第35話 備え
「それにしてもあの嬢ちゃんも厄介なものを残したな」
「ですね」
本当に厄介なものを残してくれたものだ。手助けをしてくれたことには感謝しているがそれとこれとは全く別だ。むしろ残していったものがマイナスすぎる。
「そろそろ点滴も良いんじゃないんですか?」
「どれ?…あと五分だな。もうちょっとだな」
「俺の点滴があと少しで終わるなら堀の方はもう終わってるんじゃ?」
「確かに話過ぎたな。どれ、様子でも見に行くか。逃げるなよ」
「あと少しで終わるっていうのに逃げませんよ」
「なら良い」
白衣を靡かせながら先生は病床から出ていった。白衣の後ろ姿って何であんなにカッコいいんだろうな?
外はもうオレンジ色が混ざりだしてきた。これから家に帰って飯の準備をするなら新刊を読む暇はもう無い。出来れば今日中に読みたかったんだけどな…
「…仕方ないか。もとはと言えば水を飲まなかった俺が悪いし」
趣味を優先して体調を全く顧みないのは間違っている。体調が万全だからこそ趣味を楽しめる。今回のことでよーくわかった。こんな当たり前の事を学ぶのには高い授業料が必要だという事も。
「とりあえず今出来ることをしないと」
堀の話は事実だった。なら色々と準備をしておかなければならない。公権力にも手が回り、金も持っている連中だ。準備しておかなければこちらも被害を受けてしまうだろう。
今できることは情報を集めることだけだ。堀は一週間あれば追っては本家に帰ると言っていたが、俺はそれも信用できない。
そもそも何故堀は追いかけられているんだ?捕まったらどうなるかも分からないって相当なことだ。
堀が追いかけられている理由を俺の乏しい頭で考えてみると何か一族に関して重大な秘密を知ってしまったとか実は外国のお姫様だったなんて考えてしまうが、そんなファンタジーな理由ではないだろう。最近そういう小説を読んだからかその影響がもろに出ている。でも実はちょっとそういう理由であってほしいと期待している自分もいる。
なんにせよ追いかけられている理由も探っておく必要がある。俺一人でも情報は集められるが時間がかかる。今回は一週間という猶予があるにしても早めに集めておいて損は無い。
今回も情報屋に頼もう。金城の時は前回の借りを返して貰うという条件で依頼したが、今回はその借りはもうない。今回は何を依頼料にされるかね。
「金なら良いんだけど、それだった試しが無いからな…」
始めは最新CS機、冷蔵庫だったのに段々とまだ市場に出回っていないグラフィックボードやプレミアがついたフィギュアを頼まれるようになった。探すのが大変な物ばかりだからあまり容易には頼めないのだが、今回は仕方がない。大人しく依頼しよう。
「後は…堀だな」
家に一週間居候させるのは確定だ。だが、熱中症+脱水+過労の奴が自分の世話を自身で出来るわけが無いだろうから世話をする人が必要だ。だが、俺に堀の世話は絶対に無理だ。そんなことしたら一瞬で倒れる自信がある。それに俺は明日から外に出ないといけない。
世話も必要だが一応堀を監視する必要もあるだろう。恐らく悪いやつではないだろうがそれでもまだ信用は出来ない。堀が怪しい行動をしないか見張ることも必要だ。
金城も家にいるがあいつは仕事があるから家にいることの方が少ない。まさか仕事を休めとは言えないし、俺も返済の邪魔はしたくない。
そうなると堀の世話と監視の両方を出来る人が俺の家には誰もいない。これだけは誰かに頼まないといけないだろう。
ナベは男だし女の世話をさせるのは少し問題がある。絵面的にもマズいしな。となると…
「おばばしかいないか…」
俺が知っている女性の知り合いはおばばしかいない。女の必要なものは俺にはよく分からないし、男には話せない話もあるだろう。そういうのに対応するためにはやはりおばばを家に呼ぶしかない。巻き込んでしまう形になってしまうが、おばばには家にいて堀を見てもらうだけだ。恐らく危険はない。巻き込みたくは無かったがこれだけは仕方がない。
だが、実はあんまりおばばを家に呼びたくはない。無論、これしか方法が無いのは分かっている。分かってはいるがあまり気乗りはしていない。
さっき怒られたばかりというのもあるが、おばばは心配性すぎるんだ。勿論心配してくれるのはとても嬉しい。でも、その心配が少し、いやかなり行き過ぎているような気もする。確信はないがおばばが金城の会った時も何か言っていた。
詳しくは聞こえなかったが、一瞬で金城の顔が真っ青になったのは覚えている。当の本人が全く分からないのもどうなんだ。
「かといって他に方法があるわけじゃないしな…」
難しい所だ。俺が倒れるか、おばばを家に呼ぶか。どっちを選んでも俺の胃はボロボロになりそうだ。
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