第40話 真っ暗
「それじゃあ当主の家に行けばいいですか?」
少し辟易とした様子で俺にナベは聞いてきた。毎度無茶を言って申し訳ないな。
「ああ、それで頼む。ほら、お前も」
俺の声に後押しされ堀も慌てて声を出す。
「よろしくお願いします」
「…お前にお願いされなくてもやってやるよ」
ナベはそっけない言い方で堀に言い放った。俺のことは信頼できても堀についてまだ信頼することは出来ないみたいだ。
それも仕方ないか。急に現れて貴方の当主?の家に居候しますと言われたら誰でも多少は警戒をするだろう。
「いつも悪いな、無理を言って」
「そう思うなら今度から一人で決めないで相談してくださいよ」
「…努力する」
「だと思いました」
知ってたと言わんばかりに肩をすくめるナベ。これもいつもの光景だ。無理を言う俺とそれを了承するナベ。本当なら改善するべきだが、どうもナベ達には甘えてしまう。俺の悪い癖だ。身内にはすぐ甘えてしまう。直そうとは思っているんだけどな…
「今、車を病院の正面に持ってきます。少し待っててください」
「いや…一緒に駐車場まで行けばいいだろ?」
此処の病院の駐車場は少し歩かなければいけないが、それでも徒歩三分ほどだ。わざわざ車を回すほどじゃない。
そう思って言った俺の言葉を聞いてナベは額に青い血管を浮かべ、叱るように言った。
「あんたらは一応病人でしょうが‼」
「病人って言ったってそんな深刻なものじゃない。それにもう治ったぞ」
堀は知らんが、俺の場合はただの水分不足だ。不愉快だった針のおかげで体調はすこぶる良い。そんなに心配しなくても…
「うるさい。黙って言うこと聞く‼」
そんな俺の考えをナベは声圧で一蹴した。
「…はい…」
そう言われたら俺はもう何も言えない。大人しく従うしかない。
「ったく、世話が焼ける人だ」
一見するとただ愚痴を言っているだけに聞こえるが、ナベの顔を見ると何故か嬉しそうな表情だ。何故嬉しいのか全く分からない。
「……何でそんなに嬉しそうなんだ?」
「いえ、全然嬉しくありませんよ」
ナベは俺の方を向いて、べーっと舌を出して見せてきた。それだけ見せるとスタスタと先に外へ出てしまった。
「?」
まっ、いいや。考えたってしょうがない。
そんな中、堀は俺とナベのやり取りをポカンとした表情で眺めていた。なんだか少し恥ずかしくなってきて、話題を変えることにした。
「薬は?貰ったか?」
俺は点滴だけだ。一方で堀は薬は処方されている。まだ貰っていないのなら近くの薬局まで行かなければならない。
「はい、貰ってますわ」
良かった。もう貰ってたか。なら真っ直ぐ帰っても問題ないな。
「そうかい」
薬も貰ったのなら後は帰宅するだけだ。病院の置時計を見ると時間は一九時。結構遅くなってしまった。この時間なら金城は仕事を終わらせ、俺の家に帰ってきているだろう。俺の家にな…
ギリギリと胃が痛んできた。今日から一週間女が家に二人いる…。そう考えただけで足が震えてきた。なんなら寒気までしてきた。
「はぁ……」
思わず出てしまったため息。現実はどうしようもないのだ。せめてため息だけでもしておこう。
「…大丈夫ですの?」
まだ青白い肌のまま堀は俺を気遣ってきた。
「お前よりは大丈夫だよ…多分…」
病人同士が気を使いあう奇妙な状況。病人に気を使って良いのは健康で病気とは程遠い人間だけと思っていたが、案外病人同士でも気まずくならずに気を使いあえるんだな。
「…そうだ、お前人と話せるか?」
「バカにしてます?」
確かに言葉だけ聞くと会話が出来ますか?と馬鹿にしているように聞こえるだろう。だが、
「路地裏でお前友達なんていないって言ってたろ?だから一応、万が一の可能性があるから聞いてみたんだけど…」
俺が会話を手助けをするつもりは無い。あまり女と話したくないのもあるが、金城と堀が一切会話をせず気まずい雰囲気が続くなんてことは避けたい。住みづらい上、俺が気を使わないといけないからだ。だから、最低限会話は出来てもらわないと困る。
「話せますわ‼」
失礼なと言わんばかりに大声で反論してきた堀。けどな…
「じゃあなんで友達がいないんだよ?話せるなら多くは無くても一人くらいはいるはずだろ?」
人間話せるなら一人くらいは友達とは言わないまでも、知り合いと呼べるくらいの仲は築けるはずだ。それが出来ないと言われると出来ない理由が気になる。
「……友達が出来るような環境じゃなかったんです」
「えぇ…」
急に重くなったな。友達が出来る環境じゃなかったってどういうことだよ。
「それはどういう?」
「今は説明はしませんわ。しても無駄ですし、したくありません」
「……」
大変先が思いやられる。覚悟を決めたとはいえ、まだ分からないことが多すぎる。どうか何事もありませんように…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます