02. わしはリエラというものじゃ

 目を覚ます。今度は白い天井じゃなくて空が見える。鳥も飛んでる。

 えっと、神様に転移させられたんだっけ。頭がふかふかする。草の上か、土の上か。

 次に右手の感触を確かめる。お姉ちゃんの手の感触がある。右を見るとよかった、お姉ちゃんがいる。


「んん……っ」


 お姉ちゃんも丁度目を覚ましたところみたい。


「お姉ちゃん、起きた?」


 目を開いたお姉ちゃんが私の方を見て微笑む。


「おはよう、蒼ちゃん。綺麗な空ねぇ」


 私は言われてもう一度空を見る。起きた時に綺麗だなんて思う余裕がなかった。お姉ちゃんは本当にすごい。


「そうだね、綺麗」

「異世界に来たんだねぇ」

「そう、らしいね」

 

 私はまだ半信半疑だ。だからここがどこか、本当に異世界か確かめようとして上半身を起こして辺りを見回す。


「森の中? 私たちの周りだけ広場になってるみたいだけど」


 森の中にくり抜かれた円形の広場の中心に、私たちは寝ていたらしい。

 お姉ちゃんも身を起こして辺りを見回している。


「近くに村とかあるのかしらねぇ。雫、今すごいワクワクしてるの」

「私はそれより森の中だから迷わないか心配」

「ふふ、大丈夫よぉ。蒼ちゃんとならやっていけるわ」

「とりあえず、目印決めて歩いてみる……?」


 目印になりそうな大きな木などを探して再び見回すと、後ろの方からガサガサと音がした。私はビクッとしてお姉ちゃんに話しかける。


「な、何? 動物?」

「ウサギさんかしらぁ」

「ちょっとお姉ちゃんやめてよ。また変なウサギが出てきたらどうしよう」


 ガサガサという音が大きくなる。私はビクビクしながら、なぜかニコニコしているお姉ちゃんに抱きついて何かが出てくるのに備えた。

 音が止むと、森の中から出てきたのは人間だった。それも小学生くらいの身長の少女。銀色でウェーブしたロングヘアが陽の光に当たって、深い森の中の広場でもキラキラ輝いている。ライトブラウンのローブを着ていて、その下にはこんな森の中なのに、なぜかロリータファッション。いわゆる甘ロリの服を着ている。

 少女が私たちに気づいたようで、近づいてくる。私はお姉ちゃんから離れて身構えながら、少女をじっと見つめる。


「ラウラ、カスージェグラ」


 え? なんて言ったの? と思うと同時に、頭に膨大な知識が流れ込んでくる。あれ、分かる。今こう言ったんだ「ぬしら、こんな所で何してる?」って。

 お姉ちゃんも同じ事が起きたようで、珍しくびっくりして目を見開いている。きっとこれが神様の言ってた言語の能力だ。

 ここ、本当に異世界なんだって私がぼうっとしていると。


「雫たちは異世界から来てここに飛ばされたのぉ。私は雫。こっちはかわいいかわいい妹の蒼ちゃん。あなたは何ちゃん?」

「ちょっとお姉ちゃん!?」


 突然普通に自己紹介するお姉ちゃん。異世界から来たなんて言ったらきっと変な目で見られたり売られたりするんじゃ……。


「おぉ、異世界人とは珍しい。わしはリエラじゃ。この世界へようこそ、シズク、アオイ」

「何か普通……? 異世界人って知られたら、私たち捕まったり売られたりするんじゃ……」

「小説の読みすぎじゃな。この世界でそんな事するのは一部の国くらいで、この国は違う。わしもそんなつもりはない。この近くに住んでいてな。強い魔力と光が見えたから様子を見に来たんじゃ」


 一部では捕まるんだ、やっぱり気をつけないと。異世界人が売られる小説もあるんだ……。気になるけど……。それよりもこのリエラって子、小さい割に変わった喋り方ね。


「リエラちゃんは森の中で一人で暮らしてるの?」

「そうじゃよ。森に住んで魔術の研究をしておる。後こんな形じゃがこれでも十九歳じゃ」

「十九歳!? え! そんな小さいのに」

「かわいいわねぇ」

「そうじゃろう、これがパーフェクトスタイルじゃ」


 上半身を反って胸を張るリエラさん、私たちより年上……。老化しない人もいるって神様が言っていたし、リエラさんもそうなのかな。そういう事にしないと私の頭が混乱しちゃう。


「ところでこんなところで話も何じゃ、狭いが我が家に招待して話の続きといきたいが、どうじゃ?」


 提案してくるリエラさん。この世界の人って信用出来るのかな。そういう事も神様に聞いておけばよかった。どうしたらいいんだろうと私が悩んでいると。


「ぜひ行きたいわぁ。蒼ちゃんも行きましょう」

「お姉ちゃん、でもこの人が信用出来るかどうかなんて……」

「きっと大丈夫よぅ。全く悪意を感じないもの」


 こういう時のお姉ちゃんの勘は当たる。いつも天然でおっとりしていて壺とか買いそうなのに騙されない。だから、お姉ちゃんがそう言うなら信じていいかな。


「分かりました。お邪魔します」

「おぉ、よかった。では向かうとしようかの」


 森の中を、リエラさんを先頭に真っ直ぐ歩いて十分程、一人暮らしには少し大きいだろうレンガ造りの家が見えた。プレゼントを持ったおじさんが入れそうな煙突も見える。初めて見た。

 玄関にたどり着いて、リエラさんが扉に手をかざすと、扉が勝手に開き始めた。あれが魔術なのかな……。


「ここがわしの家じゃ。ちょっと狭くて片付いてないが、遠慮せず入っておくれ」

「お邪魔します……」

「お邪魔しまぁす。中も素敵ねぇ」

「その食卓の椅子にかけてくれ」


 家に入ると、所狭しと本が置かれていて確かに片付いてない。しかし食卓だけはその被害にあってはおらず、私たちは食卓の椅子に隣同士で座る。リエラさんは奥の台所へ向かって、両手をタクトのように振るう。するとティーポットとティーカップが宙に浮いて動き出す。空中でお茶が注がれ、そのままティーカップは私たちのそばに置かれた。いつのまにかソーサーも下に敷かれていた。


「わぁ、すごいわねぇ。これが魔術っていうものなのかしらぁ」

「魔術については知っておるのか。そうじゃな、これはわしが開発した生活魔術じゃ」


 そう言ったリエラさんは、カップに口をつけてお茶を飲む。これって毒見してくれてるのかな。そう思ってチラチラ見ていたら、不意にリエラさんがこっちを見て微笑んだ。


「ほれ、ぬしらも飲むとよい、茶葉には自信がある」

「いただきます……。本当、おいしい紅茶だわぁ」

「いただきます……。おいしい……」


 お姉ちゃんと紅茶をよく飲むから、色々飲んだつもりだったけどこれはすごくおいしい。それと、とても温まる。一息ついてカップを置くと、リエラさんが話し出す。


「さて、ぬしらは異世界から来たのじゃったな」


 私たちはリエラさんを見て頷く。


「おそらく転移したタイミングじゃろう、突然大きな魔力と光を見てな。森の中を探索すると、中に広場が出来ておった。その中心に人がいるのは魔術ですぐに分かった。それがぬしらじゃな。普通、突然そんなところに人は現れん。じゃからわしはぬしらに何か特別な事が起こって森にいると思った。したらぬしらは異世界人だという」


 私は頷くでも話すでもなく、リエラさんをじっと見つめる。お姉ちゃんはおいしそうに、マイペースにお茶を飲んでいる。


「わしがぬしらに接触した目的を話そう。異世界人はこの世界にくる時に、願いを叶えて貰えると文献で読んだ。勿論それが何かは言わなくてもよいが、ぬしらも何か叶えて貰ったのじゃろうな。よくあるのはこの世界で役に立つスキルやアイテム、武具を貰う事らしい。ところでわしはさっきも言うたが魔術を研究しておる。もしぬしらの願いがわしの魔術の研究に役に立つのなら手伝って貰いたいと思っておる」

「私たちへの報酬は何ですか?」

「この世界の常識、それからわしが識る限りの魔術、スキルを教えよう」

「もし、私たちのした願いがリエラさんの研究の役に立たないものだったなら?」

「ぬしらの世界の事を教えてほしい。この世界との違い、言語でも何でもじゃ。わしにとってはそれだけで価値がある」

「それって、願いを明かす必要ないですよね」

「そうじゃの。じゃが願いを明かして手伝って貰えると、わしはうれしい」

「蒼ちゃん、雫はいいと思うわよぉ。教えても」

「それ、お姉ちゃんの勘?」

「そう。リエラちゃん、雫たちに一度も悪意を向けなかったし、説明も信用出来るし、それに……」

「それに?」

「とぉっても、かわいいからっ」


 こういう時のお姉ちゃんの勘は当たる。なぜか双子なのに全く似てなくて天然だけど。だから、私も信じる事にした。


「分かりました。お姉ちゃんが言うなら私も信じます」

「そうか! うれしいぞ!」

「よかったわぁ」


 私はちょっと頭を抱えながら了承の意を示す。それを見てハイタッチしているリエラさんとお姉ちゃん。あなたたちなんでそんなにもう仲がいいの。


「じゃあ、この世界の常識と魔術教えてください。実際、魔術の適性は貰ったんですけど使い方が分からないし、覚えるのもレベルアップも努力次第って言われて困ってたんですよね」

「ふむ。どんなスキルがあるか見せてくれるかの? 手を前にかざしてこう唱えればよい」


『ステータス』


 リエラさんがそう言うと、かざした手の先に透明な画面のような、石板に似た物が現れた。何か文字も書いてある。


「この石板に覚えているスキルや能力が記されているという訳じゃ。じゃから、これを見せると何を覚えているか分かるという寸法じゃ。信頼を勝ち取るためにまずはわしのステータスを見せるとしよう。ほれ」


 私とお姉ちゃんはくるりとこっちに向けられたステータスの石板を覗き込む。


===========================

リエラ・リインフォース  女 魔術師

 【称号】

  知識の探究者

  -新たな魔術を生み出す事が出来る

  -他人の魔術を紐解く事が出来る

  -思考加速


 【スキル】

  上級風属性魔術

  上級火属性魔術

  上級水属性魔術

  上級土属性魔術

  上級聖属性魔術

  中級闇属性魔術

  中級空間属性魔術

  初級月属性魔術

  初級時属性魔術

  多重詠唱

  並列詠唱

  上級詠唱破棄

  上級魔力操作

  上級魔力感知

  上級調合

  初級料理

  上級状態異常耐性

  魔力向上

  魔力出力向上

  魔力消費減少

  不老

=========================== 


 称号ってよく分からないけどなんかすごい。それと、いろんな魔術を使えるのか。月魔術ってなんだろう。あ、やっぱり不老がある。

 私が頷きながら見ていると、お姉ちゃんもふんふんと頷きながら見ていた。


「リエラちゃん、いろいろ出来てすごいのねぇ」

「そうじゃろう、そうじゃろう」

「でも年齢不詳なんだね」

「それはステータスが載せてないからしかたないの。でも19歳じゃよ。確かの」


 いや、本当に見えないから……。私も自分のステータスを見てみようかなって思ってたら、先にお姉ちゃんがステータスを使ったみたい。


「蒼ちゃん、リエラちゃん、雫のはこんな感じよぅ」


===========================

長谷川 雫  女 異世界人

 【称号】

  聖女の奇跡

  -聖属性魔術の威力向上:中

  神の祝福


 【スキル】

  初級聖属性魔術

  初級魔力操作

  初級魔力感知

  成長向上

  不老

  言語理解

===========================


「回復魔術って言ってたけど、お姉ちゃん称号が聖女になってる」

「ふむ。聖女は回復を行う聖属性魔術の担い手として有名じゃ。シズクは回復に長じておるんじゃな。アオイはどうじゃ?」


 リエラさんに言われて私もステータスを開き、二人に見せる。


「こんな感じです」


===========================

長谷川 蒼  女 異世界人

 【称号】

  魔術師の奇跡

  -風、火、水、土属性魔術の威力向上:中

  -風、火、水、土属性魔術の適性追加

  神の祝福


 【スキル】

  初級風属性魔術

  初級火属性魔術

  初級水属性魔術

  初級土属性魔術

  初級魔力操作

  初級魔力感知

  成長向上

  不老

  言語理解

===========================


「アオイは称号もスキルも攻撃魔術に寄っておる。これは願った結果かの?」

「そうです。お姉ちゃんが回復をしたくて、私が攻撃をしたかったので」

「ぬしらの称号と、成長向上のスキルが気になるの。どれ程成長するのか楽しみじゃ」

「じゃあ私たちは合格ですか?」

「合格も何も、実は初めから教える気でいたのじゃ。楽しそうだしの。森で一人は、やる事が多いとはいえ暇なんじゃ」

「だったら何で森なんかに……」

「それは乙女の秘密じゃ」


 そう言って、にひっと笑うリエラさん。


「蒼ちゃんにも雫にも不老があるわぁ。これで安心して旅が出来るわねぇ」

「旅? どういう事じゃ?」

「あぁ、それはお姉ちゃんが……」

「どうせ異世界に飛ばされちゃうなら、せっかくだから蒼ちゃんと異世界旅をしたいなって思ったのよぅ。だから不老だと長い間体力もあると思って神様にお願いしたの」

「なるほどのぅ、そう言えば神様からは何かしてほしいと言われたのかの?」

「私たちがこの世界にくると、この世界の魔力が補充されるらしいです。後は好きにしていいって」

「じゃあ特にしなきゃいけない事はないんじゃな。まずはわしからこの世界の事を学ぶ。そして問題ないと判断したら旅に出る。こういう事でよいかの」

「そうですぅ」

「なら冒険者にでもなったらよいのぅ」


 憧れる響きがやってきた。思わず私は身を乗り出してしまう。


「冒険者! 私でもなれますか!?」

「うむ、なれるぞ。実力もわしが教えれば旅する分には大丈夫じゃろ」

「それで旅が出来るのねぇ。リエラちゃん、よろしくお願いしますぅ」

「リエラさん、これからよろしくお願いします」

「うむ。それよりもじゃ、アオイ。わしはリエラさんと呼ばれるのが好きではないのじゃ」

「リエラちゃん」

「シズクはそれでよいぞ」

「分かりました。じゃあ、リエラでいいですか」

「うむ、よいぞ」


 ちゃん付けで呼ぶのはなんか恥ずかしい。失礼かと思ったけどよかった。私、神様にもだけど割と失礼なんだな……。


「さて、明日からでも早速やるかの。今日は疲れたじゃろ、もう日も落ちるし晩ご飯を作るかの」


 そう言って台所へ向かうリエラ。私はお姉ちゃんと、お互いのスキルについて雑談していると、少ししてガシャーンと物が落ちる大きな音がした。


「リエラちゃん、大丈夫ぅ?」

「ちょ、ちょっと物を落としただけじゃ! 心配するでない! ごちそうを作るから待ってるのじゃ! ……普段は一人だからごちそうを作るのは初めてじゃが」


 その言葉に私はすごい不安を覚えた。これはお姉ちゃんが私に隠れて晩ご飯を作ろうとした時と同じ不安だ!


「……お姉ちゃん、私ちょっと手伝ってくるね」

「はぁい」


 お姉ちゃんにそう伝えて私も台所に向かう。案の定リエラはちょっとどころではないくらい物を落としていた。床が粉まみれである。


「これは、何を作ろうとしたんですか?」

「パンを焼こうとしたんじゃ。それとシチューを作ろうと思ったんじゃ」

「今からパン焼いてたら大変ですよ。ところで、酵母はあるんですか?」

「粉と水を混ぜて焼けばいいんじゃないのかの?」

「……私が作ります。パンは買い置きありますか? 後、使っていい食材を教えてください。この世界の食材は分からないので」


 パンはバゲットじゃないけどいいでしょう。渡されたパンしかないし。幸い、にんじんとじゃがいもは地球と同じだった。後ブロッコリーみたいな野菜と、干し肉を入れてミルクと塩で煮込む。コンソメがないなあ。あ、白ワインがある。黒胡椒使っちゃっていいのかなあ、いいや入れちゃえ。そんな感じでさっと作る。




「出来ました!」

「おお、おいしそうじゃのう」

「わぁい、蒼ちゃんのご飯おいしそう」

「私たちの世界が恵まれてるって分かりました。どうぞ」


 いただきますと言おうとしたら、リエラがお祈りを捧げている。


「お祈りするんですね」

「そうじゃの、この世界のわしらは唯一神の恵みによって生かされているからの。それに感謝するんじゃ。ぬしらはまだやる気が起きないじゃろう、すまぬが少し待っておくれ」


 そう言ってお祈りの続きをするリエラ。私とお姉ちゃんはそれを待つのだった。


「待たせたの、ではいただこう」


 そして私たちは食事を始める。うん、やっぱりなんか足りない。あ、でも干し肉の出汁は出てておいしい。


「アオイ、おぬし料理人だったのか?」

「うちはいつもお姉ちゃんと二人だったので、私がご飯を作っていただけです」

「蒼ちゃんのご飯はいつもおいしいのよぅ」

「でもお姉ちゃん、一味足りなくない? コンソメなかったから」

「食材の数が違うしねぇ。雫はこれもおいしいと思うわよぉ」


 コンソメもお肉と野菜を煮込んで作るから、食材の数と時間って事でこれも十分なのかな。でも二人がおいしいって言ってくれたからよかった。

 パンはすごい硬かった。シチューに浸してふやかして食べるらしい。ちょっともそもそするけど。それでも、初めての異世界食は雰囲気も合わさってとてもおいしかった。

 こうして食事を終え、食器も魔術でリエラが片付けてくれた後、私たちにリエラはこう言った。


「ぬしら入浴はどうする? わしは魔術で綺麗にして終わりじゃが」

「お風呂があるの!?」

「うむ、一応あるぞ。ただ魔力を使わねばお湯とならぬので、ぬしらじゃ水になってしまうが」

「出来ればあったかい方がいいわねぇ」


 私もお姉ちゃんも純日本人だ。当然毎日お風呂に入っていた。今も疲れているので湯船に浸かりたい。でも水風呂かぁ。まだ外寒いしなあ……。


「うーん、綺麗にする魔術って私たちにも使えるの?」

「勿論教えるぞ。ただ今日はわしがかける事になるの」

「面白そうねぇ。雫それにするぅ」

「アオイはどうする?」

「じゃあ私も魔術で」


 絶対に覚えてあったかい湯船に浸かるんだ! 私は決意を新たにするのだった。

 二人でリエラに洗浄魔術をかけて貰った後、私たちは客間に案内された。そこにはベッドが二台並んで、ちょっとしたホテルの一室みたいだった。


「すまぬ、着替えがないんじゃ。なるべく早く買いに行くから許しておくれ。それじゃ、おやすみじゃ」


 申し訳なさそうにそう言って、リエラは客間のドアを閉める。部屋に残された私とお姉ちゃんは、とりあえずベッドに並んで腰掛ける。


「何だか大変な事になっちゃったわねぇ」

「本当よ。まだ夢じゃないかって思ってるわ」

「雫は楽しみよぅ。蒼ちゃんと一緒だしね」

「私も、お姉ちゃんと一緒でよかった」

「蒼ちゃん、どう? やっていけそう?」

「まだ分かんない。でも……」

「でも?」

「新しい事がたくさんで楽しそう」

 

 そうねぇ、楽しみよねと言ってお姉ちゃんは私の頭を撫でるのだった。

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