第3話 こんな美少女がシスコン(俺)を好きになる訳がない。
「さて、帰ったら何しよっかなー」
そんなこんなで一週間が経過した。現在は放課後、夕暮れに染まる歩道をとぼとぼ歩きながら帰宅する途中である。
因みに今日返却された期末考査の結果は無事大爆死。いつもならば平均点位なのだが、あーんなこと(変質者に遭遇したり)やこーんなこと(愛する妹にポエムを囁いたら「それはちょっと……」とガチ目に引かれた)があった所為で答案用紙の点数は軒並み赤点ギリギリだった。ぴえん。
悪友である大司にも聞いたら、どうやらヤツも俺と同じくらいの点数。だが当の本人は全く気にしてないようで「あーたんチュッチュ♡ ぎぶみーらぶみー♡」とテスト期間中に当選したアイドルの握手券を握りしめてずっと発狂してた。うん、馬鹿こそ勉強しなきゃいけないってはっきりわかんだね。こうはなりたくないなぁ(遠い目)。
———さて、今日も今日とて懐に妹のパンツを仕込みながら自宅へと歩いているのだが、ここ最近気になる視線が俺に向けられていた。
「じーっ」
「…………うーん」
その窺うような視線の正体はなんと
それは兎も角。
(小泉さん、あれから毎日ずっと俺の後つけてるじゃん……)
そう、なんと彼女は期末考査の日以降俺のストーカーと化していたのだ(デデドン)!
いやまぁストーカーというのは流石に誇張した表現かもしれないが、一週間も朝と放課後に俺の背後を付けて来るような真似をされてしまったら別の言葉が思い浮かばない。普段は真面目で清楚系美少女な小泉さんが、まさかここまでの行動力を発揮するなんて思わなかったというのが正直なところである。
今もほら、後ろの電柱に隠れてる。制服のスカートと風に靡いた綺麗な黒髪が少しだけ電柱からはみ出てるのもポイントが高い。
何故彼女が俺のストーカーなんてなんの得にもならないような真似をしているのか。その心当たりは十分にあった。
「もしかしてあの時に助けたのが俺だって疑われてる……?」
うんうんとアヒル口になりながら思わず唸ってしまうが、おそらく概ね間違い無いだろう。ここ最近高校では視線を感じるし、よくよく思い返してみればあの言い訳はだいぶ無理があった。身長なんて骨を砕いて自然治癒させる手術でもしなければ変えられる筈もないし、襲われているのが小泉さんだと知った時にふと洩らした声なんて普段通りの声。
いくら愛する妹のパンツを被って身体を張って変質者を撃退出来たとしても、残念ながらそれだけでは誤魔化せなかったようだ。すまない梓、今度はお兄ちゃんもっとお前のパンツを使いこなせるように頑張るね。
———さて、問題はここからである。何故彼女が至って普通のシスコンである俺を追いかけ回すのか。完全に思いつきだが、挙げるとすれば……。
「やっぱり俺の正体があの日助けたヘンタイだとどうしても確信したい、のかなぁ」
以前彼女に感謝された時はなんとか強引に誤魔化したが、彼女の中で納得出来ない部分があったとすればこうしてじろじろと観察されるのも不思議ではない。小泉さんは真面目な子なので、きっとあのヘンタイの正体が誰だかわからないままだとモヤモヤして眠れないのだろう。
……いやまて。
「ひょっとしたら俺に惚れてる可能性が微レ存だったり?」
俺は思わず立ち止まりながら、一瞬だけ思考が停止する。
………………、………………いや。いやいやいや! 学年随一の美少女である小泉さんがこんなシスコン街道まっしぐらな普通の男子生徒に惚れるなんてそんなことないよな? ……ないよね?
いくら不審者から助けたといっても、あんな格好での登場に惚れる要素なんてどこにもない。だって自分で言うのもなんだが、妹である梓のパンツを頭にかぶることになんの抵抗もないんだぞ? なんなら使用済みの物だってぺろぺ……うん、よくよく考えなくても客観的に見てだいぶヤバいな俺。
そんなとち狂ったシスコン野郎に惚れるなんてどうかしてるぜ!! ヒーハー!!
「さて、小泉さんが俺に惚れてるなんて馬鹿なこと考えてないでさっさと帰りますか」
「えっ…………」
「んあっ?」
なにやら俺の背後から小動物が驚いたような小さな悲鳴が聞こえたので振り向く。そこにはなんと俺の肩に手を置こうとしていたであろう清楚系美少女、小泉さんがその可愛らしい瞳をまん丸とさせながら立ちすくんでいた。
……なんてこったい(ガッテム)!!
「えーっと、その、こんにちは小泉さん」
「こ、こんにちは響野くんっ!」
「もしかして、さっきの独り言……?」
「あ、は、はい……。ちょうど響野くんが立ち止まったので、勇気を出して声を掛けようとしたのですが……ばっちり聞こえちゃいましたっ」
「スゥーーーッ……ちょっと待ってね」
俺は小泉さんに背を向けて、口元を手で覆いながらなんと言い訳しようかと思考をフル回転させる。ちらりと彼女に視線を向けるとあらなんて可愛らしい笑顔。
にこり、と照れたように顔を赤らめている様子を見る限り、その言葉は嘘ではないのだろう。天使の如く可愛らしい笑顔につい気が緩んでしまうが、改めて引き締め直す。
俺は世界一、いや宇宙一梓のことが大好きなシスコン高校生、響野拓哉だ。いくらその美少女っぷりに浄化されそうになっても、決してシスコン魂が揺らいだりなんてしない———!!
「お待たせ、小泉さん。あのさ、さっきのはただの戯言だから気にしな———」
「あの、響野くん! 単刀直入にお尋ねします!」
「あ、はい」
「———貴方がこの前私を助けてくれたヘンタイさんですかっ!?」
「いや言い方ァ!!」
「やっぱりその反応……。咄嗟に否定しないところをみるに、あのとき助けてくれたのはやっぱり響野くんだったんですね!」
「しまったっ!!??」
疑惑が確信に変わって安堵したのだろう、小泉さんは頬を上気させながら満面の笑みを浮かべる。一方の俺はといえば、まんまと彼女の巧みな罠に引っ掛かってしまい頭を抱えた。
まさかあの状況を知っていないと理解出来ない名称で俺をそう呼ぶなんて……。美少女で律儀な真面目ちゃんかと思ったが……小泉さん、意外と策士である。ごくりんこ。
だがまぁバレてしまっては仕方がない。ここはなんとか俺がこれまで磨き上げてきたシスコン話術でなんとかこの状況を乗り切ろう。……と思っていたのだが、何故か小泉さんは俺をじーっと見つめながらそのほっそりとした身体をもじもじと揺らしている。
「あ、あのですね……っ?」
「う、うん?」
「その、さっきの響野くんの考え……当たって、ます……っ!」
「は……?」
顔が真っ赤な小泉さんのどこか熱の籠った言葉に、俺は思わず頭が真っ白になる。そんな放心した俺の様子など置いてけぼりにして、彼女は意を決したように息を呑むとそのまま言葉を続けた。
「助けて頂いた日からずっと好きでした。———響野くん、私と付き合って下さいっ!!」
「おっふ」
そのように熱心な眼差しで突然小泉さんにそう告白された俺はといえば、情けなくおっふと言葉にするしかなかった。おっふ……。
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