第5話 原因
「彼らは古岡組の一員」
「古岡組か…そこは確か金融系だったな。何でそこから金を借りた?あそこは闇金だぞ。そんな所からからわざわざ借りるなんて馬鹿のすることだ。まさか分からなかったって言うつもりじゃないよな?」
「古岡組が闇金だって言うのは私だって知ってた」
「じゃあ何で?」
「闇金からじゃないとお金を借りられなかったから」
村澤君は私に軽蔑するような視線を浴びせてきた。それはそうだ。闇金からじゃないと借りられないってよほどの事情が無い限りはあり得ない。そのよほどの事情も今まで借りたお金を返さなかったから他の所から借りれなくなったのだと推測できる。きっと彼もそこまで考えて白い目で私を見たのだろう。
「私の事ロクデナシだと思ったでしょ?」
「思った。むしろそれ以外だったら説明がつかない。借りた金は何に使ったんだ?ブランド物か?それとも宝飾品か?いずれにしろ救いようのない馬鹿だとは思うがな」
「そう思われても仕方ないけど、一応言っておく。違うよ。借りたお金は私の為には一銭も使ってない。これは神様に誓えるよ」
「それは残念。俺が信じる理由にはならないな。で?どれだけ借りたんだ?」
「大体五百万」
「それはそれは。闇金からよくそんだけ借りれたな。向こうは渋ったろ」
「うん、けどそこは何とかした」
「なんとかなってないけどな」
「それはそうだけど…」
痛いところを突かれた。闇金だからと言っても借りたからには返済する義務が発生する。法律的には返さなくても良いのかもしれないけど、私の性格だ。借りた物は絶対に返す。そう思って今まで頑張ってきたんだけど…
「察するに利息で首が回らなくなったってところか」
そう。問題はそこだった。闇金からお金を借りると借りたお金とは別に利息が発生する。普通の金利だと年利三パーセントで多くても十八パーセントだ。年利は借りた金額にそれぞれの会社で定められている利率を掛け算して求めるものだ。私の場合は五百万を借りたから年利を三パーセントにして返済日数を二年とすると、借りた金額とは別に三十万円を支払わなければならない。だから計五百三十万を返済しないといけなくなるという訳だ。実際はもう少し違うかもしれないが計算すると大体はこんな感じになる。
一方、闇金は一日に利息がかかるようになる。例えばトイチになると十日で借りた金額の一割を返さなければならない。私にこれを当てはめると五百万の一割、五十万が利息となる。ここが闇金の恐ろしさだ。十日で一割なら百日たてば利息は借りた金額と同額になる。この暴利のせいで借りた金額を返済できずに、永遠に利息だけを返し続けるという恐ろしい状況が生まれてしまう。
借りる金額が大きければ大きいほど、利息は大きくなる。結局私は借りたお金を返せなくなって返済義務から逃げてしまったのだ。
「クソ、厄ネタが過ぎるな」
「それはごめんなさいとしか言えない。この状況は間違いなく私のせい。私が責任を持ってこの状況を解決するから…」
「責任を持って…?てめぇふざけてんのか?責任という言葉は今のお前が絶対に使っちゃいけない言葉だぞ。お前のどこを見れば責任があるんだ?形だけの言葉なんて使うな!!」
「…ゴメン」
「もういい。聞きたいことは聞けた。お前はしばらくこの家から出るな」
「?」
なんで私を追い出さないの?聞けたいことは聞けたのなら私をこの家に置いておく理由は無い。私が言うのもなんだけど私を此処から追い出した方が絶対に良い。
「何でこの家から追い出さないの?」
「女を信用してないから。お前がどうなろうとどうでも良い。だが、野に放って俺の家の場所をあいつらにチクられるのは嫌だ。ただそれだけだ」
「そんなこと絶対にしない。助けてくれたあなたを売ったりしないよ!」
「信じられるわけないだろ」
それだけ言って彼は部屋から出て行ってしまった。確かに私は信用できないかもしれないけど、そんなことは絶対にしない。けれど、そんなこと絶対にしないと証明できる物が今は無い。口先だけの約束を信じるって言うのも無理があるか。
自分の無力さを改めて実感する。自分がしたことにさえ責任をとれない人物。それが今の私だ。今の私に生きているだけの価値はあるのだろうか。何年も考え続けている疑問が頭を支配する。この問いは答えが出ない問いだ。答えが出るとすれば……
止めておこう。今考えるべきはどう借金を返済するかだ。意味は無いかもしれないが、何も考えないよりは幾分かはマシのはず。そんな空想と幻覚を私は一生懸命に考えていた。
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