第16話 廊下の死体

 宇佐美は佐々木の後を追いながら一人呟いた。

「格好いい事をつい言っちまったけど、これからどうするか。いまさら頭を下げてあの偽教祖の仲間に入れてもらうのも嫌だしな。それより隠れながら後をつけて金が見つかったところで一気に奪ったほうが利口かもしれねえ……」

 佐々木達が階段を上る足音に耳を澄ませる。幸い真樹のところを離れた時間がそれほど違わなかったため、宇佐美はすぐに佐々木達の後ろ姿を捉えることが出来た。

「いたいた、予想通り上の階から探していくつもりだな。奴らの持っている鍵は十八個、俺は六個、確率からすると金を見つけるのは奴らのほうが高い。しばらく様子をみるか」

 宇佐美は佐々木達の様子が分かる程度の距離を保ちながら、ぴったり張り付いて様子をみることにした。


 宇佐美に尾行されていることに気づかないまま、佐々木達は八階の部屋を探し終わり、七階の部屋を探そうと移動していくと、そこで目にしたものは廊下に倒れていた頭が血まみれの中谷だった。

「うわっ!」

 先頭を歩いていた佐々木と中堂の二人の歩いて進む動作が突然止まった。

「どうしたのよ?」

 凍りついまま動かない佐々木と中堂の間から覗き込むように、佐野は二人の視線の先を見た。

「きゃっ! あの人、死んでるの?」

 佐野は約四十年間の人生で、初めて現実に死体を見たが、妙に落ち着いている自分が不思議だった。

「まさか死んだ振りをしているんじゃないだろうな?」

「あれだけ血が流れているんですよ。死んでますよ」

 佐野と中堂の問いに佐々木は冷静な態度を強調して少し低い声で答えた。

「でも誰が殺したんだい? たしかあの男、女二人連れて賞金を探しに行ったはずだよね?」

「確かにそうです。とすると流れから犯人は一緒にいた女二人という事になりますが……」

「あのレイプ魔が殺した可能性もあるんじゃないか」

 佐々木の推理に中堂が疑問を投げかけた。

「どうするのさ? これじゃ七階の部屋を探すのなんて、怖くて出来ないよ!」

 佐野はぶるぶる震えていたが、同時に言いようのない興奮も感じていた。よく暇を持て余して見ていたサスペンスドラマの一場面と今自分が目にしている光景が重なったからだ。

「こういう時こそ、冷静に行動していきましょう。ここで私達が取り乱したりしたら敵の思うつぼですよ」

「あんた、たまにはまともなこと言うじゃない」

「当然のことを言ったまでです。とりあえず七階は後回しにしましょう」

 うつ伏せに倒れている中谷が今にも立ち上がるような恐怖に駆られながら、佐々木達は足早に階段を下りていった。

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