第42話 裏と表
「…どうしますの?」
「どうもしないし、今となっては残念ながら何も出来ない」
「?」
先に俺に会わずに当主に会ったこと。この点に関しては堀はとても運が良かったと言えるだろう。しかし、その一方で運が悪かった部分は手助けを求めた人物が当主だったことだ。
今回の件は本当にタイミングが悪かった。俺が写真について思い出してすぐに対処していれば防げていたし、こんな面倒臭いことに巻き込まれずに済んでいた。失敗したなぁ…。これは後で確実に皆に怒られる案件だ。
「この人がやると言ったらもう誰にも止められない。解決するまでは止まらないし、逃げない。俺たちはそれを良ーく知ってる。嫌と言うほどにね」
「…ではわたくしをどうにかしないのですか?面倒ごとを抱えているという事を貴方はご存じでしょう?今ならその面倒ごとが起こる前にわたくしを此処に置いていったり、警察に連れていったり出来ますわ」
「もし俺が最初にお前に会ってたらそうしてた。けど、お前に先に出会ったのはこの人だ。この人がどんな形であれお前を家に招いたという事は手助けをすると決めた証拠だ。その覚悟を俺たちが邪魔をしていいはずがない。流石に此処までの厄ネタ持ちだとは思わなかったけどな」
そう。手助けをすると決めたのは匠郁さんだ。外野がどうこう言うべきではないし、そんな資格も無い。少し悲しいが、外野が出来ることは見届けるだけ。
「わたくしの事、村澤さんに伝えますの?」
「…・・・迷ってる。本当なら伝えるべきだ。伝えるべきなんだけどお前の事情が複雑すぎる」
「まぁ、そうですわね…」
「だから今回は伝えない。伝えない方が大人しく終わりそうだ。しかも当主ニュースとか一切見ないしな…一週間で終わるんだろ?」
「ええ、間違いなく」
「家から出る予定はあるのか?」
「ありません」
「じゃあ大丈夫だ。お前が騒ぎを起こさなければ特に問題は起こらないと思うし、当主もお前の事情について深く知ろうとはしないはずだ。多分大丈夫だ。多分。俺はまだお前を信用できないから言葉に出すが、変なことはするなよ?」
「……普通逆では?」
「逆が起こりえないから言ってるんだよ」
匠郁さんが記憶を失わない限り、そんなことが起こるとは思えない。
「色々と理解しがたい部分がありますが、とりあえず分かりましたわ。それで…色々と聞きたいことが出来たんですけれど…」
何か疑問があるのか堀は少し眉をしかめていた。
「貴方たちは一体何者ですの?何故わたくしの写真を持っていたのですか?あれは普通の会社や機関、組織には配られてはいないはずです。それに、当主という呼び名。疑問が在庫を抱えていますわ」
「そんなにか?当主が何かしら話してると思うんだけど……」
「村澤さんは全く説明してくれませんでしたけど」
「全く?」
「信じられないほどゼロですわ」
えぇ…。説明してないのか…。さては一週間だけの関係だから説明をハブったな?でも、気持ちもわかる。確かに複雑で時間がかかる上、面倒臭いもんな…。よし、此処は
「Really? I think you're lying, don't you?」
「Why would I lie?」
英語話せるんかい。英語で誤魔化してやろうと思ったらきちんと意味を理解して返事をしてきやがった。堀は少し驚いた俺の表情を見て追い打ちをかけるかのように畳みかけてきた。
「I would like to hear an explanation on your part. Could you please tell me?」
「……お前が英語を話せるのはもう充分に分かった。こっからは日本語で良いよ」
「あら、もうお手上げですの?張り合いがありませんわねぇ」
…このアマ。説明してやろうと思ったのにそんな気が無くなってきた。
「いやいや、これ以上続けたらもう家に着いちゃうからな。このまま続けても答えられるけど、ほら良く言うだろ?時間は有限に使おうって」
「へぇー、そうなんですか。てっきりわたくしは逃げたのかと」
「ハァ!?」
なんてことを言いやがる。俺が逃げた?ふざけるな‼
「おい‼」
「いえいえ、別に逃げることは恥ではありませんわ。きちんと力の差が分かっているという証拠ですから。生き物としては優秀ですわ」
それは言外に俺を弱い人間だと言ってるのか?
「なんだとこの野郎‼やってやるよ‼」
「ええ、どうぞご存分にかかってらっしゃい」
ホホホと笑いながら堀は煽ってきた。すぐにぶっ潰してやる‼
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