第19話 見舞い

 あれから歩いて二十分くらいが経過していた。体が思うように動いてくれなかったから少し遅れてしまった。それでもまだ太陽は燦燦と俺の頭上で輝き続けている。まだ許容範囲だ。


「久しぶりだ」


 目に映るのは白で統一された建物。しかし、ほんの一部は塗装が剥がれ、剥がれた部分から鼠色を覗かせていた。建築当時から随分と経過しているのだろう。陽に焼けて変色している部分もある。遠くから見れば病院だと分かるが、近くまで来ると本当に病院かと疑わしくなる。これで市立病院だ。少し不安にもなる。


 でも市が言うにはまだ大丈夫な部類らしい。建物に変色が見られるのは少しアレだが、それでも全く異常はないそうだ。それこそ、病院の外見に赤が表れたらすぐに修繕の準備に入るだろうがそんなことは急には起こらない。そんな状態なら市も動くことは無いだろう。だが、せめて市立病院というくらいなんだからもうちょっと綺麗にしてほしいと思う俺は間違っているだろうか。


 外見に圧されながら中に入っていく。病院の外見はともかく、中は病院らしくアルコールと何かの薬剤が空中で混ざり、病院独特の匂いを形成している。


 人間誰しもが呼吸をしている。その例外に漏れず、無意識的に呼吸が行われれば鼻が勝手に匂いを感じてしまう。そうなれば否が応でも此処が病院だと認識してしまう。


「うぇ…」


 人間性を捨てているようなこの匂いはあまり得意じゃない。人間らしさが何処にも無くて、優しさも感じられない。ただ冷気的で無慈悲なだけだ。だから余り好きじゃない。


 匂いにウンザリしていると面会受付が見えてきた。受付には二人くらいの女性がいるのが見える。マジか?出来ることなら男性が良いんだけど。


 周囲は女性の看護師だけ。我が儘を言う訳にはいかない。少し我慢しよう。一般会話なら別に出来る。女嫌いなだけであって、会話は普通に出来る。他の人がどう思っているかは知らないが自分ではそう思っている。


「すいません。おっちゃん…じゃなかった古岡さんに面会に来たんですけど」

「どういうご関係ですか?」

「どういう関係?あー…親友みたいなものです」

「親友?見たところあなた二十代くらいに見えるけど…古岡さんは五十代近く。親友というには流石に歳が離れすぎでは?」

「ダルいな…」


 めんどくさ。何で知らずの他人にそんなことを言われないといけないんだ。親友と言ったのは流石に言い過ぎたが、それでも濃い関係性がある。見た目で判断しないでほしい。


「別に良いでしょう。友達に年齢は関係ないと思うんですけど?それに、見ず知らずのあんたが口を突っ込むところじゃないだろ」

「…三階の三百五号室に居ます。此処から真っ直ぐ行けば、エレベーターが、此処を左に曲がればエスカレーターがあります」

「どうも」


 案外親切だった。少し申し訳ない気持ちになってしまった。というか、教えてくれるなら最初から教えてくれよ。そうしたらこんな棘は飛ばさなかったのに。


 場所は分かった。なら、病院内のコンビニで何か買ってから見舞いに行こう。見舞いに行ったのに何も持って行かないのは失礼だ。それくらいは俺でも知っている。


「さて、何にしようかね?」

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