第9話 つまりシスコンヒーロー……ってことぉ!?
「響野くん、一緒に帰りましょう!」
「あぁ、わかった」
放課後、教室にて帰る準備をしていた俺に小泉さんはそう話し掛けてきたので俺はそう返事を返す。相変わらずにこにこと笑みを浮かべている彼女はなんだかとても嬉しそうで、窓ガラスから差し込む茜色の夕陽も相まってその美少女っぷりが際立つ。マジで物語のヒロインみたいな子やねぇ……(しみじみ)。
(まぁ、彼女がまさかサブカルにも精通してて声優さん好きだったなんて意外すぎるけれど)
今日の昼休みに屋上にて一緒に弁当を食べた俺たちはいろんな話をした。好きな食べ物から始まりお互いの趣味や好きなことなど様々である。昼休みということもあり残念ながら深くは話せなかったのだけれど、こんな清楚系な美少女がまさかの声優好きというのは一番の衝撃だ。
だからこそ声音を識別する能力も高かったのだろう。彼女が俺の華麗な変装(パンツを頭に装着したヘンタイボディ)を見破れたのも納得である。おぉんっ(号泣)!!!
内心でむさ苦しく男泣きをしていた俺だったが、そんな様子をおくびにも出さずに鞄にしまう教科書をトントンしながら小泉さんに質問する。
「そういえば小泉さんって部活には入ってないのか?」
「いえ、入ってますよ? 部員の数が足りないからとお願いされて手芸部に一応所属しているんですが……塾にも通っているので、必ず部活に参加しないといけない日以外はどうしても行けてないですね。所謂幽霊部員という形です」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ今日は塾に行くまで一緒に帰るって解釈でおけ?」
「はいっ!」
「よし、じゃあ帰ろうか」
そう言って俺は帰ろうと自分の席から立ち上がるも、教室にちらほら残っていたクラスメイトからの視線をびしびしと感じる。幸いにも女子らは深くは聞かずに見守ろうというスタンスに落ち着いたようだったが、男子からは相変わらず殺意の波動というか「何お前だけモテてんだワレェ?」という嫉妬や怒りの気配が見てとれた。
イヤー、美少女がこんなに慕ってくれて優越感高いっすわぁ(鼻こすこす)! こんなシスコンでもきっかけがあったんだ、キミら男子諸君も頑張るんだ・ぜ? コッ☆ ……あっちょっと待って冗談だから小泉さんから見えない角度から辞書を全力で投擲しようとしないで三木くん俺死んじゃう!! ハハッ、ゴートゥーへールじゃねーよ!!
なんとか死線をくぐり抜けて教室から俺と小泉さん。女子と仲良さげにバイバーイとほのぼのしながら挨拶を交わしていた彼女とはえらい違いである。一体この違いはなんなのだろうか。 ……え、人徳? そりゃあ納得っすわ。
やがてそのまま校舎を出て敷地を抜けると、俺と小泉さんは夕焼けに染まった歩道を歩き始めた。
「私、夢だったんです」
「夢?」
「学校の帰り道、こんなふうに肩を並べて好きな人と一緒に帰ることです。今は、友達としてですが」
「小泉さん……」
どうやら小泉さんは、今まで他の人を好きになったことがないようなのだ。つまりあの黒歴史確定なあの出会いが初恋というわけである。うっうっ……、本当にごめんなさい……っ。こんなシスコン野郎でごめんなさい……っ(全力土下座)!
未だこんな可愛らしい女の子が俺に好意を抱いているなんてとても信じられなけれど……きっと友達としての関係でいるうちにこれから心境の変化も出てくるに違いない。そう、いくら彼女が積極的でどきっとしても、たまらまくなる程のいじらしさが見えたりしても、それはきっと泡沫の夢である。
「あ、でももし何か迷惑なことがあったら言って下さいね? これから末長くお世話になるのです、響野くんに嫌われたくありませんから」
「おっふ。……迷惑なんかじゃないよ。ただ、小泉さん後悔してないのかなって」
「後悔、ですか?」
「うん。今こそ友達としてだけど、その、小泉さんは俺に告白してくれた訳でしょ? その相手がクラス中に知り渡った重度のシスコンで、幻滅してないのかなって」
俺自身シスコンであることは後悔していない。ただ、兄妹がいる周りとはその程度が違うことは理解出来ているのだ。妹ばかりに関心を向けている俺に好意を抱くのならば、もっと俺よりも良い奴を見つける方が有意義だと思うのだけれど。
すると、小泉さんはこちらをじっと見つめながら間髪入れずに言葉を紡いだ。
「幻滅なんてする訳ないじゃないですか。響野くんは妹思いのシスコンさんで、襲われそうになっていた私を助けてくれたヒーローなんですから」
「格好は最悪だったけどね……」
「いいえ、格好良かったですよ?」
「そ、そっすか……」
ふわり、と笑みを浮かべて俺を覗き見る小泉さんに、なんだか俺は気恥ずかしくなってそっけない返事をしてしまう。色々と覚悟をしてきたが、今日はずっと小泉さんに翻弄されっぱなしだ。
———再認識しよう。小泉鏡花は真面目で、真っ直ぐで、とても健気な良い子だ。こんなシスコンであることを盾にして好意から目を逸らそうとしている俺にまでちゃんと向き合おうとしてくれている。今日というたった短い時間でここまでわかってしまうのは、仕草や言動に彼女の人柄が滲み出ているから。
心の壁を乗り越えようと諦めない積極性、それこそが彼女自身の力なのだろう。
「ねぇ響野くん。今日はたくさんお話してくれたお礼に、私のこと教えてあげますね?」
「お、おう」
「———私、結構一途なんです」
「おっふ」
あと以外に茶目っ気があってとても可愛いです、まる。梓の方に全ての力が注がれている心の天秤が僅かに浮いたのは秘密だ。
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