第33話
「ひぅっ、ご、ごめんなさい」
ツバサはハルミンに言われ、反射的に謝っていた。
「平気、なわけないだろ……今は少しでも生き残るために知っておきたいだけなんだ」
僕はハルミンに自分が知りたいという意思を伝えた。
「わけわかんないよっ!」
ハルミンは涙ぐみながら、テントを召喚し、泣きじゃくりながらテントを組み立てはじめた。タッツーも組み立てを手伝い、出来上がると二人はテントの中に入っていった。
「ヨーちゃん、ツバサ、ハルミンは疲れているんだ。少し休めばきっと大丈夫だから、すまない」
ムッツーはハルミンに気を遣う言葉を発したがどこか棒読みのようだった。僕たち二人に言っているようでどこを見ているのかわからないような目をしていた。
「ううっ、怖いですぅ」
ツバサが小さな声でこぼしていた。僕もとても怖い。
僕たち二人は、ムッツーからじーっと見られている状態で、話の続きが出来ず時間を過ごした。時折、テントの中からハルミンの泣き声が聞こえ、その度にタッツーの「大丈夫、大丈夫」という声が聞こえてきた。ムッツーとタッツーがすでに洗脳されている状態というのもあり、異様に怖さがあった。
ハルミンはその様子に気づいているのか、気づいてないのかわからなかった。気づいていたとしても背けたい現実として目を背けているのだろうと思った。僕が現実と向き合えと言ったところでそれは何か解決になるのかと思った。
それに、普段から妄想して現実逃避する僕には説得力に欠ける。
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あれからどのくらい経ったのか、時折銃声が外から聞こえた。そして、立て続けに銃声が連続で鳴り響いていた。銃声が最初に聞こえた音とは違ったので、何かあったのかもしれないと思った。その何かが不安になったが、僕たちは建物から出ずに、待つことにした。
それから時間が過ぎ、マナチとジュリが戻ってきた。無事に、何事もなく戻ってきて何があったのか聞きたかった。
「ヨーちゃん、ヨーちゃぁん……こわ、怖かった」
マナチは戻ると僕に抱き着いた。
いつでも二人が戻ってきていいように、仮設トイレやテーブルや椅子などが召喚しておいた。快適な状態にし、彼女たちを労うように準備はしておいた。
「な、何があったんだ?」
僕は怖かったと言っていた事が気になり、彼女に聞いた。マナチはごくりと喉を鳴らし、目に力強さを感じた。彼女は深呼吸をして、何があったのか、話し始めた。
「アカネちゃんと一緒にネズミを駆除する事になって、じゅ、ジュリがその……」
「ネズミを銃で殺した」
ツバサがジュリの方を見て、マジで? という表情をし、ジュリが力強く頷いていた。
「それでアカネちゃんの様子が変だった。最初話しかけた時に、銃でネズミを殺してて、話しかけたら何か上の空だったんだけど、一緒にネズミを殺そうと言い出したんだ。そこでジュリがその銃で殺してから機嫌良くなって、色々教えてくれた」
「アカネが言うには、ベェスチティにとってネズミは天敵らしい」
どうやら二人の距離感が近いと感じた。仲良くなったようだ。
「それであの毒ガスが出てくる武器を使って、ネズミを定期的に駆除していて、彼女はネズミが出てくる場所をある程度知ってるみたい。それで毎日巡回をして、出てきた所を銃で撃っていて、ネズミそのものを探知できるわけじゃないから毎日やってるんだって、そうじゃないと安心して住めないと言ってた」
安心して住めない、というのが誰にとってなのか考えるまでもなくベェスチティたちの事だろう。
「それで、ベェスチティたちがいつからいるのか聞いてみたのだけど、ネズミたちに食い殺されて大分死んだらしい。そんな中でベェスチティたちがアカネちゃんを頼って、アカネちゃんが彼らを助けたんだって」
僕はベェスチティたちがどうやってアカネを頼ったのかを考えたが、洗脳という手段で取り込んだのだろうと思った。だとしてもどこで出会ったのだろうか、瓦礫の山はネズミだらけだし、となるとこの廃墟の街か?
「それでね、話を聞いた後にアカネちゃんがなんか用事があるって言って、帰り際に別れたんだけど気になって尾行してみたんだ」
「私も用事があるって言いだして気になった」
「ねっ、なんかこう変だったもんね」
「それで二人でバレないようについていった」
と二人はとてもがんばったのだろうか息が合っていた。だが、その先に知ったことを言おうとした時に二人の表情は曇った。
「そのなんていうか、仲間になるとか一緒になったら怖くないとか一人で言っていたんだ。誰かと会話してるようなんだけど相手の声は聞こえなくて、なんていうか怖かった」
「しきりに大丈夫ですと言っていたのも怖かった」
「ベェスチティたちが恐れているのはネズミだとわかった。そして倒すことができる私たちを利用したいというのもわかった。だったらそう言えばいいと思うんだが、なんで洗脳するんだろう?」
僕は気になったことを口にしていた。
「わ、わからないけれど……なんかおかしいと思う。アカネちゃんが言っていた一緒にってことがどういう意味なのかが、もしかして洗脳されると同じ風になるのかな?」
マナチが言った事で、ツバサとジュリがハッとし、二人して何か言おうとした。
「あ、もしか――」
「意識を――」
「「あっ」」
お互いに声を被り、互いに先にどうぞどうぞとしていた。そして、ツバサから考えを述べる事になった。
「彼らはもしかしたら意識を共有している生物で、洗脳のような形で意識を共有状態に持っていこうとしてるのかなと……多分」
ツバサは言い終えるとジュリの方を見て、頷いた。
「わ、私が思うのは意識を引き込んで同調させていって、同じ思考にしてしまうのかなと思いました」
僕は二人の話を聞き、どっちにしても嫌悪感が出た。
「アカネちゃんはなんだか幸せそうだったけどね……怖いけど」
マナチはアカネの言動には引いていた。
「それが洗脳される、ってことだな……僕は元の世界に帰りたい」
「わ、私もだよ」
僕は元の世界に戻りたいと言うと、マナチも同意した。今のこの世界は前の世界に比べて、不安になることばかりだった。この世界に留まりたいと思う人は多分いないと思う。
「勉強は嫌だったけれど、学校は楽しかったし、家族にも会いたい……会いたい……ううっ」
マナチは前の世界のことを思い出したのか、涙ぐんでしまった。それにつられて、ツバサとジュリ、そして僕も思い出し、涙が出た。
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