第34話 迷い

「そうだ!聞きたいことがあるんだけど…」

「突然どうした?」

「連れてきたあいつの件がらみなんだけどさ、最近、公権力に介入している奴らがいるって聞いてるんだ。此処にもそういった話がきた?」

「公権力に?またヤバそうなものに首突っ込んでるね」

「突っ込みたくて突っ込んでるわけじゃないんですけどね……。それでどうですか?」

「権力とかそういうの嫌いなの知ってるでしょ?」

「知ってるけど、そういう話が有るか無いかが今大事なんだ。それによってはあいつを此処から強制的に出さないといけない。俺としてはそっちであることを願ってるんだけど…」


 堀の話が嘘であるならばそこでこの一件は終わりだ。堀を警察にでもつき渡せばいい。だが、もし話が事実であるならそうも行かなくなる。覚悟は決めたものの、出来るだけ厄介ごとは避けたい。先生の話次第だ。


「それは残念だな」

「どっちに対して?」

「タク、人生にはどうにもならないことが沢山ある。これもその一種さ」

「……」


 どうやらマジみたいだ。嘘であってほしかったな…


「公権力まで手が回っているのは知らなかったけど、二日前くらいに金出すからをしろっていう連中は来たな。全員突っ返してやったけど」

「流石。それで名刺か何か貰った?」

「いや、何も。よほど探られるのが嫌みたいだ。奴らの話的にはある人を探しているからもしここに来たら教えてくれっていう話だった。褒賞も与えるからっていう条件付きでね」

「そんな話を信じる医者がいるのかよ…」

「一定数はいるんじゃないか?今は何処も火の車だからね。しかも、最近は古岡組が潰れただろ。その影響もあると思うよ」

「古岡組の影響を?…まさか…」

「そのまさかだな。古岡組に出資してた病院もあったんじゃないか。じゃないとこんな怪しい話に乗るわけが無い。大方古岡組が潰れたことによる損失をカバーできるくらいには金を出すと言われたんだろう」

「世も末だな…」


 古岡組の影響がこんなところにあるとは。そんだけ本気だったってことか。確かに古岡組がやりたかったことを考えると病院が出資するのも理解できる。もし実現したらどちらも絶対にプラスになる。


「お前もそうだったろ」

「…何も言ってませんけど?」

「どうせタクの事だ。思い出してるんだろ?」

「…昔の話です。あんまりイジメないでくれると」

「あの頃のお前は色々と凄まじかったもんな」

「あいつがいましたから」

「…そうだね…まだダメか?」

「無理ですね。俺は一生恨むと決めましたから」


 先生には申し訳ないがこれだけは何も言わせない。これは俺が抱えるべきものだし、誰かに分けようとも考えていない。俺だけが持つべき感情だ。


「この話は終わりにしましょう。それで、そいつらは金を使って人を探しているってことですかね?」

「そうみたいだね。写真も貰ったけど、どうせお前の事だ。分かってるだろ」

「その写真の子がなんとビックリ俺が連れてきた堀だったというオチだった」

「面白くも無いオチだけどね」


 本当にその通りだ。どう転んでもオチが酷すぎる。写真の子が堀じゃなかった場合は先生の連中とは全く別の問題が起こっているということになるし、写真の子が堀だとしたら面倒ごとは確定。面白くも無い。


「ダル…。先生の方で一週間堀の事見てくれません?」

「それは無理な話だな。他にも患者がいるし、それに加えて外部の問題に対処するとなるととても手が回らない」

「ですよね…」

「それだったらお前の家族に頼れば良いんじゃない?」

「うーん…巻き込むのは気が引けるというか…」

「気乗りがしないと」

「そうです」

「俺は巻き込んでいいのかよ!!」

「だって先生はもう巻き込まれてるし良いかなって」

「お前…」


 既に巻き込んでいる人は別に良いが、何も知らない人を巻き込むのは気が引ける。だからあまり渡辺たちを巻き込みたくはない。


「どっちにしろ、お前はそれで良いのか?」

「?」

「あの子が助けを求めたのはお前だ。そして、その手を取ったのもお前だ。だったらその責任があるんじゃないのか?お前も分かってるだろうに、わざわざ俺に言わせるなよ」

「分かってますけど…」


 分かっている。話も聞いてしまったし、恩人の先生にも迷惑をかけるのが分かっていながら此処に連れてきた。この時点で後戻りはもうできない。


 此処まで来て投げ出す気は毛頭ない。しっかりとあいつをサポートするつもりだ。でも、それでも俺が手を伸ばして良かったのかとも思う。


 俺は人を助けるという高尚な趣味は持ち合わせていない。そんな趣味の奴がいたら一目見てみたいものだ。

 俺に出来るのはただその手助けをすることだけだ。人が人を助けることはあってはいけない。


 それは延々と呪いを伝えていくようなものだからだ。一人助けると次は助かった奴が誰かを助ける。そして、また助かった奴が違う誰かを救う。気持ちの悪い助け合いだ。考えるだけでも吐き気がする。


 そして今回の件はその始まりとなってしまうかもしれない。何故なら堀の問題に俺が関わるだけの理由が無いのだ。金城の時とは違う。此処が一番の問題だ。


 それに…


「良いんですかね。俺が関わっても」

「今更何を言ってるんだ。もう関わってるだろうが」

「そうなんですけどね…俺が関わったことで事態が悪化しないかと思って」

「なら一言だけアドバイスをやる」

「なんですか?」

「迷うな。お前が関わったから悪化する?違う。お前が関わったから堀は今生きていられるんだ。未来を見るな。今を見ろ。在りもしない物を考えたって時間の無駄だ。それにお前が女に関わったんだ。なにかしら堀に対して思うものがあったんだろ?」

「…あいつの厄介な呪いを思い出してたんです。それであの時のあいつの気持ちはこうだったのかなって思ったんです」

「だったら確かめてみたら?」

「確かめる?」

「そう。あの嬢ちゃんが何を思ってお前を助けたのか。それを確かめてみるのも良いんじゃないか?」


 あいつが俺を助けた理由を確かめるか…。それなら俺が動く理由にもなりそうだ。

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