第8話 人の心、人知らず

 外は昨日とは違い、雲一つない快晴だった。目に差し込むような日光が眩しい。気温も温かいし、河川敷まで行って太陽を浴びながら昼寝でもしたくなる。そんな気楽な考えが浮かぶが、現実は容赦なくその考えを叩き潰してくる。


「どこにいるんだろう?」


 彼の家を出たのは良いが、彼が今どこで何をしているのか私は全く知らない。彼への手掛かりも全くない。彼を探すという目的では絶望的な状況だった。


 けれど、今回の目的は彼よりも先に古岡組に接触して私がそれを解決することだ。すると、彼には無くて私にはあるものがある。それは


「私があいつらに追いかけられていること」


 アドバンテージとは言えないかもしれないが、今この状況では間違いなくアドバンテージだ。彼らにわざと捕まれば間違いなく彼よりは先にあいつらに接触できる。


 この方法を使えば確実に古岡組に接触できる。それは間違いない。問題点があるとすれば捕まった後私がどうなるか分からないという事だけど…


「私の問題に彼を巻き込んでしまったし、今更惜しむものでもない」


 覚悟はもう決まっている。むしろ遅いくらいだ。最初からこうすれば彼を巻き込まずに済んだ。この事態は私が覚悟を決めなかったから起こったのだ。その謝罪の意味も込めてわざと捕まって、ついでに彼の問題とやらも解決してあげよう。どんな問題か知らないけど、私に出来ることをすればきっと解決できるはず。


 助けてくれたお礼はまだ何も出来ていない。だからせめてこれくらいは彼に返してあげたい。何もできない私が出来る唯一の方法だ。ありがとうと言っても伝わらない物もある。彼の場合は女嫌いだから余計に伝わらない。だから行動で返す。言葉ではなく行動で。それがきっと一番の方法だ。


 方法は決まった。次はあいつらが何処にいるかだ。それさえわかればすべて解決する。無い頭を無理矢理に働かせる。昨日食べたご飯のおかげかいつもより頭はスムーズに動いてくれた。


 借金を本人から取り立てられなくなったら次は何処に行く?私は雲隠れをしている状態だ。私の家に行っても無駄なのは彼らだってわかっているはず。私の家に向かう事はないだろう。となると、次に向かうのは…


「連帯保証人の家か…」


 私が連帯保証人として選んだのは母親だ。奴らは母親の家、つまり私の実家に向かうだろう。母親を連帯保証人に選んだのは嫌がらせの為だ。あの女にはそれくらいしても足りないくらいだ。今となってはその気持ちが完全に裏目に出てしまったが。


「どうか家には誰もいませんように」


 神様に向かって祈るが、祈った結果何か良いことが起こったことはこれまで一度もない。それでも祈るしかない。無駄だと分かっていても祈りたくもなる。


 ロクな思い出が無い忌々しい実家に向かおう。もう二度と帰るつもりは無かったのに、人生何が起こるか分からないものだ。こんなことがきっかけで実家に帰るとは思いもしなかった。現状私が取れる行動はこれだけだ。選択の余地はない。重くなった気を背負いながら足を実家の方向へと向ける。


「行こう」


 不幸中の幸いか、幸い中の不幸かは分からないが、気は重いものの体はいつもより軽い。これなら途中で倒れることはない。その心配をしなくていいのは結構大きい。軽く足を延ばし、アキレス腱が切れないようにする。両足が充分に伸びたら準備完了だ。


 ここら辺の道なら一度新聞配達で来たことがある。道順は頭の中に入っているから迷う事はない。此処から実家までおよそ一時間と言ったところか。地面を右足で力強く蹴り、固い灰色の地面を足で感じながら実家へと向かった。











「女がどこかに向かうみたいです。何か進展があったら報告します。それではまた後で」

『分かった。頼むぞ』

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