04. 雫の日記帳02 ~魔術をばーんって打つのね?~
ノックの音がして目が覚めた。ドアが開いて蒼ちゃんが部屋に入ってきた。
「お姉ちゃん、起きた?」
「んゆ……。今起きたわぁ……」
雫は起きて伸びをする。窓の外を見たら今日もいい天気。青空が広がっているわ。
「朝ご飯ができたから、着替えて降りておいで」
「はぁい」
ベッドから降りて着替える。昨日買ったお洋服を選ぶ。今日はフレアスカートとブラウスにしようかしら。早速袖を通す。
階段を降りて食堂に行くと、リエラちゃんは座っていて、蒼ちゃんは配膳をしていた。
「シズク、おはよう」
「おはようお姉ちゃん、遅いよ!ご飯冷めちゃう」
「ごめんねぇ。おはよう、二人とも」
席に着くと、雫の前にも蒼ちゃんがお皿を置いてくれる。焼いた丸パンに、目玉焼きとウィンナーだ。目玉焼き好き。
「今日のご飯は蒼ちゃんが作ったの?」
「そう。これからは私が作ろうかと思って」
「助かるの。ところでシズクは朝、ゆっくりさんじゃの?」
「お姉ちゃん、たまーーーに早く起きるんだけど、いつも私が起こしてる」
「朝どうしても起きられなくって。蒼ちゃんにはお世話になってます」
「ならご飯ももっとゆっくりでもいいのじゃが……」
「それは嬉しいわぁ」
「だめ!甘やかすとずっと寝ちゃうから起こします!」
「あぁん、蒼ちゃん……。……これからも起こしてね」
三人で笑いながら、蒼ちゃんも席に着く。それから雫たちはいただきますをして食べ始める。
この半熟は蒼ちゃんしか作れないの……。おいしいわぁ。
今日の天気など、たわいのない話をしながらご飯を食べる。三人とも食べ終わってごちそうさまをする。
リエラちゃんが食器を生活魔術で片付けてくれる。雫も早く覚えてお手伝いしたいわぁ。
お皿を目で追う雫の目線に気づいたリエラちゃんが、笑いながら言う。
「今日覚えられると嬉しいの」
雫も笑顔で返す。
「よろしくね!リエラちゃん!」
食器も片付いて、雫たちは食堂の隣にある工房へ移動する。様々な本や物が所狭しと置かれている。絵本で魔女が使ってたような釜もあるわ。あっちには理科の実験で使うようなビーカーね。何か作ったりするのかしら。
「さて、今日から魔術の話じゃ。早速始めるかの」
雫たちはリエラちゃんを見て頷く。そうよ、今日は魔術の授業だわ。聞くのは今度にしましょう。
リエラちゃんは作業台の上にあるものを魔術で丸ごと別の机へ移動させて、丸椅子を二つ取り出して雫たちの前に置いてくれる。雫たちは促されてそれに座る。
「まず魔力についてじゃ。魔力とは、この世界に溢れる力の源じゃ。空気みたいに彷徨っておる。が、空気と違うのは様々な力に応用することができるという点じゃ。それが魔法であったり、魔術であったりする」
「神様は、私たちに魔法は使えないと言ってました。魔法は精霊が使うものだと」
「そうじゃ、魔法は精霊が使う。というより、もともと魔法しかなかったのじゃ」
「雫たちは魔術が使えなかったの?」
「順を追って説明する。まず魔法と魔術の違いについてじゃ。魔法とは、魔力を森羅万象に変換し、行使するもの。精霊は、魔力を自らの力でもって変換することができる。例えば風の精霊が魔力を変換したら風になる。それが強い魔力、多い魔力ならば嵐じゃ。ここまではよいかの?」
雫たちは頷く。
「一方で人間は精霊のように魔力を直接風や火に変換することはできん。精霊が行う『魔力を何かに変換する』という能力が人間にはないからじゃ。そこで、人間は精霊の用いる言語に注目した。この言語を用いて魔力に働きかけられないかとな。研究は長きに及んだが、やがて魔術陣や詠唱の体系に纏まった。そしてこの言語を使うことで、魔力に精霊が働きかけていると誤認させ、風や火に変換することが可能になったというわけじゃ」
「精霊は変換する力があるから言語なしでもできるけど、人間は力がないから言語が必要ってこと?」
「平たく言えばそうじゃの」
「雫たちも言語を覚えないといけないのねぇ」
「そこはぬしらは問題ないと思っておる。言語理解のスキルがあったじゃろ?」
「あ、そうか、これが精霊の言語なら、私たち覚えられる」
「試してみるかの」
そう言ってリエラちゃんは紙に円と文字を描き始める。
「これが魔術陣じゃ。何の魔術かわかるかの?」
雫は蒼ちゃんと二人で魔術陣を覗き込む。あ、何か頭に流れ込んでくるわぁ。リエラちゃんと初めて会った時と同じ感覚ね。これで理解できるようになったのかしら。えっと、風、弱い、周囲……かしら。
「弱い風を周囲に起こす?」
「そうじゃの、シズクも読めたかの?」
「えぇ、単語だったけど、読めたわぁ」
「私も単語だったよ。文章にしただけ」
「うむ。この言語の基本は単語の羅列じゃ。読めたようで何よりじゃ。魔術言語の説明は不要じゃな」
雫にも読めてよかったわぁ。蒼ちゃんと見つめ合って笑顔になる。
「これに魔術名称をつけて発動する」
『ブリーズ』
リエラちゃんが唱えると、魔術陣が光り出し、微風が雫と蒼ちゃんにかかった。
リエラちゃんが笑顔で続ける。
「こんな感じじゃ。魔術名称は何でもよい。本人が発動しやすいように好きに呼べばよい。さて、次に属性について説明しようかの。シズクは聖属性、アオイは風、火、水、土に適性があるんじゃったな」
「今リエラが言った適性を、元々の適性に追加してもらったんだ」
「ふむ、ならばあとで調べ直してみるかの」
雫たちはリエラちゃんを見て頷く。
「属性は大きく三種類ある。基本属性、上級属性、特殊属性じゃ。まず基本属性。これはアオイが適性を持つ風、火、水、土の4つじゃ。火は風に強く、水は火に強い。土は水に強く、風は土に強い。このような相克関係になっておる。また、火と土、風と水は仲がよく強め合う。特にアオイはこの関係を覚えるところからじゃな」
「わかった」
「次に二種類目の上級属性。これはシズクの持つ聖属性と、もう一つが闇属性の二つじゃ。互いに相反する関係になっておる。打ち勝つには相手より強くなるしかないの」
「わかりやすいわぁ」
「最後に三種類目の特殊属性。これはわしが持つ空間属性、昨日荷物をしまうのに使ったストレージがこの属性じゃな。それと月属性、木属性などがあるが、実は全容がわかっておらん」
「……どういうこと?」
「全ての特殊属性が明らかになっておらんのじゃ。隠れているものがあるかもしれんし、こうしている間にも増えているかもしれん」
「なるほど……。月属性っていうのはどんな魔術が使えるの?」
「魅了や変身じゃの。ほれ」
『ボディチェンジ』
リエラちゃんが短く詠唱すると、ポンっという音と煙と共にリエラちゃんの姿が消え、代わりに綺麗な毛並みの三毛猫が現れた。
「これが月魔術、かわいいじゃろ?」
「かわいいわぁ」
「か、かわいいにゃーん……。これが魅了」
「魅了ではなく変身じゃがの」
蒼ちゃん、猫ちゃん大好きだものねぇ。
突っ込んだリエラちゃんが人の姿に戻って話を続ける。
「特殊属性には相関関係がなく、それぞれ独立していると言われておる。属性の説明はこんなもんじゃな。わからないところはあったかの」
「大丈夫」
「なんとかわかったわぁ」
雫もお勉強は苦手だけどまだ大丈夫だわぁ。とっても楽しいもの。
リエラちゃんがあっ、と何か思い出したような顔をする。
「そうじゃ、適性について話してなかったの。適性のあるなしは、その属性への魔力の変換のしやすさじゃ。じゃから例えば水属性の適性があるアオイは、極めれば大洪水も起こすことができる。一方でシズクは適性がないが、水を出す程度のことはできる。これは精霊の魔法と違って人間が魔術言語を用いるからじゃ。魔術言語で最低限の変換はできると言うことじゃな。わしはそのことに気づいて、属性の適性がなくても誰でも使える魔術が作れるのではないかと考えた。その結果が生活魔術じゃ。これが、生活魔術が誰にでも使える理由じゃ」
「じゃあみんなリエラのおかげで便利になったんだね!」
「ほぼ全ての人間は魔力を持っておるからの、多寡はあるから全員が全ての生活魔術を、というわけにはいかんが……」
「それでもすごいわぁ」
雫たちはリエラちゃんを誉める。気をよくしたのか、リエラちゃんはちょっと照れながら話を続ける。
「で、では次に魔術について説明する。魔術はさっき言語を覚えさせるのに用いた魔術陣と、猫になるときに使った詠唱の二種類の方法で行使することができる。魔術陣は紙などに描いたり、あらかじめ描いておくこともできるが、その場で魔力を使って描くこともできる。このようにな」
そう言ってリエラちゃんは指で空中に円と文字を描き始めた。水を出す魔術ね。リエラちゃんが描き終えて『ウォーター』と詠唱すると魔術陣が輝き出し、水差しに水が補充された。
コップに水を注いで飲むリエラちゃん、雫と蒼ちゃんにもコップを差し出してくれたので受け取って一口飲む。普通の水だわ。魔術を使えば飲み水に困らないのね。
「詠唱はさっきもやったの。その場で言語を話すことじゃ」
『ヒート』
リエラちゃんが詠唱すると、水差しから湯気が出てきた。お湯になったのかしら。コップに再度注いでくれた水からも湯気が出ているわ。ちょっと飲んでみると熱かったわ。
「こんな感じじゃの。さて、まだお昼まで時間があるしの、魔力操作と魔力感知について説明するかの。ところでシズク、昨日は日記書けたかの?」
「え、えぇ、書いたわぁ。ありがとうね、リエラちゃん」
「うむ。あの魔術具を使うのに魔力を放出する必要があるから、シズクは魔力操作はできてそうじゃの。復習がてらやってみるかの。二人とも、手を出すのじゃ」
雫たちはリエラちゃんに言われて両手を前に出す。そして、三人で円を描くように手を繋いだ。
「今からわしが魔力を流すから、感じたことを言っておくれ」
「はい」
「わかったわぁ」
リエラちゃんと繋いだ右手が温かくなってくる。蒼ちゃんの左手も同じようになっているのか、蒼ちゃんが驚いている。
「感じたか?」
「右手が温かいわぁ」
「私も、左手が温かい」
「うむ、今わしが両手に魔力を込めておるからの。このまま流してみるぞ」
そう言って続けるリエラちゃん。今度は左手も温かくなってきたわぁ。それになんだか、左手から右手に何かが流れているみたい。腕から身体の芯に沿って、流れている経路も温かくなってきたわ。
「どうじゃ?」
「右手も、温かくなって、身体も温かい」
「左手から右手に何かが流れている感じだわぁ。その流れてる部分が温かいわ」
「ふむ。今わしの右手から魔力をアオイを通り、シズクを通ってわしの左手へ流しておる。それを二人とも温かいと感じておる。これが魔力感知じゃ。二人ともできておるようでよかった。今のところ魔力感知はシズクの方が上かの。まあ鍛えれば問題ないから気にする必要はないの」
蒼ちゃんがなるほど、と頷いている。雫も褒められて嬉しいわぁ。手を離してリエラちゃんが続ける。
「次に魔力操作をやるかの、一人ずつ手を繋ぐぞ。わしが魔力を両手に流すから。それを自身の魔力で押し返すんじゃ。まずアオイからやるかの」
リエラちゃんが蒼ちゃんと両手を繋ぐ。蒼ちゃんが手に力を込めてるのか、ギュッと握っているのが見ててわかる。するとリエラちゃんが目を見開いて驚いた顔をした。少しして手を離す二人。
「おぬし、随分と魔力が強いの。流石にびっくりしたぞ」
「そうなのかな……」
「蒼ちゃんあれよぅ。神様に願ったからよぅ」
「なんて願ったのじゃ?」
「えっと、魔力はこの世界の人間にとって特筆すべき量を持ってるって神様は言ってたけど、それでもうんと強くしてほしいってお願いしました」
「なるほどの。鍛えたらわしより強くなるかもじゃのう」
「えぇ……二人で旅ができるくらいでよかったのに……」
「願いの結果じゃから仕方ないの。次にシズクもやるかの、押し返すのはそっとじゃぞ。流石にわしも全力でやられたら耐えられるかわからんからの」
「はぁい」
リエラちゃんと両手を繋ぐ。リエラちゃんの魔力が流れてくるのがわかる。さっきは温かい感じだったけど、今度はちょっとピリピリする嫌な感じ。思わず少し力を込めて押し返してしまった。バチっと音がして、リエラちゃんが慌てて手を離す。
「すまんの、ちょっと悪戯をした。シズクも操作できておる」
「もうリエラちゃんったら……。何かピリピリしたけれど、どんな悪戯をしたのよぅ?」
「闇属性の魔力を流した」
「えぇ、お姉ちゃん大丈夫!?ちょっとリエラ!お姉ちゃんに危ないことは……」
「大丈夫よぅ、ちょっとピリッとしただけだから」
「うむ、すまんの。じゃがそれがわかって、押し返せてるから十分じゃ。あとは二人とも、そのコントロールじゃな」
雫たちは頷く。
「さて、お昼ご飯にして午後の実技と行くかの」
お昼ご飯はさっとコッペパンにレタスとトマト、ウィンナーを挟んだホットドックだわ。蒼ちゃんが作ってくれたの。ケチャップは瓶詰めなのでスプーンでちょっとずつ塗っていく。
いただきます。
この世界に来てからだけど、野菜もウィンナーも素材の味が濃く感じる。何か違うのかしら。
とってもおいしかったし、小さめだったから二つ食べちゃったわぁ。ごちそうさまでした。
雫たちは再び工房へ行く。
「まず、二人の属性適性を見てみることにするかの」
リエラちゃんは、作業机の上に両手でやっと持てるくらいの大きさの水晶玉をコトリと置いた。
「ここに手をかざして魔力を流すと、出てきた色で適性のある属性がわかるのじゃ。どっちからやるかの?」
「じゃあ雫からやるわぁ」
「魔力はそっと込めてくれ。ぬしらの力だと割れるからの。頼むぞ」
雫は水晶玉に手をかざしてそーっと魔力を込める。やりすぎないように、そーっと……。すると、水晶玉がいくつかの色を浮かべて輝き出した。白と、水色と、金色かしら?
「ふむ。聖属性、空間属性…………あとは混ざっててよくわからん。1つかもしれんし、複数かもしれん」
「聖属性ってことは、回復ができるのよね?」
「そうじゃの」
「じゃあ蒼ちゃんを癒してあげることができるわぁ」
蒼ちゃんに抱き着いて喜ぶ。雫にはそれがとっても嬉しい。あとストレージが使えそうなことも。他の属性はよくわからないけれど、今気にしてもしょうがないことだわ。
「アオイもやってみておくれ」
「わかった」
蒼ちゃんが水晶玉に手をかざす。色がいっぱい浮かんでいるわ。それが混ざって虹色になったわ。あとは、水色と……銀色かしら?
「基本属性全部と、空間属性。シズクと一緒で残りはわからん」
「神様に願った通りかな。元々空間属性は私もお姉ちゃんも適性があったんだね」
「そうらしいのう」
「お姉ちゃんの金色と、私の銀色は本当にわからないの?」
「うむ、わしは見たことも、文献で読んだこともないの。称号に神の祝福があるじゃろ?あれが影響してるような気はするが、詳しくはその属性の魔術を覚えてみないとわからんの」
「そっか」
「まぁ、追々わかるじゃろう。今は基本の訓練じゃな」
「魔術をばーんって打つのね?」
「違うの」
違うみたい。
「わしは知識と魔力が増えれば、勝手に上級魔術を覚えるものだと思っておる。ぬしらは魔術言語を習得したしの。じゃから、それより大切なのは基本となる魔力操作と魔力感知じゃ。この二つが身についてない魔術師は上級魔術が使えても、はっきり言って弱い。逆に身に付いていれば、初級しか使えなくとも強い。わしはそう考えておる。とは言ってもそれだけじゃ飽きてしまうしの。基礎をしつつ魔術も覚えていくとしようかの。まず何が覚えたいかあるかの?」
「はい!雫は食器を洗う生活魔術と洗濯をする生活魔術を覚えて二人を手伝いたいわ!」
「私もその二つを覚えたい!あとお風呂!!」
「風呂は魔術具じゃから、そっと魔力を流せばもう使えるぞ」
リエラちゃんは笑って雫たちに魔術を教えてくれる。
「大切なのはイメージじゃ。魔力操作ができてイメージが完璧なら、必要魔力さえあれば大抵なんとかできる。じゃから、食器洗いも洗濯も大切なのは洗うイメージじゃ。他の魔術もじゃがの」
そうしてリエラちゃんは生活魔術の詠唱と魔術陣を教えてくれる。同じ言葉を言うか書くかの違いみたい。
食器洗いは『水、流動、土塊』で、洗濯は『水、流動、布』だって。あとは汚れを落とすイメージが大事だって。それから発動に使う言葉は別の呪文で重複しても毎回違ってもいいって。大事なのはとにかくイメージを固めることだって言ってたわ。
雫と蒼ちゃんは早速昨日着てた服を持ってきて、三人で外に出て洗濯してみる。ええっと……『水、流動、布』と詠唱して……。
『ウォッシュ』
リエラちゃんに魔力は弱めにな、と口を酸っぱくして言われたので気をつけてやってみたわ。洗濯できたみたい。雫は洗濯機のイメージがあったから、終わったらお洋服がねじれていたけど、蒼ちゃんはそうなっていなかった。イメージってこういうことなのね。蒼ちゃんはどうやって汚れを取ったのかしら。でも、汚れは落ちたみたいでよかったわ。雫たちは乾かす魔術も教えてもらって、乾かしてみる。魔術言語は『微風、纏う、布』ね。詠唱して発動してみる。
『ドライ』
今度は干した洗濯物が風になびくイメージで使ってみたわ。そうしたらお洋服がねじれずにすんで、綺麗に乾いたの。よかったわ。
「リエラ!すっごく楽しい!」
「そうじゃろう。魔術はとても楽しいものなんじゃ」
「雫も、初めてやったけどもっと色々覚えてみたいわぁ」
「そうじゃろう。二人ならきっと新しい魔術も作れるぞ」
「楽しみねぇ」
他にも生活魔術を教えてほしいわとリエラちゃんに聞こうとしたら
「さて、魔力操作と魔力感知に戻るぞ」
「はぁい」
「はい」
残念、でもきっとこれも楽しいわぁ。
「まずは初級じゃ。身体の中心から、お腹の下辺りに魔力を生成する器官がある。そこから魔力を生み出して、身体全体に巡らせるイメージじゃ。立って楽な姿勢での」
雫たちは。足を少し開いた状態で立って目を瞑って魔力を巡らせてみる。お腹の辺りがあったかいわぁ。これが魔力を生み出すっていう器官ね。そこから魔力を身体中に巡らせるイメージ……。血液みたいなものかしら。
「うむ、二人ともできておるぞ、そこから巡った魔力を身体の外に取り出す。透明な薄布を纏うイメージじゃ。やってみるのじゃ」
続けて雫はやってみる。薄布のイメージはできるんだけど、難しいわぁ。カーテンみたいな布になっちゃう。
「アオイはそのままキープじゃ。シズクはもう少し薄くできるかの?」
「難しいわぁ」
「うむ、ならそのまま滑らかに纏っていくイメージでよい、次第に薄くできるようになるからの」
「わかったわぁ」
リエラちゃんに言われた通り、動きがもたつかないように滑らかに動くイメージで続ける。結構疲れるのねぇ。
「ふむ、二人ともいい感じじゃよ。次にその布をできるだけ広げていくイメージじゃ、何かにぶつかったと感じたらそこでストップじゃ。ほれ、やってみるのじゃ」
雫は纏ったカーテンのような魔力を広げていく、魔力の左側が何かにぶつかった。蒼ちゃんの魔力かしら。え、押し戻されちゃう。
「蒼ちゃん、雫の魔力とぶつかってるわ、止められるかしら?」
「え!?ごめんお姉ちゃん、止めるね……」
「大丈夫よぉ。ゆっくりね……。あ、止まったわぁ」
「そうじゃの。そこでキープじゃ。今からわしが魔力を広げるから、ぶつかっても今の広さのままキープじゃ。ゆくぞ?」
「え!?ちょっとリエラ、そんなのいきなり!」
「がんばるわぁ」
前の方からリエラちゃんの魔力を感じる。押し負けないようにキープしないと……。
「アオイ、負けておるぞ。シズクは逆に広がっておる。キープじゃよ」
「うえぇ……。こうかな……」
「もう少し減らして……」
雫はリエラちゃんに指摘された通りに魔力を少し引っ込めてみる。
「よい感じじゃ。じゃあ最初にやった薄布を纏う状態に戻す。ほれスタート!」
「えぇ!?」
「あれ?最初どうやってたかしら」
「アオイは順調じゃの、シズク、もっと滑らかにやるんじゃ」
「……はぁい」
「これを繰り返すからの」
やっと最初の状態に戻せたわ。でもまたカーテンみたいな厚さだわ。
「これめちゃくちゃ疲れるんだけど!」
「リエラちゃん、これすごい疲れるわぁ」
「大丈夫じゃ、数日もすれば慣れるからの」
「慣れるまでの辛抱かぁ……」
「安心せい、慣れたら負荷を上げるだけじゃ」
「リエラちゃん、スパルタだったのねぇ」
こうして雫と蒼ちゃんの悲鳴が午後ずっと森から止むことはなく、その日の訓練は終わるのだった。
「初日で疲れておるじゃろ、今日はわしが夕飯を作るからの」
そう言ってリエラちゃんが用意してくれたのはお肉のソテーとサラダ、それからスープだ。
「この肉は魔力回復に優れているのじゃ。これで明日からもがんばれるの」
うぅ、大変だけどがんばるわ……。いただきます。
お肉はとても柔らかくておいしかったわぁ。野菜もストレージで収納しているから傷まず、新鮮なまま食べられるわぁ。
ごちそうさまでした。
雫は早速覚えた食器洗いの生活魔術でお皿を洗ってみる。今日は練習ということで蒼ちゃんと半分ずつ洗う。
魔術言語は『水、流動、土塊』だったわね、それからお皿をから汚れを取るイメージをして、発動は洗濯と一緒でいいかしら。たくさんあっても覚えられないものね。
『ウォッシュ』
一枚飛んで行きそうになっちゃったけど、リエラちゃんが止めてくれた。よかった。
「ぬしら魔力量も多いのう、昼間あれだけやったら普通魔術は使えないんじゃが」
「そうなんだ?」
「うむ」
「多いに越したことはないわよねぇ」
「その分コントロールが大変じゃがの」
「「がんばります」」
「おっふろ〜♪おっふろ〜♪」
蒼ちゃんがご機嫌でお風呂の歌を歌いながらお風呂へ向かう。
「それじゃあ雫も一緒に入るわぁ」
「だめ!今日は一通り使い方覚えたいから別々に!」
「うぅ、蒼ちゃんが冷たい……。わかったわぁ」
「仲良くの」
そうして入っていった蒼ちゃんが出てきて、雫も先に入らせてもらう。魔術具の水晶玉に魔力を流せばお湯が出る……。そーっと流して……。
お湯のシャワーが出てきたわ。すごぉい。温度調節もできるのね。雫たちの国のお風呂と何も変わらないわ。
雫は出てきたシャワーを使って、髪用の石鹸で髪を洗う。それから石鹸で体を洗って湯船に入る。
やっぱりお風呂はいいわねぇ。一日訓練で疲れた体を癒してくれるわ。
今日はとっても楽しかったけど、疲れたわぁ。でも魔力って本当に色々なことができて、面白いわぁ。
リエラちゃんにお先にと挨拶をして髪を乾かす生活魔術を教えてもらう。『微風、纏う、髪』ね。雫はドライヤーをイメージしながら発動する。
『ドライヤー』
安直すぎかしらって思っていたら、蒼ちゃんも同じことを言ったらしくて、リエラちゃんに「ドライヤーってなんじゃ?」と聞かれたわ。
流石に疲れていたらしく、雫と蒼ちゃんは一足お先にベッドに行くことを告げて、リエラちゃんにおやすみをする。
二階に上がりながら二人で今日は疲れたねと笑い合う。明日からもがんばりましょうって蒼ちゃんに言ったら、「がんばろうね!」って返してくれた。嬉しい。
雫は蒼ちゃんにおやすみをして、ベッドに入る。そして昨日から新しくなった日記帳を取り出して表紙を撫でる。見るだけで嬉しくなっちゃうわ。ゆっくりと表紙を開く。
今日もとっても楽しかったわ。そんな一日を思い出しながら、雫は日記に手をかざす。
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