第29話

 アカネの提案に対して、僕は会って知っておきたいという考えが浮かんでいた。見慣れない生物、悪く言えば化物である見た目のベェスチティを可能な限り遠ざかりたいという思いもあったが、知らないままだと危険度が違うと判断したからだ。

 

 相変わらず、僕の後ろでジュリとツバサは、出会ったら、脳を吸われる、洗脳される、または乗っ取られるといったネガティブな事を言っていたのが聞こえた。アカネはちょっとどこか変な感じがするが、このベェスチティという生物とうまく共存しているのだから、きっと何かしら互いにメリットがあってうまくいっているのだろうと思う。人間と人外が互いに共存するなんてメリットがないとうまくいかない。

 

 ――メリットがないとうまくいかない。

 

 僕は、アカネにとってのメリットはなんだろうと考えた。すると後ろの後ろの二人もそのことを考えているのかその話をしていた。

「ねぇ、アカネさんがここで生活できてるのってなんでだと思う?」

「ジュリも気になったんだ。私も……もしかして共存共栄できてる理由があるってこと?」

 内緒話をするようにそれが何なのか、憶測の域を超える事はなく確信めいた答えには至らなかった。そして、情報を得るために会おうという思考にならないでいた。二人とも勇気や度胸といった一歩踏み出す行動ができなかったと感じた。

 

「挨拶できるなら……」

 

 ムッツーは物怖じをあまりせずに返答していた。それに驚き、僕は怪訝な表情を一瞬浮かべ、何か引っかかる事があるけれど、うまく言葉にできなかった。だが、一緒に着いていかないと何か嫌な予感がすると思い、僕も立候補したのだった。

 

「それじゃ僕も行くよ、みんなで行くのもあれだし僕とムッツーの二人でいいかな?」

 

 僕はまた頭痛のようなものがし、「検疫されました」というテキストが生存確率が書かれている近くに出た。何か嫌な予感がし、きっとここで行かないとダメだと思った。

 

「オッケー、それじゃ二人とも着いてきてー案内するよ」

 

 僕とムッツーは、アカネに着いていき、ベェスチティたちが住まうところに入っていった。

 

 マナチが何か後ろで言っていたが、今は行かなきゃいけない。生き延びるためにリーダーに会って確かめないといけない。ジュリとツバサが言っていた事が気になるが、メリットが何かしらあるはずだ。それに相手を知ることで生存確率が上がるはずだ。

 

 残った五人の心配や不安などあるだろうけれど、僕はきっと大丈夫だろうと思った。どこもかしこもベェスチティたちが巣のような家からこちらを覗いてるくらいで、特に襲ってくるような敵意を感じなかった。どの人たちもニコニコしていた。

 

 程なく、進んでいくと他の建造物と比べてしっかりとした土台に、大きな入口がある場所に着いた。結構歩いた気もして、後ろを振り返ったらマナチたちの姿が見えなかった。一直線に歩いていた気がしたけれど、違ったようだ。でも曲がったりもした記憶がなかった。

 アカネが振り向き、僕とムッツーに建物の中について教えてくれた。

「ここにリーダーがいるよ、中はちょっと暗いのとここの階段には足元を気を付けてねぇ」

 建物ネズミ返しがされており、そこに上るためには、階段状になっている柱があった。建物へ入っていく柱一つ一つにネズミ返しが施されていた。ネズミは気持ち悪いから仕方ない。

 

 僕とムッツーがアカネの後に中に入ると外よりは薄暗いものの、部屋の中は明るく携帯蛍光ライトが一定の間隔で置いてあった。僕たちが不思議なアーミーナイフから召喚したものと同タイプのものであるため、アカネが出したものだとわかった。

 

「リーダー、近くに引っ越してきた人を紹介するねぇ。他にも五人いるけれど、とりあえず二人来たよぉ」

 

 明かりから照らされた「それ」は、ベェスチティたちとは違った異形であり、なぜそれがリーダーと呼ばれているのか不気味さがあった。だけど、不思議と気持ち悪さは感じなかった。むしろリーダーとして合理的だと思った。

 僕とムッツーはネズミの死体やその場所にあった人間の死体を見てきたから、目の前のそれが臓器の何かがむき出しになってぶよぶよと脈動している物体でも平気だ。眼と呼べるようなものが見当たらず、どこが顔なのか、あり大抵に表現するなら何らかの臓器の塊だった。ピンク色、赤黒い色、血管のような凹凸があり、ドクンドクンと動いていた。

 

「こんにちは、ムツミと言います」

 

 ムッツーが挨拶したので、僕も続いて挨拶した。

 

「こんにちは、ヨウです」

 

 僕たちが挨拶するとリーダーは脈動が小刻みになり、ぶよぶよとした表面が震えていた。喜んでいた。僕たちも挨拶ができて嬉しい。何やら、今日はゆっくりしていっていいよと言われた気がした。

 

「ありがとうございます、一晩お世話になります」

 

 ムッツーが突然独り言のように言い出し、僕も会話したいと思った。

 

「だよねぇ、ここに来るまで疲れちゃったもんねぇ。じゃあ、私が休める場所を案内するねぇ」

 

 僕は聴き洩らしたわけでもなく、まだちゃんと会話できなかった。

 

「ヨーちゃん、みんなの所に戻って今日はここに空いてる建物があるから休ませてもらおう。そうしよう」

 

 僕もそうした方がいいと思った。どうにも頭痛がするけれど、冷静に考えると休んだ方がいいと思った、アカネとムッツーが外に移動をしはじめた為、後を着いていった。僕はリーダーの方を振り向き、お辞儀した。


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