第10話 ドルオタ、推し変えるってよ。




「……で、お前はこの数日間高熱で苦しんでいる俺を差し置いてあの清楚系美少女、鏡花ちゃんときゃっきゃうふふな甘酸っぱい青春を繰り広げてたってわけか」

「ごめんて」

「少しは休んで良くなったかと思えば俺が推してる最カワJKアイドル、あーたんに熱愛が発覚して握手券がゴミ屑になって絶望している間に?」

「ごめんて」

「おい拓哉、忘れたのか……? 俺らシスコンとドルオタ、特定の人の女性ひとに強い愛着を持つ者同士彼女なんてクソくらえって星降る夜空を見上げながら二人で語り合ったじゃあないかっ!!」

「ごめんそれは知らん」



 実は一途(本人談)で可愛い清楚系美少女な小泉さんと話すようになってから数日後。朝早く学校に登校した俺は、風邪も完治し本日から登校を再開したドルオタイケメン野郎、光明院大司とまだ誰もいない教室にて最近の出来事を中心に会話していた。そう、主に教室での小泉さんとの一件だねっ!


 元々大司が学校を休んでいる間も生存確認の意味合いを兼ねて連絡をとっていた俺。昨日大司から無事体調が治って今日から登校出来ると話があったので、クラスメイトがまだ誰も登校してきていない結構早い時間に来て貰ったのだ。


 始めはいつものように普段通りの時間で登校して、クラスメイトがいる中で大司と教室であった小泉さんとの出来事を話しても大丈夫だろうと思っていたけれど、俺はその時ふと考えた。


 ———あれ、幾分か落ち着いたとはいえ思春期真っ盛りな野郎どもがいる前で話しちゃえば針のむしろじゃね?と。怒りと殺意の波動が再び目覚めて市中引き回しの刑で処されちゃうんじゃね? と!!


 と、そんなこんなで病み上がりの大司には申し訳なかったが早く登校して貰い、小泉さんとの一件を話した訳だった。まぁどうやら大司もそのあーたんなる清純派(笑)アイドルのことで嘆きや怒りをぶち撒けたかったらしいのでWin-Winである。



「しっかし、重度のシスコン野郎のお前が女子と仲良くなるなんてなぁ。しかも相手は誰に対しても平等に優しい真面目な鏡花ちゃんだろ? 一体前世でいくつ徳を積んだんだか」

「さ、さあな」

「にしても、仲良くなったきっかけってなんだったんだ? 確か……そう。テスト当日、鏡花ちゃんが拓哉に感謝してたような……。それ以外俺が知っている限り二人が高校で話してる姿なんてほとんどなかったろ?」

「すぅーーーーーー。そっすねー……」



 ぎくりんこ。やっぱりその疑問に辿り着きますよねー……。大司もそこまで馬鹿じゃなかったかーそこは馬鹿であって欲しかったなー……。


 まぁ大司の疑問も尤もである。あの時は咄嗟に誤魔化したとはいえ、これまで碌に話したことがない美少女から突然感謝を告げられた場面を大司はばっちり目撃しているのだ。俺と小泉さん、二人の関係が今に至るきっかけを遡ろうとするのは至極当然だろう。


 うーんと首を傾げながら考え込む大司だが、そっと瞳を逸らした俺は心の中でひどく葛藤していた。



(は、話したくねぇ……っ!!)



 小泉さんは可愛い顔で格好良いと言ってくれたが、側から見ればあれは紛うことなきヘンタイで俺の黒歴史である。しかも小泉さんを襲おうとしていた変態も裸足で逃げ出す程のヤバさ加減。これからは俺の中でこう名付けよう———超HE☆N☆TA☆Iと(白目)。


 もはや妹のパンツを頭に被りながら小銭をチャリンチャリン落とすなんて現代の妖怪と間違われても仕方ないんよ……っ。しかも大司は小賢しいことに俺の超HE☆N☆TA☆I姿の特徴を掴んでいる。いくら小泉さんを助ける為といえど、俺が第二のヘンタイだと大司に知られたら思い切り舌を噛みちぎる自信があるぜっ。これは、墓場まで持っていくしかねぇ……!! ごくりんこ。


 なので、俺は少しだけ嘘を交えて真実を話すことにした。



「その、あれだよ……そう! この前不審者が出たって話があったろ? 小泉さん、暗い夜道にそいつとたまたま遭遇したみたいでさ。幸いにも何事もなく通り過ぎてったらしいけど、びっくりして腰が抜けちゃったんだ。それを偶然通りがかった俺が助けたって訳さ!」

「へー、マジか。そんなことがあったのか。うんうん、それがあの時の感謝に繋がる訳だな。なんだよ、俺がその話題言ったときどうして隠してたんだよー?」

「ほ、ほら、勝手にそう言うこと俺から言うのはなんか違うだろっ?」

「あー、確かに。不審者にエンカウントしたとはいえ、腰が抜けたってのは鏡花ちゃんからしたら恥ずいことだろうしなぁ」



 よし、このまま畳み掛ければいける!!



「そうそう。だから大司、この出来事は他言無用で頼む。他の誰にも話してないことを、信頼出来るお前だから話したんだ。いくらシスコンとはいえ、無闇に女の子を傷付けるような真似は男が廃る。それは大司、ドルオタのお前でも当て嵌まることだろう?」

「拓哉……! よしわかった。もしクラスの奴からお前と鏡花ちゃんの関係をどんなに聞かれても俺は絶対に話さないからな!」

「ありがとう、大司」



 ミッションコンプリート。けっけっけ、これであの黒歴史を深掘りされることはもう二度とない。計画通り……(にやり)!


 尚、ささやかなお礼として俺は朝のホームルームが始まるまで大司の新たなアイドルの推しを一緒に探すことにしました、まる。




















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