第11話 美少女の連絡先、ゲットだぜ!!
「響野くん、私はとても大切なことに気が付きました」
「ど、どうしたんだ小泉さん……?」
あれから緩やかに時は過ぎ昼休み。もはや日課になりつつある屋上での小泉さんとの昼食を楽しんでいると、ふと深刻な表情をした小泉さんがそのように呟く。それでも可愛いさが目立つのは一緒にいる時間が増えたからか。
因みに普段から昼食を一緒に食べている大司は教室でクラスメイトの野郎どもに揉まれながら屋上へ向かう俺らを快く見送ってくれた。俺を昼食に誘うのに遠慮がちだった小泉さんの背中を押してくれた形である。フッ、爽やかな笑みを浮かべながらグッと親指を立てた姿は忘れないよ。アイルビーバック!
それはまぁともかく、隣に並ぶ彼女のそんな表情を初めて見た俺はおっかなびっくりに問い掛ける。……が、返ってきた言葉は意外なものだった。
「———私、響野くんの連絡先を知りません!」
「……え、そんなこと?」
ででーん!とまるで効果音が背景に付きそうな程そう言って真剣な眼差しで俺を見つめる小泉さん。少し前から深刻な表情をしているから何事かと思ったのだけれど、些か拍子抜けである。というか小泉さんなら俺のメルアドや電話番号なんていくらでも教えてあげるのに。なんなら俺自慢のマイスィートシスター梓のことも教えちゃうぞっ♡。
……え、どうせ教えてたら一日過ぎるから結構だって? はい正解です! そんな貴方には三日三晩、おはようからおやすみまで梓とのエピソードを耳元でじっくり聴かせてあげようねぇ(ニチャア)。
すると、彼女はうっすらと頬を染めながら人差し指同士を合わせてもじもじとさせる。
「だ、だって……その、学校で響野くんと話せるのが嬉しくて、今までお聞きするのをすっかり失念してたんですもん……」
「おっふ。そ、そうなのか……っ」
ぐああああああああっっっっ!!! なんだこのシスコンである俺が悶えてしまう程の可愛さ!! 普段よりもちょっぴり大人しめでややか細い声でそんなことを呟かれてしまったら破壊力抜群に決まってるじゃんよ!!
—————————っは!! あ、危ねぇ……ッ、思わずシスコン紳士を自称するこの俺としたことが、一瞬だけトリップしてしまったじゃあねぇか……!! これ以上はいけない、これはとんでもねぇ逸材だぜ小泉さん……! ごくりんこっ。
「な、なので、是非この機会に連絡先を交換しませんかっ?」
「わかった、良いよ小泉さん。交換しよう」
「あ、ありがとうございますっ!! ……やったっ」
すぐさまスマホを取り出して電話番号、メールアドレス、SNSといった連絡先を交換する俺ら。これで、小泉さんとは学校以外でも連絡を取れるようになった。これで俺のスマホの電話帳には両親、愛する天使(梓)、クソイケメン(大司)、110(警察署)、119(消防救急無線)以外に小泉さんの連絡先が追加された。
……え、それしか連絡先ないのかって? 中学校卒業の時に色んな奴と交換していたけれど、スマホ買い替えた時に家で梓と一緒にデータ移行してたけど操作間違っちゃって全部消えちゃったんですぅ!!! おぉんっ(号泣)!!!
「これで学校以外でも響野くんとお話出来ますねっ!」
「そ、そうだな」
そう言ってふわりと優しげな笑みを浮かべる小泉さん。嬉しそうに自分のスマホの画面を眺めている辺り、どうやら心底嬉しいのだろう。なんだか思わずこちらまで気恥ずかしくなってしまう。
さて、昼休みも有限だ。俺はまだ残っているマミーが作ってくれた弁当に箸を伸ばそうとしたところ、ふと隣から「……あ」と何やら閃いた様子の小泉さんの声が耳朶に届いた。……ん、どしたんそんなちょっとした悪戯を思いついたような可愛い顔して? あ、可愛い顔は元々だったかガハハ!
すると彼女はどこかに電話を掛けたのか、耳元にスマホをあてたのだった。いきなりどうしたのだろうかと俺は首を傾げていたのだが、案外すぐに答えはやってきた。
(んえ!!??)
そう、俺のスマホに小泉さんから電話が掛かっているではないか! ……アイエエ、オレ!!?? オレ、スグ、トナリニイル、ナノニ、ナシテ!!??
隣の小泉さんを見ても、彼女は俺の方を見ずに意識を耳元に当てたスマホに集中させていた。きっとこれは有無を言わず電話に出てね、ってことだろう。あいよ、がってん承知の助!
「あい、もしもし響野です」
「もしもし、小泉です。響野くん、この度は連絡先を交換して頂きありがとうございます」
「こ、こちらこそ」
「…………えへへ」
「どうしたんだ?」
「私、男の子の連絡先を交換したのはこれが初めてなんです。これからいつでも耳元で響野くんの声が聞けると思うと、とっても嬉しくって」
「…………っ」
隣と耳元から聞こえる弾む声に俺は思わず言葉が詰まる。
きっかけはアレだが、シスコンである俺に勇気を出したであろう小泉さんのあの告白。友達からという彼女にしてみれば身勝手な言い訳で保留にしてしまった罪悪感を抱くと共に、どこまでも真っ直ぐに俺への好意を伝えてくれる彼女が、とてもけなげでいじらしくて。
(…………あぁ)
俺はこれまでもこれからもシスコンで、他の異性に関心を向けたり恋をすることはない。……と、現時点では勝手にそう思っている。
「これからは電話でもいっぱいお話ししましょうね、響野くん」
「あぁ、たくさん話そう。小泉さん」
「はいっ!」
だから———この胸の高鳴りも、きっと気の所為だ。
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