第7話 決意

 結局一日が経過した。もしかすると戻ってくるかもと思ってリビングで村澤君の帰りを待っていたのだけど、彼は帰ってこなかった。どうやら本気で解決するまで帰ってこないみたいだ。


「帰ってこないのか…」


 彼の帰りを一日待っていたので当然徹夜だ。だけど、不思議なことに全然眠くない。むしろ、目は冴えている。何だって出来そうな気分だ。その頭を使ってこれからどうするかを考える。


 彼が帰ってこないことはもう充分に分かった。となると、私には今二つの選択肢がある。


 一つ目は彼の言う通りこの家で彼が私の問題を解決してくれるのを待っていること。この選択肢はきっと彼にとっての最善の選択肢だ。私に邪魔されることなく、女に関わらずにこの件を解決できるから。問題があるとすれば私のことを一切考えられていないことだ。村澤君にとってはどうでも良いことかもしれないが、私にとっては重大な問題だ。


 二つ目は私がこの件を片付けること。前者よりこっちの方が絶対に平和的に終わる。私が覚悟を持って古岡組に交渉する。私自身の保証はいらない。彼の身の安全を約束してもらえればきっとすべてが円満に収まるはず。


 当然、私は二つ目の選択肢を選びたい。でも、彼の手紙には家から出るなとも書いてあった。家から出たらそこまでの人間だと書いてあった。助けてくれた彼の信用を失いたくない。せっかく私に手を差し伸べてくれたのだ。彼の信頼のようなものに応えたい。


「どっちにする?」


 この選択で未来が変わってしまうような気がする。選択肢を間違えればすべてを失い、選んだことを後悔することになる。正解を選んだとしてもその道中で失ってしまったものを後悔する。どの選択肢を選んでも失うものは絶対に何かしらはある。今まで生きてきた中で学んだことの一つだ。後悔することは分かっている。


 だからこそ、自分の気持ちに正直に。自分の気持ちで決めたことなら嫌々決めたことよりも胸を張って後悔できる。これも今までも学んだことの一つだ。


「だったら私は…」


 気持ちに正直になれば自ずと選びたいものは分かってくる。自分の気持ちと正直に見つめあう。見つめなおせば色々な感情が浮かんでくる。このまま任せておきたい、何もしたくないという感情も勿論ある。それでも私が私らしく覚悟を持ってこれからを生きていこうとするなら、私が選ぶべきは


「待ってなさいよ!!」


 揺らぐことのない決意を胸に私も動くことにする。彼からの信用を失ってしまうのは怖いが、手紙を見る限り今の私は信用はされていない。ただ待っていても彼から信用されないだろうし、待ち続けるっていうお姫様っている柄でもない。だから信頼を築き上げるためにも私も動いた方が良い。


「行こう」


 準備はもうできている。後は外に一歩踏み出すだけだ。雨で濡れ、水気を帯びている靴を履きながら固く閉ざされたドアの前に立つ。右手に力を入れドアノブを握る。重い感触だ。簡単には開かない。軽い気持ちでは開けられないドア。いつも私の前に立ちふさがる壁だ。これを超えていかない限りは外へいけない。


「いつも通りに」


 深呼吸をしてドアノブを捻る。ドアノブは私を認めてくれたようだ。ドアは少しずつ開いていく。ドアが開けばあっという間に外の風景が見えてきた。濡れた靴の足にまとわりつく不快な感覚を味わいながら私は力強く外へ一歩踏み出した。

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