第25話 ドーナッツ

 ワクワクとドキドキとお別れした結果手に入ったのはお目当ての新刊とドーナッツ六個。やったわ俺。


「どんだけ食うつもりだよ…」


 新刊が無事手に入ったせいか、気持ちと財布のひもが緩んでしまった。初めは二個だけと考えていたのに気が付けば六個も紙の箱に入っていた。

 二個選んだら新作のドーナッツも気になってそれを入れて、あれも入れて…を繰り返した結果だ。


 恐ろしい店だ。いつも何個までと考えてから買いに行くが計画通りに買えたことは一度もない。

 あれだけのドーナッツを目の前にして二つや三つだけで済ませるのが何だかもったいない気がして、いつも多く買ってしまう。持論だがドーナッツ屋には人間では勝てない魔物が潜んでいると思う。そうでなければこんなに多くドーナッツを買ってしまう説明がつかない。


 しかし、どう考えても一人でドーナッツ六個は多すぎる。


「やっちまったな…」


 まぁ、新刊は無事に手に入った。そこは良しとしよう。問題は買ってしまったドーナッツだ。

 ドーナッツは自分で食べる分は二つ、多くても三つだ。あとの三つをどうするかだ。


 明日の朝食に回しても良いのだが、当然時間が経てば味は落ちる。


 朝から出来立てならまだしも味が落ちたドーナッツが朝食というのはあまりよろしくない。とすると、残りの三つを今日のうちに消費する方法は一つしかない。


「あいつにやるか…?」


 一週間前、不幸なことに同居人が増えた。言わずもがな金城だ。勝手に居候を決めて俺の家に転がり込んできた。

 しかし、女の同居人だ。俺の家に男ならまだしも女がいると考えると眩暈が止まらなくなる。


 その状況を回避するために何とか他の知り合いになすり、いや頼ろうとしたが、不幸なことにどいつもこいつも都合が悪いようでどこにも金城が居候できるような家は無かった。


 最後の最後まで粘ったが、その粘りも空振りに終わってしまった。


 結局、金城が仕事と家を借りれるくらい貯金が貯まるまで居候させることになってしまった。

 渡した五百万があると言ったのだが、金城はそれをすべて返済に回すと言って全て突っ返されてしまった。


 馬鹿な奴だ。そして、それを受け取ってしまった俺も馬鹿野郎だ。何で俺はあの時受け取ってしまったのか。今でも自分が理解できない。


 金城はあれからすぐに仕事を見つけたようで今日も仕事に行っている。


 あいつのメンタルの切り替えの早さには驚かされた。


 俺の予想では一週間はボヘーと過ごすだろうと勝手に予想していたのだが、その予想は早々に裏切られ、居候が決定したその次の日にはもう働き始めていた。


 何だってそんな簡単に切り替えられるんだ?普通は無理だぞ。


「家にずっと居られるよりは良いけどさ…」


 あいつの働くペースを考えたら恐らく最短で2か月、遅くても4か月あれば充分に貯まるはずだ。それまでの辛抱だ。頑張れ、俺!!


 でも最短でも2か月か…


「きっつ…」


 耐えられるビジョンが見えない。俺が先に音を上げてしまいそうだ。部屋は別々とはいえ、朝起きた時に女が視界に映ると、どれだけ目覚めが良かったとしても気分はどん底になる。


 それは俺にとってあまりよろしくない事態だ。朝は出来るだけゆっくり、気分良く過ごしたい。


「どうしようかねぇ?」


 あいつの事情は分かっている。分かってはいるが、たった一週間で俺の精神はかなり参ってる。あいつが何かしたわけではないが、それでも女が家にいるというのは俺にとって結構ストレスがかかる。


 仕方なく受け入れたが、出来ることなら早く金城を追い出したい。あいつの性格は好きだが、それとこれは別の話だ。


 どうにかしないと俺がおかしくなりそうだ。たった二か月だか、四か月の為に新しく家を借りるのも馬鹿らしい。かといって、俺がホテルにしばらく滞在するのも面倒臭い。


 一週間ずっと考えているがなかなかいい方法が思いつかない。早くいいアイデアを思いつかないと俺が死んでしまいそうだ。

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