第28話 誤解
発情色魔って…俺が?
そんなわけがない。けど、俺がしでかしたことを考えればそう考えてしまうのも無理も無いか。
「誤解だ。死にそうになってたから脱がせただけだ。何でてめぇに発情しなきゃいけないんだ?しかも、その体勢でよくそんなこと言えるな?」
女は地面に横たわりながら顔だけを向けて俺の方へ話しかけてきている。まだ足の痙攣が収まっていないのか、立ち上がる様子はない。今言った言葉も相まって傍から見れば俺がイジメているみたいだ。
倒れているこいつを見ていると俺が悪いことをしたんじゃないかという気持ちが出てきた。
別に何も悪いことは…一つはしたけどそれだけだ。
それに、その一つも人命救助のための行動だ。決してこいつに欲情したとかじゃない。ただ心配しただけだったんだが。どうしてこうなるんだ?
「パーカーをひん剥いたのは悪かった。確かに俺の配慮が足りなかったな。けど、お前も悪いと思う」
「なぜですか?」
「こんな暑い日にパーカーを着て、それで死にかけてるからだ」
「わたくしにも事情があるんです。それに他人の服装に苦情をおっしゃるのは失礼ではないですか?」
「それは周りに迷惑をかけないという前提があって成り立つものだろ。お前は俺にぶつかった。なら、文句の一つくらい言っても良いと思うんだが?」
そりゃ人の服装に文句を言う資格は誰にも無い。公然わいせつ罪や名誉棄損に引っ掛からなければ何を着ても法律上は何の問題もない。だが、今この状況のように誰かに迷惑をかけたらそれまでだ。少しくらい文句を言っても良いだろ。
「それはそうですけど…」
「だろ?」
「ですが、納得がいきません!!」
「えぇ…」
納得できないってどういうことだよ?どっからどう見ても納得できる要素しかなかったろ。俺も悪い部分はあったが、それでも割合的には俺は多くても四割くらいのはずだ。残りはこいつが全部悪い。俺はそう考えている。
「確かにわたくしの悪かった部分の方が大きいですけれど、それでもわたくしが傷ついてしまったことも確かですわ!!」
「傷ついたってそんな大袈裟な…具体的には何が傷ついたんだよ?」
「わたくしのプライドですわ」
「…今の状況でプライドもクソも無いだろ。それに下着を見られただけで傷つくプライドなんて最初から持たない方が良いぞ。いや、俺が言うのも変だが」
あまりプライドなんて言葉は使わない方が良いのに、こいつは堂々と恥じることなく誰かにプライドがあると言える人間なんだな。すげぇなこいつ。俺には到底できない。そんなプライドはとっくの昔に捨ててしまった。
しかし、下着を見られた程度で傷つくプライドなら持たない方が絶対に良い。安いプライドはかえって自分を傷つける。
プライドとは自尊心だ。そして自尊心はその人の人間性を表す。本当に俺が言うのもおかしな話だが、下着を見られたくらいで傷つくプライドなら今すぐにでも捨てた方が良い。今捨てといたら後で砕かれなくて済むからな。
砕かれたものは二度と元には戻らない。もとに戻ったとしてもそれは歪んでしまっている。だからそんな薄いプライドは初めから持たない方が良い。呪いに変わる前に捨てといた方が良い。
「いいえ、下着を見られただけでわたくしのプライドは傷ついたりしませんわ」
「じゃあ何だよ?」
違ったみたいだ。じゃあ一体何に傷ついたんだ?下着を見た以外で俺が思いつくのは無い。こいつとは今日初めて会うし、パーカーをひん剥いた以外では俺はこいつには何もしていないと思う。多分。恐らく。
「傷ついた理由をあなたに説明しろと?ひどい人ですわ」
「……」
めんどくさ。なんだこいつ?
「わかった。何も聞かないし、説明もしなくて良い。悪かったよ。それじゃあ俺は帰る。お前の要望通り、救急車は呼ばない。だから後は自分で何とかしろ。じゃあな」
「お待ちを」
まだあるのかよ。
「なんだよ?これ以上もう話すことも無いだろ。後はもう時間の無駄でしかない。もう帰らせてくれよ。早く帰って新刊を読みたいんだ」
「私のプライドが傷つきましたの。それに対して、あなたは何もしないおつもりですか?」
「何もしないって…そりゃ何もしないよ。傷ついたのは分かったが、お前はその詳しい理由も言わない。それに、人間として最低限出来ることとして救急車を呼ぼうと思ったらお前は呼ぶなって言ったろうが。これ以上俺が出来ることは何も無い。だろ?」
一応、こいつが女だからといってそのまま見捨てることは俺には出来ない。女は嫌いだが、目の前で死なれるのも嫌だ。
目の前で死なれるのを避けるために人として最低限の措置として救急車を呼ぼうとした。けど、こいつが拒否したのだ。これ以上どうしろと言うんだ。女嫌いの俺にしては結構譲渡した方だ。
「いいえ、あなたに出来ることはありますわ」
「一応聞いてやるよ。それは?」
聞くだけはしてやろう。水を買ってとかならやってやる。
「一週間あなたの家に居候させていただけませんか?」
「無理」
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