第2話 女神の憂鬱

ーー 魔王の破壊活動。



魔王となった男は、怒りの感情の中で自我を少しだけ取り戻しつつあった。

そして自分の周りに花開く見知らぬ草花を見つめていた。


この国はゼスト王国と呼ばれていた時代から、あまり花が咲かない土地であったと、記憶していた。


魔王が破壊した場所には、破壊以前とは全く違う土地となることが元々農民であった男にとって、とても興味を引くことであった。


その日浅い眠りにつくと男は、あの声を聞いた。


『お前の疑問に答えてやろう。この世界で農民が苦しんでいる土地は、お前の破壊を待っている土地である。』


『この世界は、女神のせいで少しばかり呪いを受けている。お前の破壊行為はその呪いを浄化する行為でもあるのだ。』


と、意味深な言葉を言うと聞こえなくなった。


男はその声が忘れられなくて、自分の生まれ育った村の後に足を踏み入れた。

そこは何を植えても、育ちの悪い土地柄で農民としては生きることが苦しい場であった。


魔王は、その力で村跡がわからないほど破壊し尽くした、そして麦の種を撒くと変化が現れた。


撒いた直ぐ後から芽が出て、3日もすると青々とした葉を伸ばした麦が茂っていた。


さらに2日経つと、見渡す限りの麦の実った畑に変わっていた。


「こんなことが・・・この世界において女神とは・・・害悪なのか?」


そんな思いが魔王に生まれていた。




                 ◇



その後も、魔王は女神の存在を消し去るように、破壊し回った。


すると魔王の怒りの感情が少しだけ、薄らいだ感じがしていた。


魔王が撒いて身を実らした麦畑を見つけた、植えた農民が歓喜の声を上げて収穫していた。


その姿が嬉しくて、魔王は次々に破壊と再生のようなことを繰り返すようになった。


元ゼスト王国で、魔王の国土となった土地では、食糧となる穀物が異常なほど実り。


今まで食料に飢えていた残された農民たちは、搾取されることなく暮らしだしたのである。


その様子を見聞きした、魔王は自分の使命を知った気がした。


「俺は、この世界を壊し皆を助ける。」


と叫び、破壊行為をさらに繰り返した。



ーー  女神の憂鬱 2



女神シーアカータは、憂鬱だった。


自分の管理不足から、この世界に歪みが生じ魔物が溢れ始めた事が問題の発端であった。


あの時、マニュアル通りの手を打っていたら・・・神といえども時間を巻き戻すことは許されない事。


魔王がその歪みに気づき、歪みを浄化しているがそれは、女神の管理を完全に排除する行為であるのだ。


このまま魔王による破壊が続けば、この世界は女神の手を離れ魔王またはその背後に居る神のものとなる。


直接手を出せない女神は、勇者が早く成長することを願うばかりで、自分の力が削がれるのを感じながら見ていることしかできなかった。




ーー  隣国の憂鬱



魔王に隣国は、魔王領から逃げ出す魔物達の対処で苦労していた。


魔物やそれに対応する、兵士や冒険者のために、田畑が荒れて食糧不足が深刻になりつつあったからである。


魔王が現れて、半年ほどが経ったある日、こんな噂が聞こえてきた。


「魔王様の国じゃ、田畑が生まれ変わって穀物が食べ切れないほど実っておるそうじゃ。しかも税が無え。」


と言う噂だ、各国は魔物退治のために更なる税を農民に課している国や領地が多いと聞く。


そんな中で、農民にとって生きる事が容易い場所があると言う話は、逃散し出す農民を止めるどころか更なる逃散を産んでいた。



農民がいなくなれば、穀物が生産できずさらに税が収まらず、国は疲弊してゆくばかり。


そんな国王たちの憂鬱はまだ始まったばかりである。


ーー  教会の憂鬱2



女神から新たな神託が降りた。


『勇者には聖女が必要である、聖女の育成にも力を入れよ。』


と言う内容の神託であった。


今までの経験では、その時代の若く優秀なシスターを聖女と呼んで、勇者と共に送り出した歴史であったが、この度はそうではない。


勇者は、レベル400以上で、聖女もそれに次ぐスキルを所持している事が条件だという。


そのような者をどうやって、見つけろと言うのか。


「まるで神の加護を持った聖女を見つけろと言うようなものだ」


と、教会関係者は唸った。



ーー  ある村の少女 カミユ 10歳



サハラ王国の険しい山岳地の村に、カミユと言う娘が住んでいた。


カミユは、数年前に空から舞い降りた者から母親の病気を治してもらったと話をしていた。


そして自分は、シスターとなり貧しい村や国を助けて回るのだと、母を助けながら勉強していたのだ。


カミユは、その不思議な少年の言葉の通り、生まれたての川に姿を現した、大きな魚を掬い取り母と食べたのだが、その頃から不思議な事が起こるようになった。


元々砂漠が多く乾燥していたこの国で、穀物の生産は非常に難しかったのであるが、使徒様が山から水を引き川を造った頃から変わり始めたのだ。


しかしそれども痩せた土地がすぐに豊かになることはなく、山からの栄養十分な土や水が流れ堆積してこそ豊かになるため、その歩みは遅かった。


カミユがクラス村でも同じと言えたが、ただカミユが耕す畑だけは穀物が豊かに実るようになった。


今では村のほとんどの畑をカミユが耕して種を蒔くため、収穫時には豊作に村が大喜びし、カミユのことを


「豊穣のカミユ」と呼ぶようになっていた。


それを聞きつけた近くの神父が現れ、「聖女選択の儀」に王都に来るよう要請しに来たのであった。


「私が・・・聖女様の・・そんな滅相もない。」


要請を断るカミユに、母が


「カミユ、お前が聖女にとはこの母も思っていないわ。でも貴方はシスターに成りたいのでしょう。それなら王都の教会に行ってシスター見習いになっても良いのじゃない。」


と背中を押され、その神父と王都に向かうことになった。


カミユには、女神では無い神の加護が付いていたのは、その時は誰も知らないことであった。



ーー  ビースト王国の聖女候補 ラリー 12歳



ビースト王国の東にとても教育に熱心な村があった。


特にそこで優秀な子供に、白猫耳のラリーという少女がいた。


ラリーは妹や友達と3人で薬草を取りに行った際にオークに襲われて、命の危険を感じた時。


使徒様と呼ばれる少年に助けられ、その後教会の勉強会に参加し始めた少女である。


その優秀さは、教会の神父も目を見張るもので、今回の「聖女選定の儀」に是非と推薦を受けたのだった。


「お母さん、お父さん、ラリーは王都でシスターになってきます。」


と挨拶する娘に、その妹のミリーが


「お姉ちゃんは、シスターじゃなくて聖女様になるのよ絶対。」


と言い切った。


それを聞いた両親も


「そうだよ、お前達は使徒様に命を助けられた娘だ、きっと聖女様にもなれるに決まっているさ。」


と言われ笑顔で見送られた。


彼女も女神以外の神の加護を受けた一人であった。


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