裏ーA
女と一緒の空間にいるなんて到底耐えられない。しばらくはこの家から離れよう。三日ほどの荷物をキャリーケースにまとめて詰め込む。ホテルに行くか知り合いの家に転がり込むか迷うが、どっちにしろしばらくは通常運行にはならなそうだ。
金城の問題は予想通り借金だった。俺のカンはまだ鈍っていないようだ。あいつにどんな事情があったのかは知らない。自分の為には使っていないとも言っていたが、そんなこと俺には関係ない。ただ間違いなく言えることはあいつが取った方法は間違いだったという事だ。
借金した額はおよそ五百万だとあいつは言っていた。一括で借りたのか分割で借りたのかは分からないが、五百万は相当な額だ。何に使ったかは必然的に選択肢は絞られる。
「まぁ、どうでも良いか」
あいつが何に五百万を使ったのかなんて俺には関係ない。今俺がしないといけないことは俺の目の前で女を置いていったあの馬鹿野郎どもに借りを返すことだ。
金城を追いかけていた奴らは古岡組の一員だと言っていた。あそこの組長は顔は怖いが、優しいやつだ。闇金ではあるものの取り立てもそこまで厳しいものではなく、金を貸すのも同じ系統のグループか政治系の奴にしか貸していなかったはずだ。
一般人に貸すのはご法度だと組長自身が言っていたし、見た目はただの一般人だった金城に金を貸すとは思えない。あいつが実はどっかのお偉いさんの娘だったっていうならまだ納得できるが、それだったら金は返せるはず。あいつを追いかける意味がない。
なら考えられるのはただ一つ。組長が変わったか?方針が変わったならこれらに説明がつく。だが古岡組が経営に行き詰っているという話は聞いていない。元の経営方針なら経営に行き詰ることなんてことは絶対に無い。なんせ客が客だ。デカい額だけデカい利益が手に入る。
「なんか面倒な時期に首を突っ込んじまった…」
一般人に金を貸すようになるなんてロクデモナイ理由しかないだろ。より巨大な利益を手に入れるためか、それともあまり考えたくはないが何かの準備に巨大な資金が必要かだ。
「そういう時って何か悪いことを企んでる時なんだよな」
今までの経験でそういう時には良いことが起こった試しはない。俺はただあいつ等をぶん殴れればそれで良いが、もしそんなことが古岡組の内部で起こっているなら問題はさらに複雑になる。
どちらにしろ慎重に行動する必要がある。考えなしで動いて問題がさらに複雑になるのは嫌だ。さっさと解決するためにはここは急がば回れ。落ち着いて行動しよう。
まずはあいつらについての情報を調べないとな。伝手はある。そいつから聞き出そう。あいつには色々と貸しているものがある。今それを返して貰おう。スマホで情報の依頼と数日間滞在するという連絡をする。どんな反応が返ってくるにしろ数日間滞在するのだけは確定事項だ。何を言われてもそこだけは飲んでもらう。
家には金になるようなものはないし、飯も冷蔵庫に大量にある。放っておいても金城が死ぬことはないし、家が荒らされるなんてこともないはず。
だが、金城が家に居続けるとは思っていない。女は信用できない。これはこの世界で唯一絶対で不変の法則だ。それだけは信じられる。あいつがどんな選択を取るのかは分からないが、万が一のことに備えておこう。
一応、本当に一応手紙を書いてキッチンにあるテーブルに乗せておく。家から出なければそれでいい。それが最高だ。だが、こいつと話した感じから察するに、決して楽な道を選ばない奴だという事が分かった。きっと家から出ていくだろう。その対策も一応考えてある。
キャリーケースをしっかりと握り玄関まで向かう。たった三日分の荷物だ。そこまで重くはならない。スニーカーに防水加工のスプレーをムラが無いようにかけ、濡れないように準備しておく。多少は濡れるかもしれないが、それでもかけないよりはマシなはずだ。
準備はもうできた。後はドアを開けるだけだ。だがなんてことはない。ただのドアだ。ドアノブに手を掛ければすぐに開く。何が待っているかは知らないが、後はもういつも通りに進むだけだ。アウトソールを軋ませながら外へ軽く踏み出した。
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