遠距離恋愛

@Vunny

俺と彼女の最近

最近、投稿したYoutube動画の再生回数がすこぶる良くない。

Youtuberとして食っていこうとは微塵も思わないが、私生活を切り売りしているのに再生数45回とはどういうことか。

もう、誰も俺のことなど興味ないのだろうか。

それともいっそ、犯罪スレスレの行為で―――


「剣持さん。」

「あ、はい。」

「お会計、1480円になります。」


外に出ると雨が降りはじめていた。最寄りのコンビニで傘を買う。

バイトをクビになったので、今月は出費を抑えなければいけないというのに。

ただ生きてるだけで金がかかるというのは、本当に面倒だ。

医者は「酒など飲むな」というが、これが飲まずにやってられるか。

俺はビールを2本手に取って、カゴに入れた。

「シロじゃん、どしたの。」

顔をあげると、そこには先日別れた彼女の顔があった。

「病院帰り。」

俺は言葉少なくそう言うと、ちらりと彼女を見た。


髪を結った彼女はとてもかわいい。

それを見ながら、俺は先日彼女に投げつけた言葉を思い出していた。

ひょっとして。

「俺に髪型が変だって言われてたの、まだ気にしてる?」

「してない。」

「嘘、前と全然違う髪型じゃん。」

「シロって平気で人を傷つけるよね、そういうとこ変わってない。」

彼女はため息をついた。

シロ、というのは俺のあだ名だ。

付き合い始めた頃、俺が自分の名前「四郎」をあまり気に入ってないというと、優しい彼女は俺を「シロ」と呼んでくれたのだった。

「ごめん。」

「ほら、またそうやってすぐ謝る。本当は自分が悪いなんて思ってないんでしょ。」

「思ってるよ。」

「ねえ・・・本当に私のこと好きじゃないの?」

「今でも好きだよ。」

セックスでイケなかったくらい、どうだっていうんだよ。

俺は本当に彼女のことが好きなのに、愛しているのに、ただ一緒にいるだけでこんなにも幸せだというのに。


家に着く頃には、小雨は本降りへとかわっていた。

気分が落ち込んだ時は、ネットの友人とお喋りするにかぎる。

スマホの中で、カラフルなアイコンが流れるように表示された。

「おしょんべんしてきますわよ」

「いてら」

たわいのない会話、くだらないジョーク、しょうもない近況報告の数々。

延々と繰り返される毎日、吐き気がする。

それでも俺は、誰かと一緒にいることで、ギリギリ自分を保っていられるんだ。

時々、祖父くらいの年齢はあろうかという老人の裸体画像が貼られることもある。

やめてくれ。

あと、マンコからへそのゴマの匂いなんてしない。

俺は激しく降る雨の音を聞きながら、深い眠りについた。


「四郎、ひさしぶり!」

「ひさしぶり、黒江。」

黒江は高校の同級生で、幼なじみでもある。

大学へ進学しなかった俺にとっては、数少ない友人のひとりだ。

黒江は相変わらずだった。

銀髪に赤い瞳、チェック柄のリボンのついたフード、首にはハートのリングのチョーカー。

待ち合わせ場所の公園にまったくそぐわない、派手な格好だ。

俺は知り合いに見られてやしないかと、ヒヤヒヤしながら彼女に近づいた。

「元気ないじゃん。目の下クマがあるよ。」

「いや、これは明け方までチャットやってたから・・・」

「ごまかしても、ダメ。なんかあったでしょ?」

「マジなんだって。」


いきつけの居酒屋。

気がつくと俺は、今の生活のすべてを黒江にぶちまけていた。

「県内一の出身校の四郎も落ちぶれたよね。」

「うん。」

「でも、もう終わったんだ。」

「まだ彼女のこと好きなの?ぽえぽえ。」

「うん。」

「ふーん、、、高校時代イケメンであんなにモテてたのに、四郎って意外と一途だよね。」

黒江は冷めてしまったポテトをつまんだ。

俺は頭を抱えた。

「でも、もうおしまいだ。しにたい。」

「ぽえぽえ。」


しばらくして、黒江が口を開いた。

「あのさ、もし彼女との関係を最初からやり直せるボタンがあったらどうする?」

「え?」

「その名も、人生リセットボタン。」

「人生リセットボタン?」

「彼女とはじめて出会った日まで時間を巻き戻せるの!」

「とりあえず、ビットコインは買うと思う。」

「うわ、引くなぁ、、、」

でも、、、と俺は思う。

もし、本当にボタンが存在したとして、俺はそのボタンを押すだろうか?

もう一度、彼女との関係を一からやり直せたとして、これまで紡いできた俺と彼女の思い出はどこへ行ってしまうんだろう。

世の中には記憶喪失や認知症で、存在が忘れられてしまう場合もあることは理解している。

それでも俺は、彼女に若く未熟だったかつての俺を覚えていてほしい。

俺と彼女が過ごしたあの時間をなかったことにしたくない。


顔をあげると、黒江と目が合った。

にっこり微笑む。

「わかった?四郎は今すでに、どんな価値にも変えられないものを持っているの。そのことを忘れないでね。」

「そっか、、、そうだよな!!」

「ありがとう、黒江。ちょっと元気でたかも。」

「うんうん!」

「あとお前、また最近風呂入ってないだろ、臭いぞ。」

「人生リセットボタンぽちー!!!!」

黒江はおもいきり、俺の足を蹴り飛ばした。


ことの顛末。

なんてことはない。俺は彼女にきちんと謝って、時間をかけて話し合い、もう一度やり直すことになった。

これで、4294967296回目の復縁だ。

今回、奇跡的に彼女と復縁できたのは、彼女の気持ちにしっかり向き合った結果だと思ってる。

これまでの恋がそうだったように、永遠に続くかに思われたこの恋も、いつかは終わりがくるのかもしれない。

しかし、本当の終わりを迎えるその時までは・・・

そう思いながら、今日も俺はチャットルームにログインするのだった。


「ケンシロウさん(=゚ω゚)ノぃょぅ。辺境の地へようこそ!」


※元ネタ、デュラララチャット(仮)「Linux&雑談部屋」より

※元ネタ2、黒江=holoX所属の某Vtuber

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