム内の異世界転移だと思うかは、瓦礫の山で周りが苦しみだしたのに一人だけ無事だったのが彼女が持つスキルが発動し、仲間だと思われてなかったという点です。さらに、爆発と火の中で焼夷手榴弾をあたりに投げていたのに無傷だったのがゲーム内の異世界転移だと思っている点です」

 焼夷手榴弾、というのが何かわからなかった。

「ツバサ、焼夷手榴弾ってなんだ?」

 眼鏡をクイッと直し、彼女は教えてくれた。

「着弾場所に即座に割れ、炎をまき散らす武器です。ものによりますが、とても熱く、すぐには消せなかったりするものです。瓦礫の山でのあの性能を見る限り、もっと安全地帯からじゃないと投げた本人も火傷したりするものだと思います。以上の事から私はゲーム内に異世界転移したと考えてます」

 眼鏡がキラーンと光った気がした。

 

「で、では私がゲーム内ではなく、普通の異世界転移だと思うのはどうしてかについて話します」

 ジュリは今度は自分の語る番だと胸を張っていた。

「ゲーム内だった場合、生き残れやすいように作られていると思います。そういった要素もなくどれも運よく生き延びられたと思います。このアーミーナイフはいわゆるチートですがチートじゃない思います。これの説明もなし、自身と仲間で探り当てていくので別の現実世界だと思います。何よりクリア条件が明示されていない」

「チートって何?」

 マナチがチートの意味がわかっていないようだった。たしかズルとかそういった意味だったっけ……。

「チートというのは、じゃんけんで言うとグーチョキパーどれにでも勝てるグーでもチョキでもパーでもないものです。いきなりじゃんけんで相手がそれしか出してこなかったら勝てない、つまりズルです」

「それって自分も使えばズルじゃないんじゃないの?」

「ええ、ズルではないですがそれを互いに誰もこれを詳しく知らない。出会った人は今の所はみんな所持してる。むしろこれがないと生きていけない、と考えると最低限の生き延びるために渡された道具だと思います。もちろん、これからどうやって水とか食料とか寝る場所とか諸々出てきてるのは謎です」

「こう水とか銃とか召喚されるのはゲームっぽいと思ってしまうな」

 僕はふと思ったことを口にしていた。

「そうなんです、私も最初そう思いました。でもそうだった場合、ゲーム感覚になっていくと思います。すると互いに争ったり固有スキルの優劣などが発生し、あの瓦礫の山のような事が起きると思いました。それでそれが目的としてそう作られてこれを私たちは渡されて、何も説明されていないのが普通の異世界転移だと思った理由です。どうやってかはわかりませんがどこかで私たちを見て楽しんでいる、のかなと思いました」

「そんなこと出来る人いるのそれって神さま……?」

 マナチがもっともな疑問を口にした。

「もしかしたら暇になったから気晴らしに異世界転移させたのが神さまかもしれませんし、あるいは高次元の存在だったり、宇宙人だったり、そこはわかりません。私からは以上です」

 そう言ってジュリは締めくくった。

 

 二人の話を聞き、僕はゲーム内にしろ、普通にしろ、これは異世界転移だと思った。

 その後、僕たち四人はそのまま寝ないままでいた。ムッツーは気づいたらテントの中へ行っていた。

 明け方になるとムッツーが起きだし、程なくしてアカネがやってきた。


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