第30話

 アカネとムッツーと一緒にマナチたちがいる場所に戻り、ムッツーから、一晩ここでゆっくりしてから戻る事になったと伝えられた。ジュリとツバサは不安げな顔をし、身を寄せ合いながら震えていた。大丈夫だよ。

 タッツーとハルミンはムッツーの決定に従うのか、不安な表情をしているものの不満を言う事はなかった。ムッツーが言ってるし、大丈夫。

 マナチは、僕が何か辛そうだったので、休んだ方がいいと言ってくれた。マナチかわいい。

 

 僕たちはアカネに、空き家となっているネズミ返しがある建物へと案内された。

 

 他の建物と作りは一緒で、建物の中に入るために柱状の階段があり、足元に注意しないといけない。中は雨風をしのげるような囲いと屋根がついただけの建物で、僕たちが中に入るとアカネは用事があるからと言い、どこかに行ってしまった。周りはベェスチティがいる建物に囲まれているものの、飛び移れるような距離ではなく、離れている場所だった。窓のようなものはあるものの、どれも天井付近にあり、外の状況を見ることができない作りになっていた。プライバシーが配慮されて、とてもいい。

 

 ジュリとツバサは二人して、ボソボソと会話をしていた。どうしてこうなってしまったのか、どうすればいいのか、考えがまとまらず成り行きに任せるしかない様子を見ようと言っていた。もしかしたら、友好的な生物かもしれないし、嫌な予感や想像は勘違いかもしれないと二人で話していた。きっと二人にもわかってくれると思った。

 

「ヨーちゃん、大丈夫? 何かあったの?」

 

「うん、大丈夫だよ。リーダーに会ってきたんだ、まだ頭痛はするけれど、休めば大丈夫だよ」

 

 手で頭を押さえながら、僕はマナチと話をした。ジュリやツバサや他の人たちも聞いていた。

 

「ね、ねぇ……ヨーちゃん、リーダーってどんな感じだったの?」

 

 マナチは僕に聞いてきた。僕の中でどう言ったらいいものか悩んだ。リーダーはリーダーだし、見た目はちょっと最初は驚くだろうけれど、なんで驚くのかわからなかった。じゃあ、普通に伝えればいいか。

 

「車くらい大きな臓器の塊だったよ、こう血管とか浮き出てて赤黒くテカテカしててヌメヌメしてた」

「え」

 マナチが顔面蒼白になっていた。なんでだ?

「そ、そそ、そ、それってなんですか?」

 ツバサが噛みながら聞いてきた。

「それって?」

 僕は質問の意味がわからなかった。リーダーはリーダーだ。

 

 ジュリが質問をしてきた。

「し、正体がよくわからない」

「正体? ベェスチティたちのリーダーだろ。それ以外に何かあるのか?」

 ムッツーが代わりに答えてくれた。そうだ、その通りだ。

 だけど、何か周りの様子がおかしい。なんでだろう?

 

 僕は視界端に映っている生存確率が5%になっている事に気づいた。なんでだ? 仲間になってるし、問題ないはずだ。

 するとツバサとジュリは僕の様子を見て、二人は互いに頷き、話しかけた。

「あ、あの……ヨーちゃん」

「ん、なんだ?」

 僕は頭痛のもどかしさから、不機嫌な表情のまま話しかけてきたツバサに対して、不機嫌な表情で返事してしまったのだった。

「ひ、ひぅ……すみ、すみません」

「あ、違うんだ。すまない……ちょっと頭痛がひどくて」

 僕の視界隅には「検疫されました。」という文字が流れ続けていた。それが何を意味するのか、もしかしたら二人ならわかるのかもしれないと思った。

 

「ちょっと聞きたいんだが、検疫されましたってどういう意味だ? 頭痛がする度に表示されるんだけど……いつっ」

 

「ヨーちゃんも頭痛した時に、そのメッセージが出るの?」

 マナチも同じ症状だったことを述べるとツバサとジュリは不思議なアーミーナイフを取り出して手に持ち、何かを探すようにアビリティ・スキルを見始めたのだった。

 

「え、なに……なんなの……?」

 ハルミンは状況がわからず、ただ不安な気持ちがあふれ出ていた。その言葉を聞いたタッツーは彼女をさすりながら、子どもをあやすように言った。

「大丈夫、大丈夫よ……」

 ハルミン、心配しなくて大丈夫だよ。大丈夫。

 

「ツバサ、さっき言いかけた事はなんだったんだ?」

 ハルミンとタッツーは大丈夫だし、僕はツバサに問いかけた。ツバサは器用にアビリティ・スキルなどを調べながら僕に対して返答してくれた。

 

「もしかしたら、何らかの方法で洗脳されたのかなと思います」

 ツバサは悲痛な表情で答えてくれた。

「せ、洗脳? ってなんだ?」

 僕はピンときていなかった。日常生活を送ってる中で洗脳という言葉は使わないし、そんな状況を知る由もない。

「あの、その、なんていうか他人に自分を操られていたり、正常な判断ができなくなり、言いなりになったり、自分が自分でなくなるってことです」

 ツバサはまるで僕がそうなってるかのような言い方をしていた。僕は洗脳という意味を知り、マナチもツバサの横で心配そうに僕を見ていた。ハルミンもタッツーに頭を撫でながら僕の方を見て聞いていた。その瞬間、僕の頭痛は止み、今までの痛みはなんだったのかという風に感じていた。

 

「まさか、洗脳されそうになっていた……ということか?」

 僕はさっきまでの奇妙な状態に全身の血の気が引いた。そして、その後に脱力感と疲労感に襲われた。くそ、いつやられたんだ?


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