第6話

 僕たちの間で沈黙が続き、居づらさから椅子から僕は立ち上がり背伸びする。

 

 本当だったら、自宅の部屋で日課としているトレーニングとか動画見たりとかしていたなぁと思った。どうやって家に帰るんだろう、ていうかそもそもここどこだ?

 

 僕は、マナチの方を向き、しゃがみ込んで目線を合わせた。

 

「僕は家に帰りたい。マナチは?」

「・・・私も」

「今わかることは可能な限り調べて、わからないことを無くしていかないと家に帰る方法もわからないままかもしれないと思うんだ」

 

 マナチは僕から視線を外し、下を向いた。あ、責めてるわけじゃないよ……やらかしたかもしれない。

 

「私も、私も調べる」

 

 彼女は顔を上げ、僕と向き合い、眼に強い意志を灯したように見えた。僕はそれに対し頷き、僕たちは眠くなるまで調べることにした。マナチは食料のところに缶詰の種類とか、水以外のペットボトルが何があるとか、主に生活の項目を見ていた。食べ物を召喚し、一緒に食べたり、スポーツドリンクのようなものを飲んだりし、親睦が深まっていく感じがした。

 

 あたりを見渡すと自分たちと同じようにいろいろ調べている感じだった。ムッツーとタッツーも使えるようになったのか、ハルミンと一緒に仲良く話をしていた。ツバサとジュリに関しては、二人で独特な雰囲気を醸し出していた。

 

「ねぇ、ヨーちゃん……この自衛ってさ、この銃って人を殺すためのものだよね」

 

 マナチはこの自衛というアビリティ・スキルの恐ろしさをだんだんと感じているようだった。僕もそう感じていて、この銃器というのは戦争とかで使われるものだ、人を襲うモンスターとか現実にはいなかった。そうなってくるとこれは人を殺すための道具なのだ。

 

「そう……だね。だから、何のために存在するのか、気になったんだ」

 

 僕は自分自身の欲望が抑えきれなくなったらきっと殺されてしまうのだろう。でもよく考えたら元から犯罪者になりたいという思いはなく、こうお互いに同意の上でラブな感じの方が好きだからその方向はないから問題ない事に気づいた。

 

 いや、でも隠れて一人で欲望を吐き出している時をもしも見られたら殺される可能性があり得ると思った。

 

「はぁ……」

「大丈夫、ヨーちゃん?」

 

 僕は思わずため息をこぼし、そのことでマナチを心配させてしまった。

 

「大丈夫、今日はもう寝よう」

「うん、そうだね」

「それじゃ、おやすみ」

「おやすみ」

 

 +

 

 翌日、空の曇り模様は変わりないものの真っ暗闇ではなく、薄暗さにより朝と認識できる時間に各自テントから出てきて、それぞれがアビリティ・スキルで朝食を食していた。食料として出せたのは、缶詰やスティック型のお菓子みたいなものなど、コンビニでみかけるようなものだ。

 

「今日は、あの明かりの場所に向かわず、これの使い方や情報を共有しようと思う」

 ムッツーは不思議なアーミーナイフを持ちながら、みんなに提案したのだった。

 

「明日になったら出発するって事ですか?」

 ハルミンは手を挙げて質問した。

 

「一通り試して、時間が足りなかったら伸ばした方がいいと思っている。みんな見たと思うが自衛というアビリティ・スキルの中に銃器というのがある。これがあるのには、考えたくないが何かしら危険なものが存在し、それに対して自身でどうにかしないといけないからあるのではないか、と思ったんだ」

 

 僕は背筋が少しだけ冷えるような感じがした。昨日は何もせずに寝たし、ていうか気が付いたら寝ていたから何もしてない。僕はいつものように無表情でいた。

 

 周りを念のため確認すると、そんな危険なものという出来事が来ないでほしいという思いが顔にそれぞれ出ていた。大丈夫だ、僕はそんな事はしない、同意の上でしかしないと心に誓った。

 

「備えあれば患いなし、って言うしね」

 タッツーが雰囲気を変えようと明るい口調で言ったが空気は重く感じた。さすがに母性本能でも空気の重さは緩和できなかった。

 

 ムッツーによってテーブルと人数分の椅子が召喚され、みんなで座って話そうという雰囲気を促してきた。みな、とぼとぼとそこに向かい、各々が椅子に座っていき、僕はどこに座るかと考えていた。すると、マナチに引っ張られ、隣同士になるように座ることになった。

 

 マナチの方を見るとニコニコしており、僕はいらぬ勘違いを抱きそうになり自制することにした。こういうのはそんなつもりじゃありませんでした案件だ。僕はそのあたり賢いから知っている。

 

 ムッツーはできるお姉さま風な仕草をしながら、テーブルの上にアーミーナイフをそっとおいた。背筋がピンとしており、胸を強調しているものの下品さはないあたり、すごいなと思った。昨日までのステータスウィンドウが表示できなくて動揺していた時を忘れるくらい凛々しかった。

 

「この中でツバサとジュリが一番これについて詳しいと思う。わかる範囲で構わないから昨日教えてくれた事以外でわかった事を教えてほしい」

 

 ムッツーがジュリとツバサに話を振り、二人はおずおずとうなづいた。それを見て、ハルミンは彼女たちを元気づけるように挨拶をした。

 

「よろしくおねがいします!」

 

 二人は、ビクッと驚いてしまったが口元をもにゅもにゅとしながらもお互いに見合わせ、ツバサが頷いた。

 

「え、えと……」

「ゆっくりで構わない、ツバサ……よろしく頼む」

 ムッツーは頭を下げ、お願いしたのだった。

 

「は、はい……昨日あれからステータスウィンドウを見ていたら、アビリティ・スキルだけではなく、私たちの名前が書かれていました。タブと呼ばれる、付箋みたいなものがあって、それに意識すると出てきます」

 

 各自がステータスウィンドウを表示させているのか、空中に指をつんつんして確認するのだった。僕も同じように表示させ、確認した。普段、ゲームとかするがチュートリアルが教えてくれるので言われないとそのままスルーしてしまうのを自覚した。

 

 ツバサは僕の中で委員長枠になった。

 

「名前の所を意識していくと、各自が持っているアビリティ・スキルが現れます。たぶん、私たちは七人一緒の仲間だから同じようにアビリティ・スキルを使えるのではないかと思いました。それで、昨日の夜、私がここから抜けると意識したら抜けれて、抜けた後に今まで見えていたものが見えなくなってました。だからその、このアビリティ・スキルは仲間だから使えるというのがわかりました」

 

 ツバサの説明後に、自分が持っている固有のアビリティ・スキルを確認した。そこに記載されていたものは、自衛の銃器と防具、生活の食料と飲料だった。

 

「ヨーちゃんはなんだった? 私は防具だったよ」

 こそりとマナチが横から教えてくれたのを聞き、自分は三つあったのだけど、しかしてこれがチートというものじゃないかと考えてしまった。

 

「じゃ、じゃあ、私が最初ペットボトルの水が出せなかったのは……」

 ムッツーがステータスウィンドウを見ながら神妙な顔つきで呟いていた。しかし、指をつんつんと虚空にタップしていると何か見つけたようで顔つきが普段の凛々しい状態になった。

 

「そ、それは意識して出そうとしてなかったのかな……と」

 ツバサが非情に申し訳なさそうに答え、ムッツーは赤面するのだった。

 

 生徒会長のようなお姉さまをいじるとは、ツバサの事が出来るなと心の中で思った。


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