第36話
「おはおぉ! ゆっくり休めたぁ?」
アカネの活舌が悪く、口から涎が出ていた。挨拶の後に、アカネは涎を服の袖で拭い、普通に見せていた。僕は徹夜明けに嫌なテンションのアカネと接するのは嫌だなと思った。好きで徹夜をしていたわけでもなく、警戒して徹夜していたので仕方ない。
ムッツーがアカネに挨拶をした。
「おはよう」
タッツーはアカネの声で目が覚め、テントから出るとアカネの方を見て挨拶をした。
「おはようございます」
二人とも虚ろな目をしているものの、アカネとは違い自我がないような感じだった。ハルミンもタッツーが起きた事により、寝ぼけながらも起き、ため息をもらしていた。するとタッツーがハルミンの頭を撫で、大丈夫大丈夫とつぶやくのだった。
「おはよう、休めたよ、それでどうしたんだ?」
僕は返答した、実際には気が休まらなかったので、嘘になる。
「実は見せたいものがあるんだ、みんなで来てくれると嬉しいぃかなぁ。たぶん、きっと気に入ると思うぅ」
「見せたいもの……?」
「うん、実際に見てもらえればわかるよぉ」
要領を得ないと僕は感じ、これは明らかに罠だと思った。ツバサとジュリ、そしてマナチを見ると険しい表情をしていた。嫌な予感がしているのは自分だけではなかった。
「気になるから、行こう」
「私も、気になるわ」
ムッツーとタッツーがアカネに賛同したのだった。まあ、洗脳されているなら絶対肯定するよねとわかっていた。
「ハルミン、きっといい事だわ」
タッツーに促されたハルミンは不安げな表情をしたが、タッツーがいつものようにハルミンを撫でて安心させていた。三人はそのまま、着替えるとすぐにアカネの方へと行き、建物の外に出て行ってしまった。まじかよ。
僕たちは顔を見合わせた。
「行こう、行くしかないよ……」
マナチが言った事で僕、ツバサ、ジュリは頷き一緒に外に出てアカネたちに着いていく事にした。
あたりは静けさがあるものの、どの建物からもベェスチティが身体をだし、僕たちを見ていた。不気味な体つきの異形から見られるのは、とても怖い。アカネが向かう先がどこなのか不安と恐怖が僕たちの足取りを重くしていた。だが、僕たちは戦える武器があることで少しばかり恐怖に打ち勝つことが出来たのだった。
銃をあらかじめ召喚し、装備している。もし何かあろうものならぶっ放してやるという徹夜明けのテンションが僕にはあった。他の三人はどうかはわからないけど。
程なく歩いていくと、着いた先はリーダーと呼ばれる臓器の塊がいる建物だった。
「ここに何があるの?」
マナチが呟いたので僕はマナチに答えた。
「リーダーと呼ばれるのがここにいる。
僕が答えると、マナチ、ツバサ、ジュリが話に聞いていたものを想像しているようだった。ただ、三人はピンと来るわけもなく建物の中に入っていくことになった。ハルミンは終始、タッツーの後ろに顔をうずめており、建物に入るときだけは、足元を気を付けたがあたりを見ようともしていなかった。
ハルミンだけは洗脳はされていない状態だろうと思った。パニックにならなければいいけれど、あれをまともに直視したら僕は彼女が叫ぶだろうなとも思った。
柱状の階段を上り終えて、僕たちはリーダーがいる建物の中に足を踏み入れていった。すると中でアカネが満面の笑みで出迎えてくれた。
アカネの笑顔が何を意味するのか、僕は言い寄られぬ不安と何か怖気が走るような事が起きる気がして心臓の鼓動が強くなっていった。マナチを見るとアカネよりも臓器の塊の方を見て、動揺していた。事前にどういう特徴があるのか説明していたが、実際に見るとなると別だろう。多分、気持ち悪いと思っている。
ツバサとジュリを見るとそこまで動揺しているわけでもなく、どこか攻撃すれば倒せるという思いがなんとなく伝わってきた。なんていうか臓器の塊を見る目が怖いよりも倒すという感じだった。これがゲーム脳というやつなのだろうか。
「あのね、これから仲間にしてくれるってリーダーが言ってるんだぁ」
「仲間? どういうことだ?」
僕が反応するものの、アカネがその問いかけに答えず、話を続けた。
「あたしたち、一緒になればネズミも怖くないし、楽しく生きていけるぅ」
アカネは臓器の塊の方へ歩き出した。
ここでハルミンは初めてタッツーのうずめていた顔を出し、アカネが言うリーダーを見たのだった。
「ヒッ」
多分、ハルミンは顔を引きつらせていただろうと思う。僕の方からはハルミンの表情がわからないが、ネズミの死体とは違う気持ち悪さがあり、アカネはどうしてこれと楽しく生きていけるのかハルミンにも理解ができないだろう。
「大丈夫よ、大丈夫。一緒になったら怖くないし、楽しいから」
タッツーがハルミンを向いて、やさしく撫でながら話しかけたものの、彼女は安心など出来るわけもなく小刻みに震えていた。今まですがり頼っていたタッツーが何かおかしいとやっと気づいたのだろう。早めに教えておいた方がよかったと僕は今気づいた。
「い、いや……」
ハルミンが首を横に振りながら後ずさり、タッツーではなく臓器の塊の方を見ているようだった。僕は彼女が見ている方を見るとアカネが臓器の塊の前にいた。
「見てぇ、ほらぁ! 怖くないよぉ、楽しいよぉ」
車サイズの臓器の塊の正面が上下左右に開き、中には大量のミミズのようなものが生えていた。そして、それにアカネが身を任せるように埋もれていった。
「ま、待て」
僕が声をかけるものの、そのまま倒れ込むように飲み込まれたアカネを止めることはできなかった。開いていた臓器の塊の口は閉じていき、アカネの頭の部分だけを残すように動かしていた。これはまるで捕食しているのか、それともただ……ただなんだこれは?
「あぁ、ああ? あは……キャハッ」
アカネの口からは涎が垂れ流れ、目の焦点が合っていなかった。
その場にいた僕、マナチ、ツバサ、ジュリは動けず、ただ見ていただけだった。僕は思考が追いつかなかった。何がどうしてそうなるのか、ツバサとジュリにそういう可能性があると言われていたが実際に目にすると何をどうしたらいいのか身体が動かなかった。
ハルミンはその場から後ずさり、それを追うように、タッツーはゆっくりとハルミンに向かって歩いていた。ムッツーはその二人をじーっとただ見ていた。
そして、取り込まれたアカネから丸くて淡い光が出て、僕たち七人のアーミーナイフへと入っていった。
視界の隅にある生存確率の横にテキストが現れた。そこには「所有者が死亡した為、固有スキルが継承されました」と表示された。
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