第6話 来るのかな?
「やっば、超ねみぃ……」
次の日の朝、洸太郎は大きなあくびをしながら机に突っ伏す。
「はよー、洸太郎。すっごい眠そうだね」
「おう、千秋。はよーす」
机に突っ伏しながら、ぽけーっとしていると、教室のドアが開き、千秋が入ってくる。
千秋と軽い挨拶を交わすと、俺は眠気の残る目を擦る。
「そういえば、昨日からホームステイする人、来たんでしょ? どんな人だったのさ」
「あー、それなんだけどさ」
千秋の言葉に俺は思わず、苦い顔をしながら言う。
「そのホームステイするって人、小学校の頃に一緒に遊んでた、リリーだったぞ」
「……え、それマジなの?」
割と意外だったらしく、俺は久しぶりに千秋の本気で驚いたような顔を見た。
「ああ、マジだ。しかもなんかすんごい美人になって帰ってきたわ」
「へぇ……、そんな漫画みたいなことってあるんだ。けど、なんでまた留学しようと思ったんだろ?」
「……さあな」
流石に、俺に会いたかったから、という理由で帰ってきた、と言ってしまうとなんだか自意識過剰みたいな言い方になってしまう気がしたのでやめた。
俺は小さくあくびをして、
「まあ、わざわざ日本に帰ってこようって決心したぐらいだ。何かしらここでしかできないことがあるんだろ」
「それもそうだね」
俺が適当にはぐらかすと、千秋はあっさり納得した。
「でも、久しぶりに会えたんでしょ? やっぱり洸太郎も嬉しかったりするの?」
「あー、まあ、嬉しかったって言えば嬉しかったんだけどさ……」
「ん? なんか煮え切らない返事だね」
俺の何か含むような返事に、千秋は首を傾げる。
……千秋に対してはバレても特に問題ないし、話してしまうか。
「その、だな、実は……」
「おはよー! あー、つっかれたぁ!」
「「いったぁ!?」」
俺がまさに悩みを打ち明けようとした瞬間、頬をほんのり蒸気させた紗奈江が後ろからバシンっと俺たちの背中を叩く。
女子生徒にしては割と力が強く、しかも一切警戒をしていなかった状態で叩かれたため、背中がジンジンとする。
「ってぇ……」
「お、おはよう、黒木さん。バスケ部の朝練?」
俺よりも華奢なため、防御力の低い千秋は少し涙目で背中をさする。
「うん。今日も朝からいい汗流したよー。それで、なんの話してたのさ」
「それがね、」
タオルで汗を拭く紗奈江に、千秋が先程の説明を繰り返す。
「何それ、めっちゃロマンチックじゃん! 昔、どうしようもない運命に引き離された幼き日の男女が成長し、再び巡り合う!」
紗奈江は目を輝かせ、まるで祈るようなポーズをしながら語り出した。
そういえばこいつ少女漫画好きだったな。今はラブコメの方が好きらしいけど。
「ああっ、しかしこの先2人には新たな試練が待ち受ける!」
ん? なんか雲行きが怪しくなってきたぞ?
まるで演劇のような演技を加えて語り続ける紗奈江は、胸に手を当て声をあげる。
「すれ違う思い、昔のようには接することのできない葛藤、芽生える友情でない何か…………ああ、この2人はこの物語を、無事に終えることができるのでしょうか!」
「マジでやめろつか戻ってこい!」
「あいった!」
俺が紗奈江にベシッ、と軽く(ちょっとだけ力入れたけど)チョップするとほぼ別の世界に行きかけていた紗奈江がこちらに意識を戻す。
というか、その内容の一部が俺がリリーのことを忘れているという状況を組み込んだら、若干現実に起こりそうだから怖い。
「朝っぱらから変な騒ぎ起こすんじゃねぇよ」
「でも僕は何気、黒木さんのお話通りに進むのが面白いと思うけどね」
千秋まで何を言い出すんだ⁉︎
周りにいたクラスメイトたちまで、なんだなんだとこちらをチラチラみてくる。
「そもそもだ。リリーが今日転校してくるのは事実だが、俺らのクラスに来る可能性はほぼ皆無だぞ? 俺らの学校、一学年だけでも15クラスあるし」
「あ、そっかぁ……ラブラブなコメコメの青春ストーリーを観れると思ったのになぁー」
「何だその表現技法」
紗奈江ががっかりしたように椅子にもたれかかる様子を見ながらそうツッコミをする。
「でもさ、わかんないよ?」
「は? 何がだよ」
千秋はなぜかニヤニヤして、
「だって、クラス多くて転校生がうちに来るわけないなんて言うの、フラグにしか聞こえないもん」
「あ? じゃあ何だよ、十五分の一の確率をかいくぐって、このクラスにリリーがくるとでも思ってるのか?」
「うん。ついでにリリーさんと洸太郎の席が隣だったらもう奇跡の領域だね」
「馬鹿言うな。んな都合のいいこと起きるわけが……」
「はいみんな席につきなさーい」
ヒールの音を響かせながら、担任の先生が入ってくる。
眼鏡をかけたショートカットの先生はニコニコしながら教卓の前に立つ。
「皆さんが高校生になってから数ヶ月。そろそろ高校には慣れましたかー?」
「学食めっちゃうまかったでーす!」
「吹奏楽部には入ったら、友達できましたー!」
「未だクラス全員の名前が覚えられませーん!」
にこやかに言う先生に、生徒たちは口々に自分の体験談を話し始める。
紗奈江はわざわざ立ち上がって、
「ウチはバスケ部で一年でレギュラーになりましたー!」
「おおっ、それはすごいですねー!」
先生はまるで子供のように目をキラキラさせながら褒める。
「みんな〜、今度の私たちの大会。絶対応援来てねぇ!」
ニコニコ顔で手を振ると、ガンバレー、応援してるぞー、わたしたちも見にくるからー! といった歓声が教室内で響く。
「僕は……3年の先輩に告られました。しかも……男」
「ええっ⁉︎」
次に、苦笑しながら言った千秋の言葉に若干の動揺がクラス内に走る。
おお……こいつまた同姓に告られたのか。
まあ、千秋は見た目だけ見たら女にしか見えないもんなぁ。
中学の頃も、何回も告白されてたっけ…………。
女子から告白されたことは、からっきしだったけどな。
「あの、洸太郎? 無言で肩に手を置かないでくれる?」
「おっと、すまん」
苦笑しながら言う千秋に俺は軽く謝る。
しかし……リリーは来ないな。
やっぱり流石に……同じクラスってことはありえないんだな。
「……リリーちゃん、来ないね」
小さく紗奈江が呟く。
「……そうだな」
「…………寂しかったりする?」
紗奈江が妙にニヤニヤしてくるのが腹立つ。
「別にそんなんじゃないって。ただちょっと心配なだけで…………」
「センセー、リリーの紹介はまだデスカー?」
と、突然教室の扉が開き、金髪な外人美少女が入ってきた。
言わずともながリリーなのだが……何故ここに⁉︎
突然の美少女の登場により、和やかムードだった教室が凍りついたかのようにシーンとする。
「あ、ごめんなさいね! そうそう、今日は皆さんのクラスに転校生がきたんですよ!」
そういうと先生は、リリーに皆の前に立つように促す。
……おいおい、マジかよ。いくら何でも偶然にしては奇跡的すぎる。
驚いている俺を千秋と紗奈江はクスクスニヤニヤとしながら笑っているが俺からすれば奇跡的すぎてちょっと怖い。
「ではリリーさん、自己紹介をお願いします」
「OK!」
オッケーのポーズをとり、クラスメイトの前に立つリリー。
そして…………突然現れた本物の外人美少女を目の前にして皆が固唾を飲む中、リリーは、
「Hello everyone. My name is Lily • Four Size. I came to this school in the form of studying in Japan from England. Nice to meet you!(皆さん、こんにちは。私の名前はリリー • フォーサイズです。私はイギリスから日本に留学するという形でこの学校に来ました。はじめまして!)」
本場のイギリス英語でものすごくネイティブな自己紹介をした。
そんな速すぎる自己紹介に、クラスメイトは愚か、先生すら呆然としていた。
「…………ま、日本語も話せマスケドネ」
「「「いやめっちゃペラペラ!」」」
てへっ、と笑いながら綺麗な日本語を話すリリーに声を上げる
クラスメイトたち。
俺は何となく……彼女が高校では孤立しないような気がした。
外人美少女の自己紹介(デス!!) 水夏真佐 @Lifelife
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